『豚に真珠湾攻撃――ブタッブタッブタッ!――』
面食らった。二の句が継げないとはこのことだ。
わざわざ伊勢志摩の真珠専門店に出向き、一番高級な南洋真珠を選んで買って来たのはこんな屈辱を味わうためではない。
眼前で薄ら笑いを浮かべた豚が膝を屈した俺を見下ろしている。史上最悪の微笑み豚。特殊飼育されているという噂の特A甲賀豚研究所に忍び込み、この馬鹿高い真珠を見せつけ、「 無念無念! さぞかし無念! どう転がってもお前らにこの美しい真珠の価値はわかるまい! ガハハハハハハハッ!」と高笑いを決めつつ、日頃の鬱憤をスカッとさせた勢いでかつてない祝杯パーティーを催す算段だった。
だが真珠を見せ、ここぞとばかりに息巻いてみせようとした瞬間――「ほう、これは珍しい。南洋真珠の中でもそれほどの大珠はさぞや希少でしょう」――豚が口をきいた。「これは失礼。あまりの見事さについ、ご挨拶もなしに。私の名はアルジャーノン、以後お見知りおきを。ではちょっと拝借……」
口を開けたまま固まっていた俺の手からひょいと真珠を抜き取ると、アルジャーノンと名乗った豚はまじまじと光沢を眺めながら先を続けた。
「基本色のホワイトととろみのあるピンクゴールドの溶け込み具合が絶妙、かつ独特のお色目ですな。 干渉色にはピンクブルーが浮かび上がってきて、これぞ真珠の奥深い輝きというものを内包した紛うことなき本物の逸品!」
「……」
「いやはや、なんとも素晴らしい代物を堪能させて頂き、光栄でございました。重量感、質ともにゴージャス感のある真珠ですからドレスアップスタイルにピッタリくるでしょう。ご婦人方のパーティー用にプレゼントなさればとても喜ばれると思いますよ」
俺は何も言えぬまま、ただゆっくりと膝から崩れ落ちた。こんなはずじゃ…こんなはずじゃ、ない。
「見知らぬお客人。この世に飛べない豚なんて一匹もいないのですよ」
――史上最悪の微笑み豚。いや、本当の豚は俺の方だったのかもしれない。たとえ一生かかっても、俺はあんなに鮮やかには飛べやしないだろう。