百寺巡礼(013)毛越寺(平泉)2022年7月7日
「毛越寺に巡り合う幸運な一日」
東北の緑濃い初夏、平泉の町を訪れた。その日はまるで、百寺巡礼の道が特別な贈り物を用意してくれているような一日だった。
毛越寺(もうつうじ)は、平泉の中心からほど近い場所に位置する天台宗の名刹。境内は平安時代の雅を彷彿とさせる風情に包まれ、歴史の静けさと清らかさが漂う。その日は偶然にも菖蒲祭りの最終日。通常は非公開であるご本尊が特別開帳され、念願叶ってそのお姿を拝むことができた。
さらに幸運は続く。寺の総務部長である南洞様、尼僧の方自らが寺内を案内してくださった。丁寧な説明に耳を傾けながら歩くと、毛越寺の庭園や堂宇がただの建築物ではなく、祈りと時代の息遣いを宿した存在であることを感じる。そして、国の重要無形民俗文化財に指定されている「延年の舞」が奉納される様子を目の当たりにした。優雅でありながら力強い舞は、平安の人々の祈りと喜びを今に伝えていた。
毛越寺の象徴である庭園は、特別名勝として国の指定を受けるにふさわしい美しさを誇る。池の水面に反射する光、自然石を用いた造形、季節の花々が織りなす景色は、訪れる者の心を穏やかに解き放つ。平安様式で建てられた伽藍の佇まいが、どこか懐かしくも荘厳な印象を与えるのは、歴史の重みと共に、この地の祈りが生き続けているからだろう。
あの日、菖蒲祭りの華やかさと特別な開帳、南洞様の案内、そして「延年の舞」を目の当たりにしたことは、百寺巡礼の旅にとって忘れられない章の一つとなった。毛越寺が持つ静けさと豊かさは、訪れた者の心にいつまでも響き続ける。