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百寺巡礼(036) 東光寺 (萩・山口)  2023年2月24日

この萩の街には、時間そのものが悠然と流れているように感じる。町並みは歴史の中に溶け込み、そこに立つだけで、過去と現在が交差する瞬間が訪れる。日本海の風が運んでくる潮の香りと共に、歩を進めるたびに歴史の足跡が足元で響いてくるようだ。

元禄四年(1691)、萩の町に建立された東光寺は、毛利吉就によって建てられた。その後、吉就の死を受けて毛利家の菩提寺となり、萩の歴史の中で重要な役割を果たすことになる。毛利家は、もともと100万石の大大名だったが、関ヶ原の合戦後、西軍に属していたため、減俸を受けて37万石となり、この萩へと移転した。元々何もなかった土地に、萩は急速に発展し、今ではその歴史的な背景を色濃く残す街となっている。

五木寛之は、この土地の持つ意味を深く感じ取っている。維新の時、萩から多くの人材が登場しなければ、日本の進路は今のようにはならなかっただろうと語っている。その言葉の中に、萩という町が持つ歴史的な重みが集約されている気がする。もしも萩が今のような役割を果たしていなかったら、我々の今はなかったかもしれない。

そして、ひとときの余談が私の心を少しだけ軽くする。津和野へ向かうバスの時間が迫る中、旅のクーポンを使えるお店を探すことに奔走し、ようやく見つけた食堂で、濃口の刺身醤油を二本手に入れることができた。どこか懐かしい味わいが、これからの道のりに花を添えるようだった。

この萩という土地が持つ不思議な力に、私は少しだけ感動していた。


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