登録手続が行われるか不明な時考えられるケース

1. はじめに

 以前、特許査定が出たばかりの出願について無効資料調査のご依頼があり調査を開始しようとしたところ、特許査定から30日以上経過してもJ-PlatPatの経過情報が更新されず、設定登録料が支払われたかどうかがわからず、このまま調査を進めていいのか躊躇したことがありました。そこで、今回、その場合の考えられるケースについて調べてみました。

2. 原則

 特許査定を受け取っただけでは特許権は発生せず、権利化のためには、特許査定の謄本の送達日から30日以内に特許料の納付を行う必要があります(特許法108条1項)。
 そして、特許料の納付手続きが行われたら、特許庁の処理完了後、J-PlatPatの「経過情報照会」は、翌日に反映されます(※1)。J-PlatPatに反映されて初めて第三者は、注目出願の登録手続きが行われたかどうかを把握できます。
 一方、特許料の納付をしなかった場合は、出願却下処分となります(特許法18条1項)。

3. 考えられるケース

3.1 設定登録料の払い忘れのケース

 まず、出願人が設定登録料を払い忘れて、特許査定から30日以上経過してしまったケースが考えられます。現在の特許庁の運用では、この場合、即座に出願却下処分となるのではなく、特許庁から「特許(登録)料の納付がありません」という通知(ハガキ)が届きます(※2)。権利化をする場合は、特許料を納付すれば登録されます。

3.2 出願人が権利化を望んでいないケース

 次に、出願人が権利化を望まず、設定登録料を納付しなかったケースが考えられます。この場合は、出願却下処分となります(特許法18条1項)。出願却下処分は、ケース3.1に記載の「特許(登録)料の納付がありません」という通知(ハガキ)後になされる関係で、第三者が、他社の出願が出願却下処分となったことがJ-PlatPatで把握できるのは特許査定が出てからかなり経過した後になります。

 ちなみに、出願却下処分となった60件を見てみた結果、下のグラフの結果となりました。下のグラフは、2022/7/1~2022/12/31の期間内に出願却下処分が下された出願の中から無作為に60件を抽出して調べたものです。結果は、特許査定から出願却下処分までの期間がいずれも3か月以上で、平均5.08か月でした。特許法上では“特許査定の謄本の送達日から30日以内”と定められていますが、実際は、設定登録料の納付をかなりの期間待ってもらえているようです。


特許査定発送日から最終処分日までの月数 (最終処分日:2022/7/1~2022/12/31)


3.3 期間延長の請求をしたケース

 また、出願人が納付期限を最大30日間延長する請求をしたケースが考えられます(特許法108条3項)。延長の請求をする場合は、特許(登録)すべき旨の査定又は審決の謄本の送達があった日から30日以内に「期間延長請求書」を提出する必要があります(※3)。
 「期間延長請求書」を提出したかどうかはJ-PlatPatで確認できるので、第三者は注目出願の登録手続きが行われることを予測することができます。

3.4 不責事由があるケース

 その他、不責事由があって納付手続きが遅れているケースが考えられます。不責事由がある場合は、手続が可能となってから14日以内であって、所定期間経過後6月以内であれば納付ができます(特許法108条4項)。
 例えば、特許庁は、新型コロナウイルス感染症の影響により、指定された期間内に手続ができなくなった場合も、不責事由として認められ得る旨を広報しています(※4)。

3.5 包括納付(※5)の対象のケース

 最後に、包括納付の対象であるケースが考えられます。包括納付制度は、事前の申し出により自動的に予納台帳または銀行口座から特許料を徴収し、設定登録を自動的に行う制度です。
 包括納付の場合、第三者がJ-PlatPatで確認できるのは特許査定から30日以上経過してからになります。これは、口座等から特許料が引き落とされるタイミングが特許査定の発送の30日後で、引き落とされた後に、特許査定の発送の13日後の日付に遡って登録料納付の日付が記録されることによるものです。

4. おわりに

 冒頭のケースは、ケース3.5の包括納付の対象の出願に該当しました。
包括納付の場合は、上述のとおり、第三者が、注目出願の登録手続きが行われたかどうかをJ-PlatPatで把握できるのは特許査定から30日以上経過してからになります。私が体験したケースでは、実際にJ-PlatPatで確認できたのが、特許査定から40日以上経過していました。これは金融機関の口座等からの引き落とし日が土日祝日である場合や、引き落とし後の確認等の手続きで日数を要していると思われます。

 このように、包括納付は、口座引き落とし日である特許査定から30日経過後に速やかにJ-PlatPatで確認することは難しいですが、注目出願の出願人が包括納付制度を利用しているかどうかを調べることにより、J-PlatPatの経過情報が更新されるのを待たずに、第三者は、注目出願が登録されるかどうかを推測することができる場合があります。
 例えば、注目出願の出願人の別案件で登録になったものの出願番号等を調べ、J-PlatPatの経過記録の登録記録の欄に、特許料納付書(包括納付)と表示されているものがないかを調べます。特許料納付書(包括納付)と表示されていれば、包括納付の対象であったことがわかります。そして、包括納付の対象であった別案件の出願人および代理人の表記と、注目出願の出願人および代理人の表記が完全一致している場合、注目出願が包括納付の対象の可能性があると推測することができます。

 ここで、包括納付の対象となる出願であるかどうかの特定方法(※5)は、出願人等が包括納付申出書において、以下のA~Cのいずれを選択したかによるため、その出願人の出願全てが包括納付の対象となるとは限りません。しかし、Aの場合は、BかつCであるため、包括納付の対象となる出願の特定方法がBまたはCであっても包括納付の対象となり得、上記推測が可能となります。ただし、包括納付の対象となっている出願を、包括納付の対象から個別に除外することも可能であるため(※5)、包括納付の対象から除外されている可能性もあります。

A.特定出願人と特定代理人とで出願を特定
B.特定出願人のみで出願を特定 
C.特定代理人のみで出願を特定

 結局、ケース3.1~ケース3.5のうち、ケース3.3(期間延長の請求をしたケース)と、ケース3.5(包括納付の対象のケース)については、注目出願の出願人が権利化する意思があるかどうかを、特許査定から30日以内に予想することができそうですが、ケース3.1(出願人の設定登録料の払い忘れのケース)、ケース3.2(出願人が権利化を望んでいないケース)、ケース3.4(不責事由があるケース)については、こまめにチェックするしかなさそうです。

調査事業部 海老名

参考URL
※1:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c0500
  FAQ(よくある質問と回答)/サービスから選択/経過情報
※2:https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/settei_nagare.html
※3:https://www.jpo.go.jp/system/process/toroku/noufu_kikanencho_seikyusho.html
※4:https://www.jpo.go.jp/news/koho/info/covid19_tetsuzuki_eikyo.html
※5:https://www.jpo.go.jp/system/process/tesuryo/nohu/houkatunouhu.html

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