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2024年ベスト映画10選

 だらだら書いてたら2月になりました。あけましておめでとうございます。

 昨年は仕事の環境が変わりましたので、何やかんやで色んな意味でドキドキしながら過ごしていました。その中でもちょくちょく映画は観に行けたので、何とか116本観ています。去年も色々観れて楽しかったですね。

 とは言え、最近はシネコンで大作映画を追うだけでも手一杯な感があるのでもうちっと幅広く観ていきたい気持ちもあります。でも2024年はそういう大作映画の中でもウキウキウォッチングできる趣味映画がね、しかも出来が良くて最高にハイになれる映画をいっぱいやってましたので満足感と満腹感は高めですよ。
 年齢を重ねたせいか、昔懐かしいモノが復活したり、リバイバル上映したりしてくれると嬉しくもなってきました。昭和の話ばっかするオジサンのことあんまり好きじゃなかったけど、人は誰もがそうなるのかもしれませんね……。子どもの頃にたまに観てただけの『あぶない刑事』でバチクソ盛り上がれたのに本当にビックリした。

 そんなわけで私の2024年の映画ベスト10です。クセ強作品もありますが、だいたい面白いので暇な時にぜひご覧ください。


①デッドプール&ウルヴァリン

 一時期は大人気で世界中にブームを巻き起こしていたアメコミスーパーヒーロー映画も、『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降は人気に翳りが出て明暗がハッキリ分かれるジャンルになってきました。SSUとかマジでどうすんの? と思っていますが、DCUが再始動したらそれはそれで「どうすんのコレ?」ってなりそうな気がしています。それくらい先行き不透明でヤバいジャンルになりつつある。

 ネタの仕込みの多さとか、そういうのは今でもかなりやってるので細かく見ていけば他の追随を許さないくらい作り込まれているジャンルなのは間違いないのですが……。昔に比べるとどうもその辺が内輪向けに終始しちゃってる感じはしてノリにくいんですよね。多少はアメコミ知識がある私でそうなるので、知らん人には尚更なのではないかと。
 どの会社のどのシリーズでも、風呂敷を広げるだけ広げて全然キレイに畳もうという素振りが見えない傾向も本当によくないと思う(しかもそのままシリーズが終わる)。

 そんな中! 逆に圧倒的に内輪ネタをぶちかましてバリバリに面白い映画にしてきたのがこの『デッドプール&ウルヴァリン』!! 俺達のデッドプールが最高のパートナーを連れてMCUに殴り込みだ!!!

 不死身の肉体と第四の壁を破る能力を持つヘンテコスーパーヒーロー・デッドプール=ウェイド・ウィルソンは、『LOGAN/ローガン』でウルヴァリン=ローガンが死んでしまったことで自分達が生きる宇宙が消滅の危機を迎えていることを知ります。そこで、多元宇宙を旅して他の宇宙からウルヴァリンを連れてこようとするウェイド。見つけたのは、戦いの中で大切なモノを守れず自信を無くしたやさぐれウルヴァリンだ! じゃあいつものウルヴァリンだな!

 そんなこんなでデッドプールとウルヴァリンの2大ヒーローがタッグを組み、宇宙の消滅という危機を回避するために戦うスーパーヒーローアクション映画です。

 これはねえ、人気ヒーローのタッグ映画というだけでももちろん面白いんですけども、もうとにかくスゴいんですね。要素が多すぎてみんな分からないんですよ。
 大前提として何も知らなくても楽しめる作品となっている。いるが、何も知らないと中身が八割方意味が分からないという、バカ映画路線でありながらとんでもない量の前提知識を要求される映画でもあります。
 例えば、序盤のマルチバースを旅して色んなウルヴァリンと出会うくだり、ハルクとタイマン張ってるのはちょっと茶ばんだ原作初登場ウルヴァリンです。ウルヴァリンは当初はハルクと対戦する一般通過ヒーローだったところを、人気が出たので設定をつけて主要キャラクターになっていった歴史があります。あとやたらちっこいローガンが出てくるのは原作だとウルヴァリンはちっこいキャラだからですね。そしてヘンリー・カヴィル=ウルヴァリンa.k.a.カヴィルリンは、ヘンリー・カヴィルがDCユニバースでスーパーマンをクビになったから出てきたネタです(やたら強い)。

 そういうアメコミ系のネタ以外でも最初っからトバしてますので。「20世紀フォックスがディズニーに買収されたからディズニー映画になった」とメタなバックストーリーの解説をしながら、『LOGAN/ローガン』で死んだウルヴァリンの死体を掘り返してアダマンチウム製のガイコツを武器にしての大立ち回りとダンスを展開するゴキゲンなオープニングで始まります。『LOGAN/ローガン』の時の涙を返してくれ。
 そして「ディズニーからはコカインネタだけはやるなと言われている」とぶっちゃけて、「雪だるまつくろう」をコカイン吸引の隠語として使用する恐れ知らず(アナ雪自体は前からネタにしてる)。急に「フュリオサー!」とかマジで関係ないことも言い始める。観ていたカップルが「フュリオサって誰……?」って困惑していました。もうずーっとネタをやり続けてふざけ倒してメチャクチャ、メチャクチャです。

 でもその根底に「20世紀フォックスへの愛情」が詰め込まれているラブレター映画なんですよ、これは。それが図らずもメチャクチャ良くって。
 デッドプールとウルヴァリンは廃棄物処理場みたいな世界に閉じ込められます。そこにはまず崩壊した20世紀フォックスのロゴがドーン! まさかの20世紀フォックスユニバースが主な舞台になっていくのです。
 なので、そこではキャストは違えども様々な20世紀フォックス時代のX-MENの敵キャラがお目見え! さらにそこに助けに来てくれるのはクリス・エヴァンスが演じるあのスーパーヒーロー! そう、『ファンタスティック・フォー』のヒューマン・トーチです!!
 これで路線が分かりましたね。もう二度と会えないはずだった20世紀フォックスヒーロー達がオリジナルキャストで甦るんですよ!!!

 女性スーパーヒーローの先駆け、ジェニファー・ガーナー演じるエレクトラ!

