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2025年1月の良かったもの
2025年から、ひと月ごとに良かったコンテンツを書いていく習慣をつけていこうと思います。小説、映画、音楽のごった煮です。それではやっていきましょう。
同志少女よ、敵を撃て / 逢坂冬馬
第二次世界大戦を舞台にした戦争小説と覚悟して読み始めたが、ヤングアダルト向けのシスターフッドもののような感覚でスラスラ読めた。とはいえ戦争ものに変わりはなくバタバタと人が死に、そして主人公たる少女たちもまた狙撃兵として人殺しに加担していく。戦争という異常な状況の下、勝者と敗者、兵士と民間人、ロシア人とドイツ人、男と女が殺し、怒り、憎しみ合う。そんな戦場の中で、恥ずべき汚点としてまるで独ソ両軍とも示し合わせたかのように性犯罪が蔑ろにされていく。しかし、戦争を生き残った少女たちはその凄惨な現場と「敵」を目撃していた。あくまでフィクションたる物語の中で「同志少女よ、敵を撃て」の「敵」とは何なのかが、本作のキモでありクライマックスだと思う。
刊行当初から話題になっていたのは知っていたが、この本を何より特別にしたのは、ほぼ同時期に勃発したロシアのウクライナ侵攻に間違いない。あの戦争が始まったことでロシアを舞台にした戦争ものの作品は軒並み笑えなくなってしまった。この作品も、もっとミリタリーものとしてエンタメに振った展開にもできたのだろうけど、エピローグでクライマックスの読後感を削いでまで戦争犯罪とその禍根についてしっかり触れたことは結果的に良かった。
テスカトポリカ / 佐藤 究
非合法臓器移植ビジネスを目論みメキシコ人麻薬密売人と日本人外科医が手を組むクライムサスペンス。年代と国境を大きくまたぐ壮大な犯罪スケールに目を剥く。治安が悪すぎる川崎とその在住人物に笑い出したくなるも、真に迫るメキシコ情勢と麻薬売買の手口、そして緻密なアステカ神話の知識によって嘘と真の境界が揺らぐマジックリアリズム的手法に頭がクラクラし、昨年読んだ百年の孤独が何度もチラつく。
残虐な処刑シーンが頻発するが、情緒の一切を削ぎ落としたソリッドな文体によってむしろ宗教的な神々しさすら感じるのは脱帽。どこまでも風呂敷が広がっていきそうな犯罪計画から一転して、原初の神話的光景に立ち返るように収縮していく顛末も非常に好みでした。
堕天使拷問刑 / 飛鳥部 勝則
親戚のつてで因習村に引っ越してきた主人公は異常な出来事、殺人事件に何度も直面するが、その影には西洋の悪魔がちらつき……という猟奇的ホラーミステリ。江戸川乱歩や横溝正史のような怪奇小説のフレーバーが強めでありつつ、暗黒青春小説と銘打っているとおり、ボーイミーツガールで淡い恋愛要素もあり。かと思えばクリーチャーがポップしたり合間におすすめモダンホラー小説リストが挿入されたりと、次から次へとオモシロが移り変わっていくので900ページをあっという間に感じてしまった。「堕天使拷問刑 」とかいう物騒すぎるタイトルからものすごくピュアなボーイミーツガールが出てくるの、ちょっと意味が分からない。
因習村らしいドン引きな村の風習もそこそこに、オモチャ箱のごとく詰め込まれた陰惨でオカルトな展開の数々。流石に現代の日本でそんなことあるわけ無いやろ、と言いたくなるのだが、ノリノリに筆が乗っている数々の描写には思わず顔がほころんでしまう。正直言ってトリックはめちゃくちゃだが「まあええもん読ませてくれたでええか……」という納得度・満足度がものすごく、愛おしさすら感じる。そして何より終盤の怒涛のカタストロフィの果てに待ち受ける純愛があまりにも素晴らしい。最高の読書体験。
伝説巨神イデオン 接触篇 / 発動篇
年始にYoutubeで無料配信されたので観た。めちゃくちゃすごかった。TVシリーズの内容を再編集しダイジェスト気味に話が進むので展開が早く、どんどん死人が出るので感情が追いつかない。接触編~発動編中盤近くまではずっとそんな感じの駆け足気味だったのだが、手塚治虫の火の鳥もかくやの怒涛の終盤に打ちのめされてしまった。後続のロボットアニメにすさまじい影響を与えたのも頷ける。すぎやまこういちが手がけた劇伴音楽もかなり良い。
機動戦士ガンダムで「人はわかり合える」という希望を最後まで捨てなかったのとは対照的に、どちらかが絶滅するまで戦争を止めようとしない(止められない)地獄のような展開は非常にしんどく、ロボット一体と艦船一隻如きに大艦隊やら惑星破壊兵器を差し向けるバッフ・クラン軍の狂気と、ろくな補給もないのにめちゃくちゃな強さのイデオンのどちらにも恐怖を感じる。そもそもの発端となったイデというオカルトに片足を突っ込んだ意志を持つエネルギー存在が非常に不気味。
