百寺巡礼 (012) 黒石寺 (奥州) 2022年6月25日
妙見山黒石寺。岩手県奥州市水沢黒石町にひっそりと佇むこの古刹には、まるで時の流れが穏やかに後ろに引いていくかのような静けさが漂っています。その佇まいは、時折訪れる風にさえ耳を傾けたくなるような感覚を与えてくれる。天台宗の寺院として、ここには薬師如来の坐像を本尊として祀り、重要文化財に指定されている平安時代初期の在銘像が今も静かに安置されています。
その地は、大谷翔平選手の故郷でもあります。スポーツの世界で世界的に名を馳せた彼の故郷が、ひっそりとした佇まいの黒石寺の近くであるという事実が、どこか不思議な縁を感じさせます。この寺もまた、静かな時の流れに包まれた場所なのです。
その日、私が訪れた時、ご住職の母親と思われる尼僧が自ら寺内を案内してくださった。優しい笑顔と穏やかな言葉で案内されるうちに、私の心は少しずつ、しかし確かに、この場所と一体となっていきました。寺内のあちこちに目を配りながら、ふと、尼僧が言いました。「そう言えば、かなり前に五木寛之さんがこの寺にいらっしゃいました。」その言葉を耳にして、私は思わず立ち止まりました。五木寛之さんがここを訪れた、そんな事実が、何とも言えぬ温かな余韻を残し、私の心の中に染み渡ったのです。
黒石寺の静けさとその歴史に包まれ、私はしばし時間の流れを忘れ、この場に存在することの意味を感じました。薬師如来の優しい視線を受け、私はまた一歩、人生の歩みを続ける力を得たような気がしました。