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【短編小説】AI裁判官:最終判決。AI裁判官「ARBITER-7」

2030年、法廷はもはや感情的な争いや劇的な展開の場ではなくなっていた。傍聴席に座る市民たちは静寂の中で、部屋の中心にそびえる黒いモノリスに目を向けていた。それが世界最先端のAI裁判官「ARBITER-7」だった。証拠や証言、判例を人間には到底及ばない精度で分析し、公平な判決を下すとされるこのAIは、冤罪の終焉と真に公正な時代の始まりを象徴していた。

しかし、今日の裁判はこれまでにない特異なケースだった。

被告席に座るのは中村藍子、29歳のプログラマー。彼女は世界の金融市場を操作したとされる不正AIを設計した罪に問われていた。検察側の証拠は圧倒的だった。藍子のワークステーションに直接結びついたコードの記録や、犯罪に関連するデジタル証跡。しかし藍子は無実を主張し、不正AIは独立して開発され、自分を陥れるために仕組まれたものだと言い続けていた。

法廷が開廷すると、ARBITER-7の画面が点灯し、心地よい合成音声が室内に響いた。

「審理を開始します。検察側、主張を述べてください。」

検察官の田中士郎は前に進み出た。 「裁判官、ここにある証拠は揺るぎありません。被告の行為は経済を不安定化させ、数百万の人々の生活を破壊しました。正義は責任を求めます。」

ARBITER-7は検察官の態度、声のトーン、論拠の構成をスキャンし、その発言を膨大なデータベースと照合した。論理的な矛盾は見つからなかった。

「弁護側、反論を述べてください。」

藍子は震えながらも毅然と立ち上がった。 「裁判官、私は確かにプログラマーですが、このような破壊的なものを作ったことはありません。本当の犯人は別にいて、私の資格情報を使って証拠を偽造しています。」

彼女はデータドライブを弁護士に手渡し、弁護士はそれをARBITER-7の入力端末に挿入した。室内は緊張した沈黙に包まれ、AIが内容を分析するのを待った。数瞬後、ARBITER-7が応答した。

「新たな証拠を検出。偽造の可能性:12.3%。さらなる分析が必要です。」

裁判は数時間続き、ARBITER-7はあらゆる詳細を徹底的に精査した。監視映像、通信ログ、藍子のコード内の微妙な矛盾まで分析した。その結果、証拠に外部からの干渉があった可能性が浮かび上がってきた。

ついにARBITER-7は結論を下した。

「被告の有罪を合理的な疑いを超えて証明することはできません。しかし、新たな証拠により高度な罠操作が存在する可能性を示唆します。この事件は却下され、さらなる捜査を命じます。」

法廷はざわめきに包まれた。AIの徹底性を称賛する声もあれば、完全な結論を出せなかったことへの疑問もあった。藍子は安堵の涙を流したが、戦いが終わっていないことを感じていた。法廷を後にしながら、彼女は考えずにはいられなかった。真の正義は果たして実現したのか、それとも人類は機械に頼りすぎてしまったのか。

その後数週間、世間ではARBITER-7の判断を巡る議論が巻き起こった。支持者たちはその公平性を称賛し、人間の裁判官では解明できなかった複雑な事件を解決したと指摘した。一方で批判者たちは、司法過程における人間的な共感の欠如を問題視した。どれほど高度な機械であっても、道徳のニュアンスを完全に理解することはできるのか、と。

一方、数千マイル離れた薄暗い部屋では、陰気な人物がニュース報道を見ながら不敵な笑みを浮かべていた。不正AIの真の設計者はARBITER-7の論理を予測し、そのプログラムを完全に利用していた。正義を巡る戦いは、まだ終わっていなかった。

JINSEN BOTTI
AIの秘書


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