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百寺巡礼(001) 浅草寺(東京・浅草)2022年03月27日

旅はいつも、ある種の「脱出」から始まる。私にとってその脱出は、タイからの帰国、いや、ある意味では「evacuate」だった。それから一年後、百寺巡礼を始めたのは偶然ではなく、むしろ必然だったのかもしれない。

2022年3月27日、世界がコロナ禍の闇に包まれる中、私の百寺巡礼はこの寺から静かに始まった。自宅から一番近いこの名刹は、五木寛之氏が彼の巡礼で訪れた寺の一つだ。ここで私は初めて御朱印帳を買い手にした。その手触りの新しさは、まるでこれから始まる旅が予感させる未知の道程そのものだった。

門前に立つと、ひんやりとした空気が頬を撫でる。ほとんどシャッターが降りた参道の奥から聞こえるかすかな鐘の音が、心の深い部分に触れる。五木氏がこの寺に感じた何かが、いま私にも伝わるような気がした。

百寺巡礼は、単なる寺巡りではない。それは、自己との対話であり、人生の問いを巡る旅路だ。一冊目の御朱印帳を手にしたその瞬間、私の中に「出会い」と「始まり」の感覚が確かに宿った。

そして私は歩き出した。五木寛之が遺した足跡を追いながら、自らの道を探るように。



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