 吸血鬼退治は俺に任せろ、ウェズリー・スナイプスのブレイドが来てくれた!(20世紀じゃない)

 ウルヴァリンの後継者、『LOGAN/ローガン』から大人になったダフネ・キーン=X-23も感動の再会だ!

 そして一番震えたのが、もうこれはオタクしか知らないヒーローなんですけどガンビット! ガンビットは『X-MEN』シリーズにも出てますがそれじゃない、演じるのは “マジック・マイク” チャニング・テイタムだ! これ、企画だけあって立ち消えになった幻の映画『ガンビット』の主人公ですよ! うおおおおおお、約20年を経てついにチャニング・テイタムがガンビットに!?!?!?
 もうね、うれしい!楽しい!大好き!ってこの時点でなりますからね。俺はこんなにチャニング・テイタムのガンビットが観たかったのか!? と自分でもビックリです。

 あとはマルチバースのデッドプール軍団とか色々ありますけども、もうとにかくMCU以前のアメコミヒーロー映画が大好きだった私達を喜ばせてやろうという心意気に溢れた映画で、ラストはそういう20世紀フォックスサンクスムービーも流れますのでさすがにこんなの耐えきれない。

 で、今って最初にも書いたようにアメコミスーパーヒーロー映画自体がかなり盛り上がらないし、金がかかる映画のわりに興行収入はイマイチってのがあって……。
 でもそもそもMCUが始まる頃も全然ダメだったんですよ、マーベル・コミックスは。それを救っていたのが映画化権を買って映画を大ヒットさせたソニーの『スパイダーマン』だったり、20世紀フォックスの『ファンタスティック・フォー』だったり『X-MEN』だったりしたわけです。
 不調のMCUを再び20世紀フォックスのX-MEN達は救えるのか……!? という映画でもあるわけですね。

 MCUは今年、いよいよスクリーンデビューとなるサム・ウィルソンのキャプテン・アメリカも控えていますので。文句を言うこともあるけど私もアメコミスーパーヒーロー映画自体は大好きなので。何とか盛り立てる方向に行って欲しいなあと思います。 


②マッドマックス:フュリオサ

 で、その『デッドプール&ウルヴァリン』にもなぜか名前だけ出てきたフュリオサ。あの熱狂の『マッドマックス 怒りのデス・ロード』からフュリオサの過去を描くスピンオフ、『マッドマックス:フュリオサ』が登場です!

 私は映画ファン歴の原点に『マッドマックス2』がありますので……。『マッドマックス』は、『マッドマックス』にだけはすこぶる弱い。あと『ゴジラ』と『ジュラシック・パーク』と『ターミネーター』と『ロッキー』と『ランボー』と『エイリアン』と『プレデター』にも弱いです。
 だから並大抵のモノでも大絶賛して素通りさせる自信がありますが、いやもうこれもメチャクチャよく出来てますよ!

『怒りのデス・ロード』に登場し、実質的には物語の中心にいて物語を動かしていく主人公のような立ち位置だった頼れる女戦士フュリオサ。
 彼女が元々は荒廃した世界において楽園と言える豊かな土地、“緑の地” に生まれた鉄馬の女達の一族であることは前作で語られていました。しかしなぜ彼女は緑の地からイモータン・ジョーが支配する地獄要塞シタデルで暮らすことになったのか? なぜ憎きイモータン・ジョーの下で働いていたのか? なぜフュリオサは隻腕になったのか?
 そういう前作の中では語られなかったエピソードが綴られていく、女戦士フュリオサの誕生譚です。ロマンスもあるよ!

 今回、若い頃のフュリオサを演じるのは最強の女優シャーリーズ・セロン姐さんから代わって今をときめくアニャ・テイラー=ジョイ。私もセロン姐さんは大好きですのでもちろんセロン姐さんのフュリオサを観たい、観たいがアニャもメチャクチャ好きなのでこの配役は全く問題ない! フレッシュで逞しいフュリオサをお届けしてくれました。
 しかも今回はフュリオサが操る化け物トラック、ウォー・タンクの初代が生まれる誕生秘話まであって、これがめーっちゃカッコ良いんですよ! プラモ出して欲しい。V16エンジン搭載の16輪の怪物で、パワーショベルを始めとしたビックリドッキリギミックも盛り沢山! 他にもマッドマックス的面白ビークルが目白押し!

 さらにメインヴィランはフュリオサと因縁のあるディメンタス将軍、素晴らしく狂気に満ちた変態でそれを我らがマイティ・クリス・ヘムズワースが怪演しています!
 彼が操る鉄馬戦車は中世の騎馬戦車よろしく、3台のバイクで自分が乗る戦車を引いて走る優れモノ。手綱で全てのバイクをディメンタスが自在に操って乗り回します! 無理だろ、いくら何でも!!!
 でもこれちゃんと元ネタがあって、同じようなスタイルで走るモーターサイクル・チャリオットレースなるものが昔のオーストラリアに競技として存在するんですよ……。現実もバカ! いいね!

 で、もちろんシタデルの愉快な仲間達も参戦しておりますので、故ヒュー・キース・バーンに代わってラッキー・ヒュームが演じるイモータン・ジョー。当然スクリーンに出てくるなり我々はV8のポーズでお出迎え。私達はもうイモータンが見えるとV8するように仕込まれています。
 さらにバレットファームやガスタウンも登場しますので武器将軍人喰い男爵も出てきます! みんな大好き人喰い男爵はかなり出番も多いしメチャクチャ乳首イジってるぞ!! しかもディメンタス将軍も乳首イジりマンなので、乳首が千切れて至るディメンタスを見て物欲しそうな顔をする人喰い男爵という淫猥なシーンもあります!!! やったーーーーー!!!
 狂ってる、この世界は……。

 フュリオサが主人公でもありますし、何気に『マッドマックス』はかなりポリコレフェミニズム映画でもあるので。現代的なウーマン・パワー映画としてもだいぶやってます。しかも今回は「復讐のために戦うフュリオサ」が1作目の「復讐のためにインターセプターを駆るマックス」と重なるオマケ付き。嬉しいね。

