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百寺巡礼(016)薬師寺 奈良 2022年7月23日

「薬師寺、西塔の光。。。」

奈良の薬師寺を訪れた日、少年の頃にタイムスリップするような感覚が胸をよぎった。この寺には修学旅行で訪れた記憶がある。当時、薬師寺の僧侶、高田好胤さんの法話を聞いたクラスの空気を、今でもはっきりと覚えている。僧侶の言葉に耳を傾けたあの瞬間、思春期の私たちに何か特別な影響を与えたのだろう。

高田好胤さんは、法相宗の名僧であり、「話の面白いお坊さん」として知られていた。その語り口は仏教の奥深い教えを分かりやすく説き、さらに百万巻写経勧進を推進し、薬師寺の伽藍再建に尽力された。金堂や西塔が甦ったのは、彼の生涯にわたる情熱の賜物だった。

再建された西塔の美しさには特別な魅力がある。それを眺めながら、ふとアンドレ・マルローの言葉を思い出した。「建造物は、建造された時の姿で見られる権利を有する。」この考え方が薬師寺の伽藍にも息づいていると感じた。復元された建物が、過去と現在を結びつけ、未来へと続く時間の流れを形づくる。

薬師寺は、ただ歴史を語るだけの場所ではない。その復興の物語を通して、人が築き、護り、伝えていく意志を教えてくれる。西塔を背景に立ち尽くした私は、静かにその思いを噛みしめていた。


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