中国への親近感が改善する一方で、韓国は強く悪化 内閣府の外交に関する世論調査
去る12月20日に、内閣府が毎年10月に行っている「外交に関する世論調査」が公表された。同調査では、各国や地域に対する親近感や今後の関係発展は重要だと思うかどうか等を聞いている。
この記事では、調査結果を毎年出している米露中韓の4カ国について、年齢別・経年推移を見ていくことにする。
米国への親近感 昨年から概ね改善している
今年の米国は、米中貿易交渉の印象が強かったように思う。新天皇即位後初の国賓として5月にトランプ大統領が来日するなど、米国が日本と強く対立することも無かったせいか、20代を除いて改善が見られた。
帯グラフだと複数年の比較が難しいため、各世代の回答を以下のように点数化して折れ線グラフにする。
・親しみを感じる・・・ 2
・どちらかというと親しみを感じる・・・ 1
・わからない・・・ 0
・どちらかというと親しみを感じない・・・ -1
・親しみを感じない・・・ -2
例)令和元年 アメリカ 18~29歳
( 2× 42.7%)+( 1× 42.1%)+( 0× 1.2%)+( -1× 8.5%)+( -2× 5.5%) = 1.08 pt
一時期の70歳以上で 0.5 pt を切っているものの、この20年間、米国に対する親近感は高い水準で推移している。
話を2018年と2019年の比較に戻すと、20代は 1.095 pt → 1.08 pt とやや悪化したが、30代が 0.815 pt → 1.08 pt となるなど他の世代では改善が見られる。但し、2018年の20代は他よりも突出して良かったという前提があるため、2019年も決して悪い値ではない点は留意が必要だろう。
米国との関係発展は重要だと思う 20代・30代で最高
「外交に関する世論調査」では、今後その国との関係発展は重要だと思うかどうかも、2015年から聞くようになった。今どう思っているかを問う親近感とはまた違った設問で、その国との将来について尋ねるため、出てくる結果も異なっている。
米国に対する2019年と2018年の結果は図の通りで、「重要だと思う」が非常に高い。後でロシア、中国、韓国も扱うが、この「重要だと思う」の高さが米国に対する調査結果の特徴だ。
調査結果は5年分あるため、親近感と同様に点数化して経年推移を見る。
・重要だと思う・・・ 2
・まあ重要だと思う・・・ 1
・わからない/一概にいえない・・・ 0
・あまり重要だと思わない・・・ -1
・重要だと思わない・・・ -2
例)令和元年 アメリカ 18~29歳
( 2× 82.9%)+( 1× 16.5%)+( 0× 0.6%)+( -1× 0.0%)+( -2× 0.0%) = 1.823 pt
この5年間は、70歳以上が他と比べて低い水準でかつ悪化傾向にあるが、他の世代は高い値で固まって推移している。
20代・30代では2019年に過去最高値を更新しており、米国との関係発展は重要だと思う人の割合が、若い世代でより高くなっているようだ。
ロシアへの親近感 20代・50代で悪化が見られる
ロシアとは平和条約交渉も停滞している中、20代・50代で親近感が悪化する一方で、他の世代では改善が見られた。
ロシアに関しては基本的に判断材料が乏しいことから、悪化の目立つ20代も特別な理由があるとは考えにくい。もともと他に比べて良好だったところから、他の世代に近付いた結果と見るのが妥当だろう。
ロシアとの関係発展は重要だと思う やや悪化している
ロシアとの関係発展は重要だと思うかどうかについては、「まあ重要だと思う」の割合が大きく、世代による意識の差も開きがある。
点数化して経年推移を見ると、2018年から2019年で30代が改善していることが解る。
この5年間は、20代が 1.0 pt より高い値で推移している一方で、70歳以上では2019年に 0.387 pt と最低値を更新するなど低い状態が続いている。70歳以上が他よりも低くなっているのは先述した米国も同様であるため、「そういう世代」なのだと思われる。
中国への親近感 30代を除いて改善している
中国に対する親近感は30代で強く悪化した。他の世代では「親しみを感じない」「どちらかというと親しみを感じない」が減っているだけに、30代の動きは非常に目立っている。
今年の中国は、米中貿易交渉や香港民主化デモの印象が強かった。日本で報じられた中国に関するニュースも遡ってみたが、中国に対する親近感が改善する要因は、両国が直接衝突しなかったことだろうか。
