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匂い
匂いで思い出す記憶ってあるよね、という話を授業後の教室で友達とした。
季節の匂いとか、食べ物の匂いとか、部屋の匂いとか、その匂いがきっかけで思い出される記憶。
一人の友達が、「それって女の人だけらしいよ。男の人は行動から思い出す記憶はあっても、匂いから思い出すことってあんまりないらしい」と言った。少し残念。
私はショートケーキの匂いを嗅ぐと、保育園のクリスマス会を思い出す。私が通っていた保育園は、クリスマス会のおやつで必ずショートケーキが出た。保育園の頃の記憶なんてほとんどないけど、ショートケーキの香りを嗅いだ時だけはぼんやりと部屋やクリスマスツリー、サンタさん(の格好をした先生)を思い出し、幸せで懐かしい気持ちになる。ショートケーキが特別好きなわけではないけど。
夏の夜の匂いは、中学生の野外学習を思い出す。飛び抜けて楽しい思い出ではなかったけど、夜に班になって肝試しをした。
冬の山茶花の匂いは、凍えそうなくらい寒い朝に、必死で自転車を漕いで高校に向かう道を思い出すし、コーヒーの匂いは高校の職員室を思い出す。
ブルーシートは文化祭の匂い。太陽で熱せられたコンクリートは、真夏に参加したあの粘土のコンテストの匂い。タバコはあの人の匂い。
全部全部、一ミリも忘れたくない思い出だけど、全部をずっと覚えていることはできないし、仮にそんなことができたとしても少ししんどいかもしれない。匂いを鍵にしてその都度ぼんやりと思い出すぐらいがちょうどいい。