公民連携事業を進めるための心得
「公民連携を進める公務員の心得10か条」
大東市政策推進部長兼公民連携推進室長
特定非営利活動法人 自治経営 理事長
東 克宏
今でこそ法人理事長の職にあり、各地でお話する機会をいただいている身ですが、7年前は受け身で「へたれ公務員」であったことは一部を除いてあまり知られていません。現在も基本「へたれ」、「モテない君」なんですけど、これまでの過程で「公民連携」ってこれ、必要ちゃうかなって感じたことを書きなぐってみました。
第1条 諦めるな
とある10月の休日、市長に無理やり連れていかれたセミナーの内容は「稼ぐ公民連携」。オガール、アーツ千代田の事例を聞いた市長は「これをやれ!」と一言。聞いたこともない私は取り敢えずセミナー講師である狂犬木下斉氏にメール。無視、送信、無視、送信、無視を繰り返し、やっと半年後「メールマガジン購読しろ」→即効購読。その後相談内容をメールで聞いてくださるようになり(実際は窓口の村瀬さんと)、そのうち「職員研修にいってやる(実際はもっと優しいお言葉)」
翌年の5月、ようやく狂犬は岡崎正信さんとともに大東市に来ていただけました。諦めずに粘り強く交渉することが大切と気づくとともに忙しい方にものを頼む作法を学んだのです。えてして行政は上から目線で民間の方に依頼しがちで先方の貴重な時間を奪っているという感覚が欠如しています。公民連携では逆算の思考が必要なのが民間とのお付き合い始めから必要です。
第2条 自腹を切れ
「もっと詳しく知りたければこれに入れ」研修後、渡されたチラシには“公民連携プロフェッショナルスクール開校」の文字。50歳を過ぎ、部長にもなれば定年まで自動運転でいけば「大過ない」公務員人生を過ごせる誘惑にかられつつも、「大東市はこのままでいいのか、悔いはないのか」と自問。娘たちが楽しみにしていたディズニー貯金を泣く泣く取り崩し入校したスクール、
これが大きな転機になりました。修了後も現役生の合宿にはほぼ毎回参加しています。これらもちろん自腹です。50歳を過ぎても学び続ける必要、大切さ、アップデートできる喜悦を感じるには自腹を切って貪欲になること。なにごとにも代えがたいことですよ。
第3条 恥ずかしがるな
公民連携事業を始めようとするあなた、講演会に参加あるいは各種スクールに入校したりすると楽しみは終わった後の懇親会(コロナ禍では難しくなりました)。
その際によく見かけるのは講師陣が固まって飲んでいる場面。確かにマスターの皆さんが一堂に介する機会は滅多になく、互いに近況報告されるなど話も格段に面白い。
そこを思い切って真ん前に座る勇気、度量がなければ公民連携でいい民間と出会い、接触し、相談する機会など持てようもありません。
考えてもみてほしい。講師で呼べば目玉が飛び出すくらいの値段の講演料を支払うマスターの話を直で聞ける機会などないのです。
ヘタレな私はこのことを肝に銘じ、どんな時もぽっかりと空いている狂犬の前列に恐る恐る着座してはくだらないけど面白すぎる会話に耳を傾けてきました。とはいえ時に珠玉のフレーズが飛び出しますから、もうそれだけで一生ものですよ。
でも注意することが一つ、自分アピールで一方的にしゃべり続けることはNG。ここでも.貴重なマスターの時間を奪ってはいけません。マスターが幸せな時間を過ごせるように傾聴し、合いの手を入れ場を盛り上げることに徹する。
人見知り、引っ込み思案、引きこもりの3重苦で公民連携界の自称ヘレンケラーである私でも勇気を振り絞って座ってみれば、世界は変わります。
もし、気弱な方がおられたら私にお声をおかけください。素敵な女子限定で講師陣のお席にご案内いたします(笑)
第4条 脳みそに汗をかくべし
あなたに改革意欲があり、現状を打破したいと思うならば「何のために」
