百寺巡礼 (004) 善光寺 (長野)2022年3月30日
東京から長野への道のりは、新幹線ならわずか2時間。だがこの日はあえて在来線を乗り継ぎ、碓氷峠をJRバスで越えながら、8時間かけてのんびり旅を楽しむことにした。車窓から移り変わる風景や、駅ごとに変わる人々の息遣いに耳を澄ませる。こうした時間は、今の世ではなかなか味わえない贅沢だ。
善光寺に到着したのは、夕方近く。特別御開帳のまさに前日とあって、境内は準備に追われる人々の活気で満ちていた。大きな仏間から響く木槌の音や、緋毛氈を敷く手際のよい姿――そんな風景は、何百年も変わらず繰り返されてきたものかもしれない。
「牛に引かれて善光寺参り」という言葉がふと浮かぶ。信仰に導かれ、人が集まる場所には、何かしら不思議な力があるのだろう。この広い寺の空間は、人々の想いをそのまま包み込むようだった。
旅の疲れを少し感じながらも、私は明日の御開帳の始まりを想像し、心静かに手を合わせた。道中のマッタリとした時間も、この善光寺の厳かな空気も、どちらも私にとって貴重な巡礼の一コマだった。