『マッドマックス』ってね、今回で映画は5作目なんですけど……。続き物でありながらシリーズのどこから観ても状況が分からないスゴい映画で。続いてるのにあんまり関係ないんですね。毎度おなじみィ! みたいな感じでろくな説明もなく出てくるモノがだいたいシリーズでも初めて出てくるモノなので誰も知らんという……。
 だいたい2作目でいきなり文明が滅んでた映画だぞ。1作目は警官の復讐話で全然そんな規模の話じゃなかったから、そこからすでに誰も何でそうなってるのか分かってないんですよ!!!
 それが今回は初のスピンオフというカタチなので、何と『怒りのデス・ロード』さえ観ておけばわりと実家のような安心感のあるディストピア! 嬉しい~! 別にマッドでマックスならどんな映画でもいいんだけど、知ってるキャラをもう一度拝めるのがこんなに嬉しいなんて……!
 その上でちゃんと精神的に1作目に繋がってるのがメチャクチャ良い。忘れてなかったのか、ジョージ・ミラー! だから、『マッドマックス』に原点を持つ者としてはそういう回春的な面もスゴく響いてくる映画なんですね。年を重ねてきたせいか、そもそも2024年の映画はわりと「回春」という意味で響くモノが多いです。

 皆さんもぜひ、サイコーに爆上がり出来るマッドマックスをご照覧ください。V8! V8!


③サユリ

 夜食の!! 時間だぜ!!!

 昨年公開されたホラー映画の中で断トツで面白かったJホラー『サユリ』。いやもう、ホラー映画どころか全映画の中でもトップクラス。何とこの映画、観るととんでもなく元気が湧いてきます……!

 ホラーとしてはいわゆる「呪いの家」系。念願のマイホームを購入して引っ越しした家族、しかし少しずつ奇妙なことが起こり始め、不幸が降りかかっていく。実はこの家ではかつて凄惨な殺人が行われており……。

 と言うことで、家族間で何やかんやあって悲惨な死を迎えた娘サユリの怨霊が取り憑いた呪いのハウスで主人公一家が恐怖に襲われていきます。父親の不審死から始まり、おじいちゃん、お姉ちゃん、幼い弟、母親、と次々と家族が亡くなっていく中、残ったのは高校生の頼りない長男・則雄と認知症のおばあちゃんのみ。湿り気のあるいい雰囲気で進んでいますねえと思った矢先、ここからこの映画は急転直下でガラリと一変します。

 家族がみんな死んでしまいベッドの下で恐怖に震える則雄。そしてド派手に吹き飛ばされるベッド! ゴウランガ! すわ怨霊の仕業か!? いや、おばあちゃんだ!!!
 悪霊の恐るべき所業に対し、ボケていたはずのおばあちゃんが覚醒!! そう、おばあちゃんはかつては苛烈を極めた太極拳マスター!! ベッドぐらい素手で吹き飛ばせるぜ!!!!!

 と言うことで認知症を克服して気力を漲らせたおばあちゃんは則雄を叱責し、悪霊なぞ何のその、「所詮は死人、真に恐怖すべきは生きた人間よ!」と悪霊相手に人間の恐ろしさを知らしめる復讐戦を始めます!
  よく食べて、よく休んで、よく笑う! 太極拳で生の気を充填し、邪悪な力を跳ね除けろ! おばあちゃんに感化された則雄も太極拳を学び直し、「元気ハツラツ! お○○こまんまん!」を合い言葉に呵々大笑して悪霊の呪いをかき消してゆく!
 そんな2人の姿に我々も体内に生気が満ち満ちてゆく、というとんでもない映画に変わっていくんですね!

 おばあちゃんはかなりぶっ飛ばしてますので、悪霊を祓いにきた法力使いみたいな人は門前で太極拳でノックアウト!(何も悪いことしてないのに)
 悪霊を鎮めるべく、かつてサユリを殺して埋めたサユリの家族を探し出し、全員拉致して「こいつらはくれてやるぞ!」と何の遠慮もなくボッコボコにします!
 こ、こんな映画観たことない!!!(歓喜)

 で、クライマックスではバールのようなモノを振り回す悪霊サユリVSおばあちゃんの太極拳という極限バトルも展開。そしておばあちゃんが倒れた後、覚悟完了した則雄は「夜食の時間だぜ!」と言い放ってサユリの骸骨をバリバリ食って己を奮い立たせて立ち向かっていきます。

 いやもうね、後半ずーっととんでもないんですよ。映画から溢れるエネルギーが強すぎて強制的に元気になっていく、観客が呪いに震えるのではなく呪いに打ち勝つ強さを手に入れていくという凄まじいホラーになっているのです!

 だからホラー映画が好きとか嫌いとかそういう問題じゃないのでとりあえず人類は観ておくべき映画ですよ。この映画を観てからは何かあるたびに「笑えい!」と心のおばあちゃんが鼓舞してくれるようになりました。

 人間讃歌は勇気の讃歌! 人間の素晴らしさは勇気の素晴らしさ!
 生きた人間の強さをぜひ体感してください。


④ゴジラ×コング 新たなる帝国

 元気がモリモリ! という意味ではこちらも負けていません!『ゴジラ×コング 新たなる帝国』だ!!!

 ハリウッドで展開されるモンスター・バース・シリーズの第5作。ゴジラとコングのコラボムービーとしては2作目となります。
『KOM』で怪獣王として地球に君臨したゴジラ、しかし世間にはまだまだ身の程知らず恐れ知らずの怪獣が跳梁跋扈している! そんな田舎怪獣どもを相手に王の威光を見せつける仕事(ボコボコにする)をしているゴジラですが、ゴジラとは倶に天を戴かずの仲であるコングはそんな地上の争いには加わらず、孤独に地底世界を彷徨っておりました。
 怪獣たちのルーツは地底に広がる大空洞! だからコングのホームも地底! というのは前回の『ゴジラVSコング』で明かされた設定ですが(お前地上出身だろ)、家族を失って以来孤独を味わい続けていたコングは地下空洞で仲間を求める日々を過ごしていたのです。
 地上ではキングだが地底では新参者のコングは、地下空洞においては地元のヤンキーどもに因縁をつけられる毎日。戦いに疲れたコングは一人でマズい飯を食いながら寂しさにむせび泣く……。しかも歯が痛い。歯を磨かないから。歯も痛いから、それはそれでまた泣く。何だかもうずっと悲しい独居老人の悲哀みたいなのを見せられて始まりますのでこっちも泣けてきます。何なんですかこれ。