「何をするか」をもう一度自分でしっかりと考えて、取組を進めてみましょう。
人口減少、少子高齢化、老朽化する施設群、顕在化している問題だけを見るのではなく、私の場合、公民連携の推進は、地域経済の好循環、財政負担の抑制など複数の課題解決でもあるのだけど、深層的な課題は「依存体質からの脱却」。水害、それに起因する赤字日本一による誰かに依存する体質、市民は行政に、行政は国に、あるいは大阪市をキャッチアップし、施策事業を模倣して周回遅れのまちづくりを当たり前のように受け入れていた「コバンザメ」的な立ち位置を変えたかった。
「自分でつくったまちで住む」という公民連携の思想は流行に乗ったものではなく、良く効く処方箋なのです。
第5条 師の言葉は絶対である
体育会系の上下関係ではなく、師弟関係に年齢、年次、学歴、性別など全くありません。進めているプロジェクトが一昨年、銀行融資が白紙になり、道を断たれかけた時にヨーダこと清水義次氏にお会いしました。
「東さん、お金は何とかなりますよぉ~必要な金額を紙に書いて畳んで枕の下に差し込んで寝ればいいんですぅ。」
いや、いくらヨーダとはいえ、いくらなんでもそれはないでしょ、魔法じゃないんだからと半信半疑でしたが、その晩から2週間、言われた通りして寝ると、なんと一度断られた銀行と復縁することになり、「フォースってあるんだ」と感心した思い出が。
木下斉氏は20歳くらい年下ですけど、一度も若造とか感じたこともなく、今でもたまにめちゃ怒られますけど、その教えは的確でよくパクッて、さも自分の発言がごとく使っています。
習い事の極意としての「守破離」。
公民連携にしろなんにしろ、その道の実践者が「こうしたら」とアドバイスされたら教えを守り、ひたすらやることです。自分で曲解してアレンジなんていりません。言われた通り実行するのは苦しいし、つまらないこともあるでしょう。けど、デッサンもできないのにキュービズムも写実もないのです。そんなのただの落書き、一銭の価値も認められません。
第6条 過ちを認める
2015年5月岡崎さん、木下さんに初めて大東市に職員研修で来ていただいた同時期に国の先導的官民連携モデル事業採択を受け、市営住宅建替えを契機にしたエリア向上策、小学校跡地の利活用をプロポーザル方式で某銀行系コンサルに委託しました。
この時点では正直某コンサルとお二人は同じレベルとの認識(すみません)。
その後、PPPスクールで学びを深めるにつれ、コンサルの意見が全く絵に描いた餅でおまけにオガールに取材したと、誤ったスキーム図を提示しお金の流れの矢印の向きが逆だと何度指摘しても馬鹿にした顔つきで認めようとしないので、「今から岡崎さんに電話して確認しましょうか?」
私はコンサルに委託した税金1,700万円、溝に捨ててしまいました。
あの委託は完全に過ちであり、戒めとしてその後に活かしています。
第7条 諦めるな その2
公民連携で最も肝なのが「ファイナンス」。
内定していた銀行融資がおじゃんになり、白馬の騎士と期待した別の銀行にも土壇場で断られ絶体絶命に陥った時、まちづくり会社の入江社長と二人、戦意喪失、茫然自失状態になってゲームセット寸前まで追い込まれました。
でも“諦めるな”という教えを共に思い出し、自然と「もう一回断られた最初の銀行にあたってみよう」とその場で電話。よく喧嘩別れし音信不通になっていた銀行に連絡したと今思えばしますが、地元で調整をしてくださった方から言われたことも思い出し、遮二無二に動くしかないと。
「お前は失敗しても定年で奈良に引っ込んでいれば何もないが、俺は生まれてずっとここから離れたこともないし、これからも住み続けなければならない運命やねん。失敗したら十字架を背負って生きていかなアカンねんぞ。」
いろんな人の想いを形にすることが公民連携の醍醐味でもあります。
