治療用アプリ関連特許

1. はじめに

 「治療用アプリ」(注:「治療アプリ®」はCureAppの登録商標)は、医師の処方により患者のスマートフォンにインストールして用いられるプログラム医療機器で、「デジタルセラピューティクス(DTx)」とも呼ばれています。国内ではCureAppのニコチン依存症治療用アプリと高血圧症治療用アプリ、サスメドの不眠症治療用アプリが、それぞれ薬事承認されており、製薬大手各社も様々な疾患・症状に対する治療用アプリの開発を進めています。
 本稿では、上述のCureAppとサスメドの特許を例に、治療用アプリ関連でどのような特許出願がされているか、またそれらの特許にどのような特許分類が付与されているかについて紹介したいと思います。

2. 治療用アプリ自体の特許


■特許第7151987号

(CureApp:禁煙患者のためのプログラム、装置、システム及び方法)

【請求項1】
禁煙患者のために使用されるプログラムであって、コンピュータに、患者による喫煙の有無を示す申告情報の入力を受け付ける段階と、喫煙状態を示す生体指標の濃度を測定する生体指標濃度測定器によって測定された前記患者の生体試料の生体指標濃度測定値を取得する段階と、前記生体指標濃度測定器によって決定された生体指標濃度測定値の測定時間を示すタイムスタンプを取得する段階と、前記生体指標濃度測定値、前記タイムスタンプが示す測定時間及び生体指標濃度基準値に基づいて、前記生体指標濃度測定値と前記申告情報との整合性を判定する整合性判定段階と、整合性判定結果に基づいて、前記患者に対して実行する禁煙治療法のための禁煙治療情報を生成する段階と、前記生成された禁煙治療情報を提示する段階と、を実行させ、前記整合性判定段階は、前記生体指標濃度測定値、前記タイムスタンプが示す測定時間及び生体指標濃度基準値に加えて、前記申告情報より前に取得され、コンピュータに記憶された過去の申告情報に基づいて、前記生体指標濃度測定値と前記申告情報との整合性を判定することを含む、プログラム。

特許第7151987号


 上記特許では 、患者による喫煙申告と生体指標濃度(CO濃度)測定値との整合性を判定し、その結果に基づいて適切な禁煙治療情報の提供を行うことが記載されています。
 上記のような治療用アプリに関する特許には、下記の特許分類(IPC/FI)が付与されていることが多いです。(太字部分。下位分類を含む。以下同様。)

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G16H ヘルスケアインフォマティクス,すなわち,医療または健康管理データの取扱いまたは処理に特に適合した情報通信技術[ICT]

G16H10/00 患者関連の医療または健康管理データの取扱いまたは処理に特に適合したICT

G16H20/00 療法または健康改善計画に特に適合したICT

G16H50/00 医療診断,医療シミュレーションまたは医療データマイニングに特に適合したICT;伝染病またはパンデミックの検知,監視またはモデル化を行うために特に適合したICT
G16H50/20 ・コンピュータ使用による診断のためのもの
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 また概念的にはかなり広いですが、下記の特許分類も、上記と併せて付与されていることがあります。

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G06Q 管理目的,商用目的,金融目的,経営目的または監督目的に特に適合した情報通信技術[ICT];他に分類されない,管理目的,商用目的,金融目的,経営目的または監督目的に特に適合したシステムまたは方法

G06Q50/00 特定の業種のビジネスプロセスの実施に特に適合した情報通信技術(ICT)
G06Q50/10 ・サービス業
G06Q50/22 ・・社会福祉事業
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■特許第6928413号

(サスメド:不眠症治療支援装置、不眠症治療支援システムおよび不眠症治療支援用プログラム)

【請求項1】
ユーザの就寝時刻、入眠時刻、覚醒時刻、起床時刻を示す情報に基づいて、上記ユーザの睡眠効率を算出する睡眠効率算出部と、上記睡眠効率算出部により算出される上記睡眠効率に基づいて、目標の就寝時刻を設定して上記ユーザに通知する就寝時刻設定部と、上記就寝時刻設定部により設定された目標の就寝時刻を上記ユーザが所定期間内において遵守しているか否かの状況を表す遵守状況指標値を算出する遵守状況指標値算出部とを備え、上記就寝時刻設定部は、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が第1所定値未満であり、かつ、上記遵守状況指標値算出部により算出された上記遵守状況指標値が閾値以上の場合、前回設定された就寝時刻よりも遅い時刻を次回の就寝時刻に設定し、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が上記第1所定値未満であり、かつ、上記遵守状況指標値算出部により算出された上記遵守状況指標値が上記閾値未満の場合、前回設定された就寝時刻と同じ時刻を次回の就寝時刻に設定し、上記睡眠効率算出部により算出された上記睡眠効率が第2所定値以上の場合、前回設定された就寝時刻よりも早い時刻を次回の就寝時刻に設定することを特徴とする不眠症治療支援装置。

特許第6928413号


 上記特許では、不眠症治療支援として、睡眠効率と目標就寝時刻に対する遵守状況指標値との関係に応じて、次回の目標就寝時刻を設定することが記載されています。
 なお特許分類については、下記が付与されていました。

