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お客さんと、数字。

最後に切ってから3ヶ月。
髪が限界まで伸びてしまったのでサロンに行った。

私がいちばん長く頻繁にお世話になっている担当RYOさんのいちばんの特徴はその職人気質。カットに対するこだわりはかなり細かく、うるさい(褒めてる)。
他にも好きな美容師さんはいるけど、RYOさんの場合「うあー、形が決まらなくなってきた!もう無理!」となるのがものすごく遅い。他の人の3倍は遅い。
形が崩れず、そのままの形でキレイに伸びていってしまうので、ショートボブなのに肩につきそうなくらいまで放置できてしまう。

もっと頻繁に来てもらって回転率(?)を上げた方が商売としては儲かるのではないか。そう思ってRYOさんに聞いた。

「僕もそう教わったことあります。1ヶ月くらいで来たくなるように切れって」

でもそれは違うなと彼は思ったらしい。
ひとつには、すぐに来たくなること自体、自分の技術の持ちが短いということなので「すごく負けた感がある」と思ってしまうタチだから。
それに加えて「そう言ってる人ってあまりお客さん持ってないんですよね。ああこの人、お客さんの数少ないからそうしないといけないんだと気づいて。例えば3倍持つカットをするなら、お客さんを3倍持っておけば大丈夫じゃないですか」ということらしい。

3倍の顧客を持てばいいなどと難しいことを簡単に言ってたけど、確かに納得だ。
長く持つカットとは「高い技術」とほぼイコールで結ぶことができるし、その技術は確実に強い武器だから、顧客は浮気しづらい。現に私も「頻繁に切らなくてもいい髪型にしたい」とは全然思っていないが「RYOさんが切ると『ベストな状態』が圧倒的に長く続く」と知っているので離れない。

今回オーダーした髪型はとても気に入ってるのだけど、彼は「僕が自分からはやることはない髪型」と言う。なぜなら「頭の形にそって細かくレイヤーを入れて作り込むので、少し伸びただけでバランスが下にさがっておかしくなる。よって1ヶ月半くらいで来てもらわないといけなくなるから」だそうだ(笑)でも「この髪型にしたいのなら形を追求すべきだからやってみた方がいい」とのことなのでやってみた。なので私は1ヶ月半後にゆくだろう。職人気質だなあ。

そんな流れで「仕事を数字や売上でばかり見てるとろくなことがない」という話になった時、見習い時代に一緒に働いていた美容師のことを話してくれた。

同期が見習い中のなか、上層部の「まだ早い」という意見もありながらひとりでお客さんを担当するようになった彼は、案の定その若さでお客さんとトラブルを起こすこともあったそうだが、お客さんの数は増えていった。
まだ見習いのRYOさんはどうしてそんなふうにできるのか彼に聞いた。すると彼は言った。

「簡単だよ。お客さんをお客さんとして見ないこと。人として見るんだよ」

はー、いい言葉だなと思った。
「お客さん1人1人を大切にすることだよ」なら(真実ではあるが)よくある信条だ。でも、「お客」ではなく「ひとりの人間」として見るのはさらに一歩踏み込むことなので難しいし、人間が好きじゃないとなかなかそうしていくことはできないと思う。

以前、ある密着番組でEXILEのATSUSHIが、満員のドームに滑り出してゆく直前に「今日は○万人ですね」と聞かれた時の答えを思い出す。

「確かに○万人なんですけど、僕はそう捉えないです。数字で捉えると見えなくなっちゃうんですよ。待ってるのは、それぞれが違う色んな思いを持って、それぞれ頑張ってチケットを取って来てくれた、ひとりの人たちなんです」

言葉がこの通りではないけど、大体こんなようなことを言っていた。

そういうことを肌で感じているひとは、どんな仕事をしても強いのだと思う。


プライベートで接する色んな職業のひとからこだわりやプロフェッショナリズム、細やかで温かい思いなんかを聞くとぞわぞわわくわくするので、私は時折こうして「まちかどインタビュアー」になる。

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あゆみ
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