 で、何だかんだでコングは自分と同族のグレイト・エイプの群れを地下空洞で見つけるのですが、彼らは地下空洞を力で支配する偽王スカーキングによって奴隷とされていました。
 スカーキングは細身で身体に怪獣の背骨で作ったムチを巻き付けた小賢しい男。果たして彼はグレイト・エイプ達を奴隷として何をさせているのか? 何かを建造させているようにも見えますが恐ろしいことに全く何も分かりません。そもそもヤツらのホームは溶岩地帯でメチャクチャに危なくてハチャメチャに住むのに適していないので……。ヤツらはノリで支配者をやっています。
 怒りに燃えるコングは果敢にスカーキングに挑みますが、スカーは自身に無理矢理従わせている冷凍怪獣シーモを使ってコングを撃退。コングはゴジラと手を組んで強敵と戦う苦渋の決断を下すのでした……!

 と言うことでですね、分かりますか。この映画、人間もいるにはいるけどほぼ怪獣主体のドラマで展開されていくんですよ……!
 怪獣映画の主人公は怪獣です。しかし怪獣ではドラマが作れません。だからメインキャラとしては人間が配置され、彼らによって怪獣の説明やメインドラマの進行をしていく……それが怪獣映画です。だが本当にそうか? 怪獣が主人公であるならば、怪獣にドラマも担わせて構わないのではないか?
 そこまで考えたかは定かではありませんが、とにかくこの映画の大半は怪獣の怪獣による怪獣のためのヒューマンドラマ、もとい、カイジュウドラマが展開されていきます。主人公は名実ともにコングですので、まあ表情とかが人間くさくてセリフ抜きでも案外何とかなります。

 で、その結果どうなったかと言うとこれ、メチャクチャヤンキー漫画になってるんですよ!!!
 元々ゴジラがヒーローをやっていた東宝チャンピオンまつり時代の空気を予告編から感じていたわけですけども、仕上がりが完全に昭和! 昭和のツッパリモノ! アメリカの映画なのに!

 義理人情に厚い昭和のバンカラ・コングは強い絆で結ばれた舎弟であるイジメられっ子の弱小ヤンキー・スーコに助けを請われ、邪悪なツッパリ連合との抗争に向かいます。
 悪いツッパリのボス・スカーキングは卑劣で冷酷な外道ヤンキー、ナイフペロペロしてそうな策士型のクレイジーなヤンキーコングです。
 スカーに従うナンバー2のシーモはスカーを超える最強格でありながら、弱味を握られて泣く泣く従わざるをえない悲哀の巨漢ヤンキー。実は女の子。
 そしてコングとタッグを組むゴジラは作中で最強の喧嘩大王、暴力以外の会話が出来ないレベルの狂犬ヤンキーです。助けを求めてきたコングの話を一切聞かずに吼えながら殴りかかってくるとことかメチャクチャヤバいですからね。でもコロッセオに丸まって寝る猫鍋みたいな可愛い姿も用意されています……。
 そんな不毛な喧嘩を続けるコングとゴジラの仲を取り持つのが、ゴジラが唯一頭が上がらない幼なじみの風紀委員であるモスラ。こんなヤツ好きじゃねーよとか言いながらも2人っきりになるとイイ雰囲気が流れる関係です。でもモスラも抗争に混ざってくるので「もう喧嘩しないでー!」タイプじゃなくてバトルに混ざってくるタイプの令和系ヒロインなんだよな。

 何だか分からんがとにかくスゴい、を地で行く令和に蘇った昭和のヤンキー映画が今回のハリウッド・ゴジラです。懐かしい空気とともにお楽しみください。


⑤ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ

 2019年に大ヒットした前作『ジョーカー』から一転。世間では賛否を巻き起こす、どころかかなり大々的に否を突きつけられ、ワーナー大丈夫か? と不安になるくらい散々な興行収入になった『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』。これがメチャクチャ良かったんですね。

 映画を色々と観てると「自分にだけ突き刺さる映画」というのが出てきますので、今作はそういうタイプ。元々前作からして万人受けする作品ではなかったんですが、前作は社会的弱者と格差社会の不条理を描く作品として幅広く受け入れられる余地がある作品でした。しかし今作は無理があります。これに批判的でいられることが社会的幸福でしょう。こんなことする? というただただ怖い映画になっています。

 前作『ジョーカー』は世間に受け入れられないコメディアン志望のアーサーが、社会への不満を爆発させて人々の不満の代弁者として暴動を巻き起こすカリスマ・ジョーカーへと変じる姿を描く映画でした。それに対して今作は、逮捕されて犯罪者用の精神病院アーカム・アサイラムに押し込められたアーサーがハーレイ・ “リー” ・クインゼルと出会うことで自身を再生していくミュージカルロマンス仕立ての法廷劇となっています。二人の高ぶった感情は音楽として溢れ、妄想のミュージカルへと変わります。
 タイトルの「フォリ・ア・ドゥ」は感応精神病と呼ばれるモノで、親密な関係にある2人が妄想を伝染させて共有する状態を言います。リーはセンセーショナルな事件を起こしたジョーカーの熱狂的なファンの一人。アーカムで出会ったアーサーとリーは急速に仲を深め、2人で同じ夢を見て幸せな時間を過ごします。そしてリーと同じように、世間からもいまだにジョーカーという存在は高い関心を持たれて裁判の行方にも注目が集まっています。

 裁判の焦点は、果たしてジョーカーはアーサーなのか? という点。アーサーの弁護人は彼が二重人格であり、彼自身には責任能力がないと訴えます。対する検事(ハービー・デント!)はジョーカーはアーサーの演技であり、自らの意志で犯行に及んだのだと主張します。
 ここも「フォリ・ア・ドゥ」です。アーサーとリーの関係を示すモノであり、アーサーとジョーカーの関係を意味する言葉でもある。ジョーカーはアーサーの本性なのか? 世間に受け入れられない人間の中身は本当に怪物なのか?
 今作は前作のエピローグのような映画で、内容としても前作と同じテーマが繰り返されるところもあります。だからこそ前作を観た人にすら受け入れられにくい作りでもあるのですが、ゆえに前作から続けて観ることでよりアーサーの内面に入り込んでいける。ある意味、アーサー・チェックで観客をふるいにかけていくような話なんですよ。