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A61B 診断;手術;個人識別

A61B5/00 診断のための検出,測定または記録
A61B5/16 ・心理検査のための用具;反応時間の検査
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 上記のような所定の疾患・症状の治療用アプリに関する特許には、G16HなどのICT関連の特許分類ではなく、A61B、すなわち治療のための診断・測定に関する分類が付与されているケースもあります。

3. 治療用アプリの周辺技術特許


■WO2021/210412

(CureApp:治療用アプリケーション管理システム、治療用アプリケーション管理方法、治療用アプリケーション管理プログラム、及び端末)

【請求項1】
医療従事者が患者に処方する治療用アプリケーションを示すアプリIDと、前記治療用アプリケーションの処方対象となる患者を識別する患者IDと、前記治療用アプリケーションを使用することができる期限を示す使用期限情報とを、取得する取得部と、前記治療用アプリケーションを識別するアプリIDと、前記患者IDと、前記使用期限情報とを対応付けて記憶部に登録する登録部と、日時情報を計時する計時部と、前記計時部が計時した日時情報が、前記使用期限情報により定まる日時を経過している場合に、患者の端末に送信されている前記治療用アプリケーションの使用を制限する制限部と、を備える治療用アプリケーション管理システム。

WO2021/210412


 上記特許では、患者IDと紐付けて使用期限が過ぎている治療用アプリの使用を制限するといった、アプリの使用管理に関する内容が記載されています。
 上記のような治療用アプリの管理に関する特許には、上述のG16H10/00G16H20/00が付与されている場合もあれば、下記の特許分類が付与されている場合もあります。

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G16H ヘルスケアインフォマティクス,すなわち,医療または健康管理データの取扱いまたは処理に特に適合した情報通信技術[ICT]

G16H40/00 ヘルスケア資源または設備の管理または運営に特に適合したICT;医療機器または装置の管理または操作に特に適合したICT
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■特開2022-49590

(CureApp:情報処理装置、情報処理方法及び情報処理プログラム)

【請求項1】
患者端末における医療に関する入力に基づく入力情報を受け付ける受付部と、患者に対する医療に関する返答が異なる複数のチャットボットのうち、患者に応じて少なくとも1つのチャットボットを選択する選択部と、前記選択部によって選択されたチャットボットの特性に応じて、前記受付部によって受け付けた入力情報に対して医療に関する返答するための返答情報を取得する取得部と、前記取得部によって取得した返答情報を前記患者端末に送信する通信部と、を備える情報処理装置。

特開2022-49590


 上記特許では、患者の嗜好性などに応じて適したチャットボットが選択され、医療に関する返答を行うことが記載されています。
 上記のような治療用アプリにおけるコミュニケーションに関する特許には、上述のG16H20/00が付与されている場合もあれば、下記の特許分類が付与されている場合もあります。

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G16H ヘルスケアインフォマティクス,すなわち,医療または健康管理データの取扱いまたは処理に特に適合した情報通信技術[ICT]

G16H80/00 医者,患者の間のコミュニケーションを容易にするために特に適合したICT
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■特許第6530578号

(サスメド:不正検知システムおよび不正検知装置)

【請求項1】
データの送信元である複数の送信装置と、分散型ネットワークにより接続された複数のノード装置と、上記複数の送信装置から送信されたデータを上記複数のノード装置へ中継する複数の中継装置と、上記中継装置で行われている不正行為を検知する不正検知装置とを備えた不正検知システムであって、上記複数の送信装置は、所定の送信ルールに従って、上記複数の中継装置の少なくとも1つにデータを送信し、上記不正検知装置は、上記複数の中継装置が処理しているデータまたは当該データの処理状況を分析する分析部と、上記分析部による分析の結果に基づいて、上記所定の送信ルールに反する態様でデータを処理している中継装置を、不正行為を行っている中継装置として検出する不正検出部とを備えたことを特徴とする不正検知システム。

特許第6530578号


 上記特許では、送信装置(ユーザ端末)から中継装置を介して送信したデータを、分散型ネットワークにより接続された複数のノード装置(ブロックチェーン)に記録するシステムにおいて、ノード装置にデータが記録される前の中継装置で不正行為を検知できるようにすることが記載されています。請求項上では特に治療用アプリに関連するような記載はありませんが、明細書中の実施形態において治療用アプリを搭載したユーザ端末が記載されています。
 上記特許には、治療用アプリに関連する特許分類は付与されておらず、下記の特許分類が付与されています。

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G06F 電気的デジタルデータ処理

G06F21/00 不正行為から計算機,その部品,プログラムまたはデータを保護するためのセキュリティ装置
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4. おわりに

 以上、CureAppとサスメドの特許を例に、治療用アプリに関する特許について紹介しましたが、アプリ自体の他に、アプリの管理・コミュニケーション・不正防止など様々な周辺技術に関する出願がされており、付与されている特許分類も様々です。
 治療用アプリに関する特許調査を行う際は、G16HなどのICT関連の特許分類に加え、対象とする疾患・症状の診断・測定の観点からも特許分類の使用を検討するとよいと思われます。また周辺技術の特許調査を行う場合は、それぞれのコアとなる部分の技術を踏まえた特許分類を併せて検討することで、漏れの少ない調査に繋がるものと思われます。
 海外も含め、今後更なる開発が進んでいく分野と思われますので、引き続き動向を注視していきたいと思います。

調査2部  藤田


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