終盤、死んでいった者たちがメシアに引き寄せられ次世代の生命の誕生へ導かれるのはせめてもの情けなのかもしれないが、現世の浮かばれなさがすごい。すごいものを見た。
機動戦士Gundam GQuuuuuuX Beginning
すごかった。面白かったというよりも「公式の看板掲げてるのに好き勝手やり過ぎだろ……」という気持ちの方がデカい。前情報と全然違う話が始まって頭がどうにかなりそうだった。しかも長いし、ビギニングと言いながらめちゃくちゃロング。そこで一本映画作ってくれ……みたいな情報量と密度。肝心の本編の方の話もしたいけどそっちはそっちでマジモンのビギニングで終わってしまったので何も言えねえ。いかにも「新世代のガンダムですよ〜」みたいな面して発表したくせに!マチュはかわいい。
とにかく、人生で数回しか訪れない超特大サプライズ映画だからガンダムに触れたことある人はネタバレされる前に観に行ったほうがいいです。それはそれとして作品を楽しみに観に行くというより、ネタバレから身を守るために観に行く格好になってしまったのは健全な視聴動機とは言い難い感もある。面白かったからいいんだけど。そんなことよりHGジークアクスがどこにも売ってなくて困る。
Aooo / Aooo
完全にノーマークだったバンド。2024年結成だが全員が音楽経験者なので既に風格があり、技巧や情報量に頼らないストレートなロックナンバーが光る。メンバーそれぞれが作曲した曲を持ち合わせたアルバムも一本芯の通った清涼感のある歌声で見事に調和がとれていて聴いていてとても気持ちがいい。音を奏でる楽しさと喜びがある。
おとぎの銀河団 / はるまきごはん
昨年リリースされていたが、ようやく落ち着いて聴くことができた、はるまきごはんの最新アルバム。甘ったるく、されど冷たい遊園地のようなVOCALOID楽曲から繋がる本人歌唱の「僕は可憐な少女にはなれない」が抜群に良い。自ら歌唱をするようになるボカロPは数あれど、自分の声とVOCALOIDを使い分けることに意義を持たせる手腕では、るまきごはんの右に並ぶ者はいないと思う。
Audiometry / 新目鳥
偶然TLに流れてきた、ゲーム「まもるクンは呪われてしまった!」のリミックス曲がめちゃくちゃ良かったので作者のことを調べていたら見つけたアルバム。インスト曲中心の作品で、シンプルにメロディの良さが際立っている。往年のsasakure.UKのような、ゲームミュージックとクラブ音楽がごっちゃになっているような楽曲たちは、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさがある。最終トラックのVOCALOID歌唱曲もチルくてグッド。
the Hole / r-906
Youtubeをザッピングしてたらたまたま見つけた足立レイ曲。普通にブチ上がるドラムンベースにもちもちでシュールなアニメーションが病みつきになる。今まで拝見したことがなかったのだが、殿堂入り曲をいくつも持ちプロセカに楽曲提供し現場にも立っている超強豪ボカロPだった。過去曲も超良い。出直してきます。
メクルメ / 初星学園 & 篠澤 広
学マスはプレイはしてはいないのだがリリースされた楽曲はチェックは続けていて、その中でもかなり衝撃的だった曲。人が歌うことを考慮していないような異質なメロディ運びをしていて、これをアイドル曲と呼んでいいのか不安になってくるのだが、一方で「心臓の拍動に抗うように」連打がガンガン頭に刺さる。ただこの曲をボカロっぽいとかいう感想で終えるには浅慮に尽きると思い作者のほかの曲を探ってたらめちゃくちゃ良い曲が発見できたのでシェアします。
Plazma / 米津玄師
地球儀以降、生の楽器から打ち込み主体の楽曲にシフトしてるな~と思ってたけど、バリバリした電子音の濁流みたいな曲が出てきてひっくり返った。最初は「ん?」って感じだったけど聴けば聴くほど体に馴染んでくるスルメみたいな曲。
「もしも」の可能性を軸にしたティーンエイジャーの衝動の瞬間的な発露みてえな質感なんだけど、ニュータイプの共振現象を落とし込んだようなイメージでもあるな、というのをTV版機動戦士ガンダムのアムロとララァの会話を見て思った。「あなたの来るのが遅すぎたのよ」「なぜ今になって現れたの?」「この僕たちの出会いは何なんだ」っていうお互いの応酬が戦場の一瞬の刻の間で交わされるやつ。劇場版で観た時もあの「キラキラ」に圧倒されたけど、あれを音楽的表現に落とし込むとPlazmaになるのかもしれない。そうおもいました。
(終わりです)
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