中国に対する親近感は最も悪化した2014年から回復傾向にあり、今は下がり過ぎた値が戻っている最中にあると思われる。
一方で、「外交に関する世論調査」が行われる直前の10月1日にデモに参加していた男子高校生が警察に撃たれており、30代での親近感の悪化はこうした出来事が影響したものだろう。
しかしデモ対応を要因と考えると、他の世代で同様の反応とならなかったことに違和感も残る。香港民主化デモは、世代によってその見方が異なるのかもしれない。
中国との関係発展は重要だと思う やや悪化している
今後、中国との関係発展は重要だと思うかどうかについて、2018年と2019年を比較すると、すべての世代で悪化している。
経年推移を見てみると、2018年に多くの世代で過去最高値となっていた。
しかし、米中貿易交渉で米国と衝突する姿や香港民主化デモへの対応から、改めて中国との関係を考える機会が生じたのだろう。今後の関係発展については、やや慎重な姿勢に傾いたようだ。
韓国への親近感は すべての世代で強く悪化している
韓国に対する親近感について、2018年と2019年を比較すると、すべての世代で悪化している。世論調査の結果が毎年出ている米露中韓の中で、今回、親近感がすべての世代で悪化したのは韓国だけだ。
これまで、全体での最低値は2014年の -0.66 pt だったが、2019年は -0.79 pt と最低値を更新している。他の世代よりも高めに推移してきた20代・30代も強く悪化したのが今回の特徴だ。
いわゆる徴用工の問題は昨年10月から続いているほか、2015年の日韓慰安婦合意によって設立された和解・癒やし財団の一方的な解散、韓国駆逐艦による日本の P-1哨戒機に対するレーダー照射問題、大量破壊兵器の製造にも用いられるため国際的に輸出管理をしているフッ化水素等を巡って日本側が韓国をホワイト国から除外したこと、逆に韓国側も日本をホワイト国から除外した上に GSOMIA 破棄をほのめかす騒動。
また、韓国文化に親しむ日本の若い世代にも韓国 SNS で広がる指殺人など、韓国の印象を下げる話題が続く1年間となった。
一つ一つの問題が解決や落着することなくまた次の新しい問題が発生する今の状態が続く限り、韓国に対する親近感の改善は難しいだろう。
韓国との関係発展は重要だと思う すべての世代で悪化
今後、韓国との関係発展は重要だと思うかどうかでも、すべての世代で悪化している。
経年推移で見ると、これまで全体の値が 0.6 pt 付近で推移してきただけに、2019年の 0.282 pt は明らかな異常値だ。
また、関係発展は重要だと思うかどうかについて、2019年米国の全体は 1.689 pt、ロシアの全体は 0.795 pt、中国の全体は 0.833 pt となっている。韓国の値は突出して悪く、事態の深刻さを伺わせる。
編集後記
5月に内閣府の「外交に関する世論調査」を扱った記事を書いたため、その追跡として今回の記事を書いておくことにした。
個人的には、中国への親近感の改善が驚きだった。
深圳市の発展などを見ると、経済規模の大きくなった中国との関係発展は否応なく重要だと、筆者は考えている。しかし一方で、香港民主化デモの制圧を見て解るように政府の意向はどんな形でも押し通すのが中国流であって、中国はあまり親近感を抱く対象にならない。内閣府の世論調査の結果で言えば、親近感は30代のもの、関係発展の重要性は20代のものに近い。
各回答者は親近感を中国国民への意識、関係発展の重要性を中国政府への意識と分けたのかもしれない。しかし、個人的な友人知人を持っている人でもない限り、その国の公的な動きがその国のイメージと成るため、そこは分け難いものだと筆者は思っている。
それよりも気になるのは、韓国だ。やや悪化するという程度ではなく、いずれも強い悪化を示したのは深刻な状況だろう。
親近感にせよ、関係発展は重要だと思うかどうかにせよ、「評価者である日本が、対象国である韓国をどう見ているか」の話で、基本的に日本側が変わることで改善されるという話ではない。
P-1哨戒機に対するレーダー照射や行方不明のフッ化水素など、少なくとも韓国側の釈明が必要な問題に関しては、韓国に誠実な対応をして貰いたいと個人的には思う。(了)
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