ウエディングペーパーアイテムのデザイン2
作品事例07: 赤とシルバー、龍にカボチャ
歴史的建造物でのウェディングパーティのアイテム
式次第、メニュー、二人からの挨拶、建物の説明を記載
回遊式パーティにつき、ゲストが持ち歩きやすいサイズに
赤とシルバーを使って、龍にカボチャを持たせて下さい。あとは自由に。
「知り合いがデザイナーさんを探してるんです。あさえさんにおつなぎしても、良いですか?」
そう取引先の従業員の方から声をかけられ、まもなく新婦となるクライアントを紹介して頂いた。
ウエディング業界に長く従事され、独立するタイミングのその方と、土曜日の昼下がりに有楽町で初めてお会いしたのだった。見た目も話す内容も、理知的な人だった。
彼女の要望はとってもはっきりしていて、かつシンプル。
大人の恋人達からのそのオーダーは私の心を浮き立たせた。新郎さんは建築家。きっと目が肥えてるだろう。しかも会場は歴史的建造物の小笠原伯爵邸だ。
よくウェディングにあるロマンティックな感じ甘いテイストのデザインではなく、洗練されていて上質感のあるものにしないといけない。
さあ、どうしよう?
やっぱりここは、素材だよね。デザインはシンプルで、素材に凝りたい。なんでも作れるのだったら、シルバーの紙かアクリルなどを使ってみたい!でもちょっと待って。龍を使うことが必須なんだよね。龍か。描く、のか…。
イラストは得意じゃないけど。描けるか自信ないけど。
描いてみよう。
1.龍を描く
というわけで、最初にやったのは龍のイラストを描くこと。
龍の図案集を2冊買い込み、目についた龍のモチーフのものなどを参考にし、見よう見まねで下書きをして、イラストレーターでトレースをしていった。
輪郭線を別色ではっきり見せるか・見せないかで迷ったけど、大人っぽい仕上がりにしたかったので塗りになじませ、輪郭線は無しで描くことに。
自分としてはこの龍のタッチに、カボチャを合わせるのが一苦労。ベジェ曲線をアウトライン化し、ちょっと切り絵ふうの均一でない不揃いな線に丁寧にアレンジしていった。
2.仕様を考える
龍を描いたあと、仕様を3パターン考えてデザインを提案。ハロウィンナイトが裏テーマだったので「月、月の光」をコンセプトに仕様を考えていった。
A:
用紙を丸く型抜きして3枚綴りにするデザイン。バック制作の時に使用した、ラインストーンが埋め込まれたカシメで留めて3枚をまとる想定で。
B:
丸く型抜いた透明のアクリル板にシルク印刷で1C刷りにするデザイン。これは見積もりが高額になりすぎて(今のように手軽にレーザーカッターが使えるような場所もなかったので)、まず無理だと思ったけれど提案だけはしてみた。
C:
この記事に掲載している写真のデザイン。
厚みのある銀色の特殊紙(裏は白)表面に黒と赤の2色印刷、裏面はお二人の写真が小さく入るためフルカラー4色印刷。
表紙を少しずらした「開き観音折」で右側に細く黒のラインを見せる。
型抜きした切り込み線に細いリボンを通し、蝶結びして仕上げ。水引のイメージだった。
リボンを開いてもらう一手間に、こだわった。
リボンを通す・結ぶのは自分で手作業。切り込み線が天地4mmの長さだったので、リボンを通すのは案外大変で、前述の記事に登場した“T”にも手伝ってもらい、納品分の200部を仕上げたのだった。(今、思い出した)
当日は私も招待して頂き、特別な時間を堪能させてもらったのだけど、建物も音楽も演出も料理も、新郎新婦のホスピタリティも。すべてが完璧で素晴らしい夜だった。
食事は着席でなくゲストが自由に会場中を歩き回り、部屋も行き来しながら食事を楽しめるピンチョススタイル。スタッフがひと口サイズのフード、ドリンクを持って回ってくるので自分で取りに行かなくて良い。
かしこまらずに、会話をゲストに楽しんでもらいたいという新郎新婦の気持が根底にあった。
その気持を少しでも汲むために、私が意図したのは
「ゲストの邪魔にならないサイズ感」でアイテムを作るということ。
女性がパーティバックやサブバックにサッと入れられて
男性はポケットに入れられる細めのサイズ。
出し入れしても、くちゃくちゃにならない程よい厚みと、控えめで品のある光沢感。
すべてをクリアできて、自分としても納得!!!!のアイテム。
綺麗なものを作りたい、紙にこだわりたい
このアイテムを作れたことは
「紙にこだわっって綺麗なものを作りたい」という私の芯にある望みを叶えてくれた。
個人事業主の私に「個人の方から」頂いたという点では、おそらく初めての「仕事」。
一般的な商業印刷から離れたところだったら、なんの制約もなく
その方さえ納得してくれたら、こういうことも自由にできるんだ
と、確信を得ることができて
できることなら、一生、こういうものだけ作っていたいと思うに至るきっかけとなった。
そんなことは無理だって
その時はすぐに気持ちをかき消したけど
20年近くかかって少しずつ、そちらに舵を向けられるようになっている。
このパーティの日、受付を通ると
描けるか分かんないけど、描いてみよう。
そう思って頑張って描き上げた龍の、1M以上はある大きな氷の彫像が、厳かに部屋の中央に佇んでいた。
作らせて頂いたこと、今でも深く感謝しています。