 アーサーは本来、人とズレてはいるけど優しい善人で、前作から一貫して愛されたいだけの悲しい人間です。ジョーカーはそんなアーサーが社会で強く生きていくために生まれてしまった妄想の自分であり、アーサーはアーサーとして世界に愛されることを望んでいます。しかし、ジョーカーとして世間にもてはやされるアーサーはついに気が付いてしまいます。誰もアーサー・フレックには関心がない。世間が注目しているのは常に “ジョーカー” という男であってアーサーではない。激しく愛し合うリーですらも、彼女が愛しているのはジョーカーでありアーサーではないと気付いてしまうのです。

 世界に愛されたいだけの男が世界から全く愛されていないと知ってしまう、そんな絶望の映画なんです。スゴいことですよ。大概の映画はどういう人間のどういう生であれ、そこに価値を見出します。だから映画になるんです。しかしこの映画は、先に進めば進むほど、アーサー・フレックという男には一切合切何の価値も存在していないことを突きつけられていきます。
 決してアーサーはジョーカーになりたいわけじゃないが、ジョーカーにならないと誰にも目を向けてもらえない。でもジョーカーになればなるほどアーサーの存在は霞んでいく。詰みです。

 そうして、彼が生み出した唯一愛される価値のある “ジョーカー” すらも奪われて、何も持たざる世界で最も無意味な存在としてアーサー・フレックの物語は幕を閉じます。もしかしたらアーサーとして最期を迎えられたことにだけは救いがあったのかもしれませんね。


⑥パスト ライブス/再会

 オトナのロマンス映画、『パスト ライブス/再会』。アカデミー賞でも脚本で注目された映画ですが、これも非常に良い作品でした。こういうロマンス映画大好き。

 ともに好き合っていた12歳の韓国人、ナヨンヘソン。しかしナヨンは両親の仕事の都合でカナダに引っ越すことになってしまい、ヘソンとは離ればなれになります。
 それから12年後。24歳になったナヨンは名前を英語名のノラに改名し、ニューヨークで作家の勉強をしながら一人暮らしをしていました。そんなある日、ふと韓国時代の友達が懐かしくなってFacebookで色々探していくと、昔好きだった男の子ヘソンのことが思い出されます。ちょうどヘソンもナヨン=ノラのことを探していると聞き、ノラは友達申請してビデオチャットで12年振りにヘソンと再会します。

 ノラはもうずーっと彼のことは忘れていましたが、モニター越しに再会するとすぐに昔の感覚が呼び起こされて、互いの近況を伝え合うだけのビデオチャットが毎日の喜びになります。微笑ましいですね。でもそんなことを続けてると好きだった気持ちも蘇っていってて、別に関係が進展してるわけでも何でもないんだけど遠距離恋愛みたいになってくる。そうなるとモニター越しじゃなくて実際に会いたくなってたまらなくなってくるんですけど、会えないんですよ。かたやニューヨーク、かたやソウル。24歳で、それぞれに自分の夢のために踏ん張って頑張っているタイミング。そんな時に会う時間を作って飛行機で飛んでいく、というのがとても難しいのです。
 だんだんとすれ違って毎日のチャットすら出来なくなっていって、繋がらないとそれはそれでやきもきしてしまいますので。2人の温かな時間がストレスに変わっていく。だから、別れ話をするみたいに「もうこんなことは止めよう」となり、2人の関係は再び失われてしまいます。仕方ないんですよ。時間と距離はいつでも恋愛の大敵です。でもそれを仕方ないとしてしまうと……。

 それからさらに12年後。36歳になったノラは作家として夢を叶え、そして同じ作家仲間のアーサーと良い関係になって20代のうちに結婚してしまいます! ほらー! ほらー! そういうことになるじゃーん!!! だからずっと言ってたじゃん、早く付き合った方がいいってさー!!!
 まあ初恋がね、全く会ってすらいないのにそのまま長いスパンを経ても変わらず続いて結ばれるなんてことはね、少年漫画の恋愛観ですよ。現実的には会わない時間で気持ちの距離も離れていき、新しい出会いも生まれてしまいます。そういうもんです。
 だから、ヘソンの方も彼は彼で出会いがあって恋人が出来ています。お互いに相手が出来てハッピー。でも、なぜかそのタイミングでヘソンがニューヨークまでノラに会いにやってくるんですよ……! こ、こいつ~~~~~! 今じゃないだろ……!
 ノラはもう完全にサバサバしているので、「何かニューヨークに用事があったんだろうな~」とか思ってるんですけど、ヘソンはノラに会いたくてわざわざ来てるんですよね。24年越しに劇的な再会を果たした初恋はいったいどうなってしまうのか!?

 という、まあこれは別にノラを巡ってヘソンとアーサーが三角関係をやる話ではないわけですよ。もう勝負ついてるんで。ノラはちゃんとアーサーが好きで結婚して、今さらヘソンが割り込む余地なんてないわけです。だから言ってしまうとノラとヘソンが結ばれることはないんですけど。
 タイトルの「パスト ライブス」は「前世」ということになります。劇中でも出てくる「イニョン」というのが韓国にあって、これは運命とか縁という意味なんですね。今世で知り合う人達には前世からの縁があって、結婚に至るような関係はそれこそ何層もそのイニョンが重なっているというロマンチックな思想。今世では結ばれなかったが、確かにノラとヘソンにはイニョンがある。この初恋が本当に終わる前に、ヘソンはただノラときちんと会うことでそれを確かめたかった。
 ナヨナヨしたメンタルと言えばまあそうなんですが……。先に進む前に、自分なりに決着を見に来たんですよ。初恋を終わらせるためにニューヨークまで来たんです、ヘソンは。

