百寺巡礼(020)大念佛寺 大阪 2022年8月26日
「共生」の響き――融通念仏宗総本山
大阪市平野区に足を運んだ日、私は融通念仏宗の総本山であるこの寺に導かれた。歴史の波に揺られながらも、その静けさと威厳は、訪れる者の心をただ黙らせるだけの力を持っている。
寺の名は「大念佛寺」。創建は大治2年、すなわち平安時代末期と伝えられる。ここは日本で最初の念仏道場であり、祈りと念仏の灯が絶えることなく続いてきた場所だ。その中心にある本尊「十一尊天得如来」は、この宗派特有の存在であり、阿弥陀如来と十菩薩が描かれた絵像である。その姿には、ただ一つの仏としての「オンリーワン」の輝きがありつつ、同時に他者とともに生きる「共生」の精神が込められているという。
案内をしてくれた僧侶は、静かにこう語った。「融通念仏宗の教えの根底には、助け合い、許し合い、そしてともに生きることがあります。この『共生』は、ただの理想ではなく、私たちが日々の中で実践すべき道です」と。
「共生」という言葉の奥深さに、私は思わず足を止めた。現代社会の中で、どれだけの人が真に他者と共にあることを意識しているのだろうか。互いを許し、支え合うことの大切さを知りながらも、競争や孤立が日常化した今、その教えはますます輝きを増しているように思えた。
本堂で祈りを捧げると、ふと背後の空間が広がるような感覚があった。天井から差し込む柔らかな光が、本尊の絵像を優しく包み込む。その光景は、どこか懐かしく、そして未来を予感させるものでもあった。
この寺に流れる「共生」という精神は、単なる宗教の教えではない。人間が真に人間であるための、普遍的な指針であると感じた。二十一世紀という激動の時代にあって、この言葉は私たちに新たな道標を示している。
寺を後にする私の耳には、風に乗って念仏の声が微かに響いていた。その声は「共生」の響きとなり、今も私の胸の奥で鳴り続けている。