第8条 正しいことをしたければ偉くなれ(市長とコミットしよう)
公民連携だけでなく、行政の中で「正しいこと」をしたいと思えば、中枢部門、意思決定権のある人とコミットしなければなりません。
私はたまたま新採時に企画調整課という総合計画、行革所管課に配属されて初めから首長レクなどの場を経験させていただきましたが、一方で優秀な職員集団の中でいかに認められるかを模索してきました。
入って5年くらいはまさに雑巾がけ的仕事ばかりで色鉛筆で用途地域を塗らされたりコピーを一日50回くらい取らされたりと。つまらない仕事の中で「新聞記事のスクラップ回覧」があり、先輩が選んだ記事を切り取って裏紙に貼って回覧するという単調な事務ですが、ただ回しているだけで何の意味があるのだと疑問に思い、切り取った記事の横にコメントを書くようにしました。
それが当時の部長の目に留まり、次の年の施政方針のライターに抜擢。施政方針となると市長、副市長、部長と接する機会も増え、その都度中枢がどうしたことを求めているのかを見極め、期待値の120%くらいを狙って仕事を進めました。
今の市長とはJC理事長の時からのお付き合いで、市長に就任されていの一番の命令が「大阪桐蔭高校の名前を大東桐蔭高校に変えてもらえ!」
星の数ほどの無理難題を聞いてきた蓄積とそれなりの成果によって、公民連携事業をいざ始める際にもオガールへの出向はじめ予算、人事で配慮いただております。
「人工衛星を飛ばせ!」という命令は8年間放置していますが(笑)
第9条 本業をしっかりとする
煌びやかなマルシェ・マーケット、リノベーションしたカフェ、家守事業、水辺利活用など公民連携事業にはわくわくする事業がたくさんあります。
取り組むとしんどいことはありますがやっぱり楽しい。やりがいを感じられることが多いですよね。かといって本業、公務員であることを忘れてはいけません。やりすぎはもちろん、担当する業務は公民連携事業だけではないはず。むしろメイン業務があってプラスの業務が公民連携事業の方が多いはず。
役所・役場内では公民連携事業がすぐに理解され諸手を挙げて歓迎されることはまぁありません。うまくいっているようでも、いつ足元をすくわれるかは一寸先は闇。本業を150%くらいしっかりとこなしていればすくおうとした足払いをかわすことができます。案外これができていない公務員が多いように見受けます。誰にも後ろ指さされないように好きな仕事だけをするのではなく、与えられた仕事をまずやり抜きましょう。
第10条 固有名詞で生きよう!
PPPスクール最終日、修了証書を授与された時に「ひがし・かつひろ殿」と岡崎正信さんに呼ばれた私。名前も覚えてもらえず終わってしまったことを後悔し何とかしなくてはということで講師陣に何かと接近。OBOG会の結成やスクール周りの雑用などをこなし徐々に覚えてもらうようになりました。
ミネソタ出身で今は大阪市喜連瓜破の場末のチーママというペルソナ「キャサリン」とか売名行為もやりましたけど、原則は本業を講師のアドバイスをもらいつつ、しっかり進めたことが一番の決め手だったと思います。
おまけ
この本業=公民連携事業を進めることは実は行政内では簡単なことではありません。書いてきた庁内力学、既得権益者との調整、議会対応、地元住民の理解など乗り越える壁はいろいろとありますが、公務員の最大の壁は「組織」
私も公務員組織の一員、駒、杭であることを忘れることはありません。属人的な固有名詞としての動きと組織の駒という体制のバランスがまさに公民連携の妙味といえるかもしれません。個が強すぎると組織から弾かれ、個を消すと市民から疎まれといい塩梅をこれからもはかっていこうと思います。
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