 この話は監督のセリーヌ・ソン自身の体験に基づいています。ソンは幼い頃に韓国からカナダに引っ越して、ニューヨークで作家を目指して夢を叶えた女性。それでニューヨークでアメリカ人男性と結婚している。来歴が劇中のノラそのまんまなんですね。で、韓国には初恋の男性がいて……という、劇中にもあるニューヨークに来た彼と夫と三人でバーで飲んだというのも本当の話。
 初恋のいじらしさというのもありますが、ノラのルーツが韓国にあるというのも大事なところで。ずっとアメリカで暮らしてるからもう英語の方が主体でめったに韓国語も使わないし、韓国にも行っていないからすっかりアメリカ人になっているノラですが。それでもそのルーツは韓国なんですね。ヘソンと再会することで、ノラは韓国に置いてきた少女時代のナヨンとも再会します。

 自分ががんばってきたニューヨークへの愛情も感じられる撮影がされていますし、遠い記憶になってしまった故郷への慕情も込められている。恋が実る物語ではないんですが、情感豊かに温かみのあるロマンス・ストーリーです。


⑦ロボット・ドリームズ

 そして、『パスト ライブス/再会』とかなり近い味がしてくるボロボロ泣ける感動映画がこちら。80年代のニューヨークへの愛情が詰まった、『ロボット・ドリームズ』です!

 日本では20館から上映が始まって、口コミで評判も上がってミニシアター系映画では異例の大ヒット、というスゴい映画。これがもうスゴくいいんですよ!

 舞台は80年代のニューヨーク。人間はおらず、代わりに動物達が人間みたいに暮らしています。そこで孤独に暮らす主人公ドッグは、通販で友達ロボットを注文して2人で楽しく暮らし始めます。
 社会の知識が足りないロボットに色々なことを教えて、一緒に色々なところにお出かけして、それはもう孤独な頃では考えられないくらい明るくて楽しい毎日です。
 しかしある夏の日、2人で海に出掛けたらロボットが錆びついてしまって動けなくなるんですね。仕方なくロボットをビーチに残して帰り、翌朝工具を持って急いでビーチに向かうと、夏が終わってビーチは閉鎖されている。ドッグはどうにかロボットを助け出そうとするんですが……。

 という、離ればなれになってしまった2人のその後を描くアニメです。この映画、セリフは全くなくって。「ウー!」とか「ワァ!」とかくらいは言うんですが、まあ『ちいかわ』みたいなモノで。でもそれがいいんですよね。ビジュアルも非常にシンプルな手描きアニメでして、原作のコミックの味をほぼそのままにアニメーション化させている。
 セリフがない分は映像と表情と音楽とで語らせていくので、よりエモーショナルに彼らの気持ちが響いてきます。見た目はサッパリしてますけどアニメーションがメチャメチャに良くて、動きが細かくて世界の質量が感じられるアニメーションなんですよ。

 監督がスペイン出身のパブロ・ベルヘルという人で、奥さんの原見夕子さんがサウンドエディターをされています。なので日本のアニメから影響を受けた面もあるわけですが、とにかくこの映画もまたニューヨークへの愛情が強いんですね。
 ベルヘルは若い頃にニューヨークに留学して映画を学んだ人です。まさにこの映画の舞台である80年代頃。だからこの年代のニューヨークの思い出がとても強く、街の雰囲気から建物、テレビ番組など可能な限り当時のモノを再現しています。ドッグのアパートもそのまま監督が昔住んでいたアパートなんですよ。私はニューヨークなんて映画でしか知りませんが、この映画を観ていると居心地の良い街だったんだなというのは伝わってきます。その中で80年代なのでワールド・トレード・センターなんかも健在なんですけど、こういうモノの使い方も上手いんですよね。今はもう失われた対になる存在。これもまた、大切な人との失われた関係を描く作品です。

 ドッグもロボットも離ればなれになってから何とか再会を目指して頑張りますが、それは叶いません。その代わり、会えない時間は2人とも夢を見て夢の中で再会します。そうして、大切な人を失くした悲しみを時間が癒して、また新たな出会いが傷を埋めて人生を輝かせていく。その人生の根っこにはそれまでに出会った人々との関係がある。この映画は人生のある瞬間における出会いと別れを切り出して描く映画なのです。

 監督のテーマは「Do You Remember?」。「覚えていますか?」という、マクロスみたいなモノなんですが。様々な大切な人との出会いと別れを繰り返して人生が紡がれる。そのことを覚えていますか? という話です。
 だから、この映画ではとても大切な歌として「Do You Remember?」で始まるEarth, Wind & Fireの名曲「September」が繰り返し使われます。
「September」はタイトルが「9月」なので9月になるとラジオで流されたりもしますが、実際は12月に歌われている歌です。9月の恋を12月に思い出す。その恋が実っているかどうかは解釈によりますが、この映画では過去の素晴らしい思い出を振り返る歌として使われるんですね。
 だからもうこの歌が使われるクライマックスはボロボロ泣く羽目になるので、たまらないんですよ。思い出の曲にノッて、原作にないロボットとドッグのダンスシーン。別れを経て続いていく、それぞれの人生。

 賞レースでもインディ映画の中では大注目されていた作品で、日本でもきちんと評価されてシネコンで観られるまでになったのは本当にスゴいことです。絵柄が良いのでお子さんでも楽しく観られると思いますが、何よりもオトナに観て欲しいアニメ映画です。


⑧動物界

 フランスでスマッシュヒットを記録したSFスリラー映画『動物界』。これがねえ、これももうメチャメチャ良い。動物映画大好き。デビルマンとかも好き。「やはり人間は愚か……!」みたいな話でもありますが、人の愛と動物の美しさと、色々なモノがないまぜになって情緒が乱れます。

 人間が少しずつ動物に変化する奇病が蔓延している世界。主人公の若者エミールは母親が変異したことで母の転院のために父フランソワとともに引っ越しますが、移送中の事故で母が行方不明になってしまいます。凶暴性のある “新生物” を軍は警戒しているので、フランソワとエミールは軍に見つからないように密かに捜索を始めます。しかし、エミールの身体にもまた変化が生まれていました。

 体毛が濃くなり、背中が曲がり、牙や爪が鋭くなり、少しずつ犬に変わっていくエミール。父親にも打ち明けられず、森に隠れ住む鳥男フィクスと仲良くなったエミールは世間の目を逃れて彼と友情を交わしていきます。しかしエミールの獣化は進んでいき、人としての意識が飛ぶようになり、衝動を抑えられなくなっていく。次第に人の新生物への締め付けも厳しくなっていき、果たしてエミールはどうなってしまうのか。

 ピクサーが数年前に『私ときどきレッサーパンダ』という思春期の女の子の悩みをレッサーパンダ化させることで表現する面白いアニメを作っていましたが。今作はそのもうちょっとシリアスな方向性の話。父親と打ち解けられない、母親への恋しさを素直に出せない、肉体と感覚の変化に大きな戸惑いを覚える。そんな思春期全開で野性解放してしまったのがエミールです。
 オトナになっていけば親の知らない友達も出来るし、親にナイショにしたい変化もあるし、世間一般に馴染めない自分も発見します。そうした葛藤の中で自分の居場所、自分の生き方を見つけていく思春期を描く映画なんですよ。

 動物との交じり方がセンス良くって、鳥男にヘビ女、何だか分からないモノも色々いますけれども。ヒトに理解されない存在となることでヒトから弾圧されていく怪物の姿は、デビルマンちっくでとてもノスタルジックな良さがあります。
 獣化するってメチャメチャカッコ良い憧れのシチュエーションでもあるんですが、カッコ良くなるとか強くなるとかじゃなくて「骨が曲がって痛い」とか「顔が裂けていってヤバい」とか「マジでヘンなとこに毛が生えてる」とか、わりかしガッカリトランスフォームなのも悲壮感が高くて良いですね。端から見てる分にはそれでも鳥男のフィクスなんか空を飛ぶ姿が美しくてメッチャ良いじゃん! と思うんですが。まあ、顔がクチバシ化してメチャメチャになるし、脳みそが鳥頭なので……。
 それでもエミールなんかは「俺はオオカミだぜ!」とか自分をカッコ良い動物だと思って強がるところもありますが。動物の中にはタコになってるヤツとかセイウチになってるヤツとかもいるので、自分がタコだと分かった瞬間は絶望しかない気もします。がんばれ……!

 そんな中で世界の広さを知って視野が広がり、親との関係も良くなっていく。クソみたいな世の中に希望を抱いて旅立っていく、素敵な青春映画ですよ。私はワニになりたいです。


⑨インサイド・ヘッド2

 そして思春期を描く映画としては前作に続いて素晴らしい作品でした『インサイド・ヘッド2』。2024年の映画では世界興収で堂々の1位。アニメ映画の特大スマッシュヒット作品となりました。

 11歳の女の子ライリーの頭の中の5つの感情、喜び・悲しみ・怒り・嫌悪・恐怖を擬人化して、引っ越しを機に内面に起きる感情の変化を頭の中の大冒険として描き出した1作目。人生にはどの感情もとても大切なんだよ! ポジティブな感情とネガティブな感情、どっちも自分を幸せにするためにがんばってるんだよ! という、大人も子どもも楽しめる名作です。

 今回の続編は2年後の13歳になったライリーが主人公。高校入学を目前にして思春期に入るライリーには新たな感情が生まれます。
 それが経験を蓄えて先を見通せることで生まれる不安の感情シンパイ。他人のことが気になる妬みの感情イイナー。社会性を得たことで感じる羞恥心ハズカシ。思春期らしいスカした倦怠感ダリィ
 いずれも悪い感情に見えますが、どれもこれも人生経験を重ねることで生まれる成長の証なんですよね。幼少期の無敵感に対して、大人になると将来には不安が生まれます。羞恥心がない大人は社会的にヤバいヤツですし、他者と自分を比較する感覚、自己防衛のためのダルさ、どれも大人になって生まれるモノです。

 だから前作のカナシミのように彼らもライリーには大切な感情なんですが、何せ思春期に急に発生してくるのでライリーはこれらの御し方が全く分かりません。さらに憧れの高校のアイスホッケーチームの合宿に参加することになったライリーは、将来を見越してチームに早くから馴染んでおくことと高校で離ればなれになる親友との思い出を天秤にかけて悩むことになります。
 成長したライリーの心にはジブンラシサの花が咲いており、それは清く正しく真っ直ぐにある心でした。それに従えば、大切な友達を裏切るなどありえません。しかしシンパイは将来のためにジブンラシサの花をちぎり捨て、ライリーに親友を切り捨ててホッケーチームを選ばせます。
 ガチャガチャうるさいヨロコビ達幼稚な感情を心の奥に押し込め、シンパイ達は感情のコントロールルームを掌握。ライリーのために、信念を曲げて周りに合わせる無難な生き方をさせていきます。ヨロコビ達は再びライリーにジブンラシサを取り戻せるのか……。

 大人になるってどういうこと? を視覚的に分かりやすく見せて新たな冒険を描く正統的に成長した続編。大人になって世界が広がったライリーを表すのに画面サイズも前作より横に広がっています。
 大人になれば喜びや悲しみ、怒りといった子どもの頃に全開だった感情はなかなか表に出せません。将来や他人の目があるからですね。だから皆、ライリーのように心の奥にヨロコビ達を追いやります。まあ、いつまでも全開の人もいますが……良かれ悪しかれ……。
 それはそれとして、こういう思春期の変化の見せ方がバツグンに面白いので、「ああ、こういう時代がありましたねぇ」って大人が観てて懐かしくなっちゃう回春物語。果たして周りに合わせることだけで良かったのか? 自分らしさはどこにあるのか?

 自分自身を構成する内面に深入りして、自分をもっと好きになれる映画です。


⑩機動戦士ガンダムSEED FREEDOM

 20年越しのまさかの完全新作映画! 『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』!!

 完全無欠の趣味枠。本当にまさかの復活で、前年のテレビシリーズ『水星の魔女』からガンプラ作りも復活していた私はここでさらにガンダム熱を加速させます。うぉォン、俺はまるでガンダムだ。ガンダムもそう言っています。

『機動戦士ガンダムSEED』は2002年に始まったテレビシリーズで、新世代のファーストガンダムを目指して特大ヒットしたガンダムです。
 男性のみならず女性にも受け、ガンダムで久々にかなり幅広い層の支持を得ました。若い頃の上戸彩もガンプラの宣伝をやっていましたし、主題歌を歌っていたT.M.Revolutionがこれで声優としても存在感を見せました。私も当時は20歳前で、リアルタイムで友達と盛り上がっていた唯一のガンダムです。社会人になると友達とリアルタイムでガンダムで盛り上がるのが難しいので……!
 それが2004年の続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』で何だかんだで賛否が割れる羽目になり、私はシン・アスカ好きでしたしデスティニーガンダムも好きでしたけどぉ!? と思いつつ、インターネッツの世界は声がデカい方が強いので何となく「DESTINYはイマイチだったから何を言ってもいい」みたいな風潮が仕上がっていったのです。

 そんな世界の歪みを修正する快作となったのが今作。私達は常に新しいガンダムに不安を抱えて臨みますし、「SEEDの新作……今さら!?!?!?」と思いつつ、まあいちおう観ておくかという期待値ガン下げのテンションで観に行きました。
 そのわりには朝イチでライジングフリーダムガンダムとイモータルジャスティスガンダムのプラモを買ってから行きましたし、観終えてからは大満足してSDのデスティニーガンダムのプラモ買って帰りました。ジャスティスだと負けちゃうから……! あとHGの普通のズゴック買った。プラモってのは持ってりゃ嬉しいコレクションですからね。

『ガンダムSEED』は地球と宇宙に分かれてドンパチやるというガンダムの基本構造に加えて遺伝子操作が描かれているのが特徴です。改造して強靱な肉体と優秀な頭脳を持つコーディネイターが生み出され、それが従来通り自然に生まれたナチュラルとの確執を招き、ナチュラルとコーディネイターの対立は地球連合と宇宙のプラントの戦争に発展していく。さらにその影では過激な差別主義組織ブルーコスモスが暗躍している、という世界。
 その中で地球連合側のガンダムパイロットとして戦うことになったスーパーコーディネイターの若者キラ・ヤマトと、彼の幼なじみのプラント・ザフト軍のガンダムパイロットであるアスラン・ザラが互いの友情と世界のあり方に悩みながら戦い、生き抜いていく。さらに続編では新主人公として地球生まれのコーディネイター、シン・アスカが戦争の傷を憎しみに変えて戦い、プラント側は全人類の遺伝子を管理するデスティニープランを発動させようとする。

 まあ、決められた人生なんてつまらないぜ! って話ですよ。3人の主人公を中心に、若者が友情と憎しみに悩みながらがんばって、何かイチャコラしたりするガンダムです。
 そういう何やかんやあった『SEED DESTINY』からおよそ1年後。オーブ・地球連合の一部・プラントで世界平和監視機構コンパスが結成され、各地の紛争を止めるために活動しています。コンパスに所属するキラやシンも、いまだに暗躍するブルーコスモスの残党をボコボコにしながらガンダムで争いに介入する日々を送ります。俺がガンダムだ。
 そんなある日、連合から独立した新興国家ファウンデーション王国を支援するためにコンパスは出動しますが、キラが闇に堕ちたりとかして何かボロクソに大変なことになり、いつも通り大量破壊兵器でカジュアルに多くの命が失われるとんでもねー事態になっていくのでした。

 これはねえ、もうとにかくこの映画1本にあらゆるガンダムSEEDを総括して全てを詰め込んで、「うおおおお、俺達はガンダムSEEDが大好き!」って気持ちを思い起こさせてくれる映画になっているのです……!
 これはもう1年間のテレビアニメ2本分を経た上での話なのでもちろんファン向け映画なんですけど、ファンとしてはサプライズも大量にあってどこを切り取ってもエモエモのエモな嬉しさが特大ハッスル大回転だったわけですよ! 中でもシンとデスティニーが大活躍して大人気キャラクターに昇格しているのは、20年間も溜まりに溜まった鬱憤が清々しく晴れ渡る思い。さらにその結果、いまだにデスティニーガンダムのプラモが即売り切れてて普通のHGを私が全く買えていません! 何でだよ! 映画公開の1ヶ月前とか余裕で余ってたのに!
 そしてアスランがおもしれー男にクラスチェンジしたことで圧倒的にズゴックの人気が拡大! キラもちゃんと無敵のスーパーコーディネイター様から普通の悩める若者の面を出しましたし、ちょいちょい趣味のヤンチャさが垣間見えるのも良かったですね。ロマンティクスもしましたしね。

 だからもうこれに関しては「ガンダム知らない人にもオススメだよ!」とか全くないので全部聞き流してくれていいんですが、かつて『ガンダムSEED』を観ていた人はとりあえず観といて損はないです。観たことなくても「よくわかんないけど、何かわかった!」くらいの理解は得られますし、まあやる気があればテレビシリーズの総集編映画とかあるんで……。

 いいんですよ、今ガンダムは。『GQuuuuuuX』も異常に面白いですし、Netflixの『復讐のレクイエム』も面白いですし、ハリウッドガンダムも万博ガンダムも控えてますからね。後は『閃光のハサウェイ』の続きさえ決まってくれれば、こんなに嬉しいことはない……。



 と言うことで、2024年のベスト映画10選でした。あとは結構迷うところでしたが『侍タイムスリッパー』もバツグンに良い映画でしたし、『帰ってきた あぶない刑事』、『ルックバック』、『PUI PUI モルカー ザ・ムービー MOLMAX』。『オッペンハイマー』、『デューン 砂の惑星 PART2』ももちろん良かったです。キワモノだと『キラー・ナマケモノ』も白眉だったのでオススメです。

 今年は今のところはジェイソン・ステイサムの『ビーキーパー』、テレビ先行版の『GQuuuuuuX』、そして何と言っても『トワイライト・ウォリアーズ』が現時点ではベスト・オブ・ベストです。
 イケメン達の熱い友情とイケオジ達の熱い友情、スーパーアクション! そして硬直! 久々にズバ抜けて面白い香港映画ですのでぜひご覧ください。アクション映画ファンと、カッコ良いモノ好きの女性にもオススメ。

 現状では私の2025年映画は養蜂家ステイサム、緑のおじさん、龍兄貴で埋め尽くされていますが、まだまだこの先楽しみな作品が山ほどありますので今年も良い映画体験をしていきましょう!

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