コロナ禍に造血幹細胞提供(骨髄提供)をしてきました・①
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ということで、前回からの続きです。予告した通り、今回は私がドナー登録をした経緯について話をしていきたいと思います。
2019年 6月までドナー登録する気はなかった
競泳の池江璃花子選手が白血病と診断されたことを公表したのが、2019年 2月12日のこと。池江選手の白血病公表は多くの反響を呼び、その直後から「ドナー登録したい」と骨髄バンクへの問い合わせが急増します。同年 3月26日の新聞報道によると、骨髄バンクへの月間登録者数は通常2,000~4,000人程度で推移していたところ、この 2月の登録者数は初めて 1万人を超えたとあります。
しかし、この頃の私は、ドナー登録をするつもりがありませんでした。
元来、私は針嫌いです。30歳を超えてから献血に通うようにはなっていましたが、それも、病院と家を往復する生前の祖母を見ていて少しでも役に立てることがないかと考えたから。何かと行かない理由を挙げて半年に 1回行くか行かないかというペースではありましたが、それでも献血に協力し続けていることは私にとって劇的な変化でした。
そんな自分にとって、骨髄提供はとてもハードルが高いこと。献血ルームに骨髄バンクの広告ポスターが貼ってあり、ここで申し込めば登録可能なことも知っていましたが、「献血の方は何とか続けるけれども、骨髄移植の方はできる人たちでお願いします」「池江選手の件で登録者が増えたなら、私はやらなくても大丈夫ですよね」という考えで居ました。
骨髄移植の現状を調べる契機となったニュース
その考えが変わるきっかけとなったのは、NHKお昼のニュース。おそらく放送日は2019年 7月 8日。
"おそらく"と付くのは録画などしていなかった為、放送日に確証を持てないからです。私がドナー登録した日は献血に行った 7月29日で、骨髄移植の現状について調べていたのがその前。そして、 7月 8日付けで NHK News Up に掲載されたという記事が私の記憶内容と近いことから、日付はこの辺りだと思っています。
さて、私が記憶しているニュースの内容は、池江選手の白血病公表でドナー登録が増えたこと、一方で、型の一致したドナー候補者が提供を断るケースも多く骨髄バンクの業務に支障が出ているというものでした。NHK からの対面取材に骨髄バンク側が答えるという形だったと思います。
それを見ていた私は「自分で手を挙げない限り始まらない話なのに提供を断る」ということが理解し難く、note を書く意欲も高かった時期だった為、骨髄移植について調べてみることにしました。
適合率9割でも移植率は6割という移植事情
ネットで検索をかけて最初に出てきたのは骨髄移植によって命が助かった患者さんの話で、患者さん側の過酷な闘病生活やドナーに対する感謝の気持ちが伝わってきました。
しかし、自分が知りたいのはドナー側の話です。
さらに検索を進めて見つけたのが、「近年、移植を希望する患者の 9割以上で HLA型(白血球の型)が適合するドナー候補者が見つかるものの、実際に移植を受けられる患者は約 6割にとどまる」という問題でした。
最終更新が2018年となっていた自治体の骨髄バンク事業に関するページで見つけた問題で、「ドナー自身の健康上の理由」を除くと、ドナー候補者が辞退する理由は仕事による多忙などで「ドナーの都合がつかない」が最も多いとあります。同じ話は、2010年代に各地の地方議会で採択された「『骨髄バンク・ドナー助成制度』創設を求める請願書」にも出てきます。
こうしたことから、池江選手の白血病公表による登録者の急増と関係なく、いざ手術となると辞退するドナー候補者が多いという問題が長年にわたって常態化している移植事情が分かってきました。
さらに、骨髄バンクが2018年に25周年を迎えたという新聞記事には、骨髄バンクは約49万人の登録者を得たものの、転居などにより連絡がつかなくなった登録者が 8万人にのぼっているとあります。
辞退しなかったドナーの方々へと興味が移る
特典もないのに「ドナー登録したい」と手を挙げて始めた人助けだったはずなのに、患者さんから頼られても辞退せざるを得ない状況にあることを骨髄バンクに伝えなかった結果、実際に頼ってきた患者さんの手を振り払って患者さんが生きる邪魔をしている登録者が 1人や 2人ではないという状況は、幾ら考えても私には受け入れ難いものでした。
骨髄バンクが登録者の質を伴っていないことに深刻さを感じたものの、住所変更すら伝えない登録者が 8万人も居るというのは、ちょっと怒ったところでどうこうなる状態とも思えません。
そうした中で、私の興味は、辞退する人も多いのに断ることなく骨髄提供をしたドナーの方々が考えたこと、体験したことに移っていきました。
自分がドナーになったつもりで考え始める
検索ワードを変えて幾つかの骨髄ドナー体験記をヒットさせて、その中から編集者の手が入っていない個人の物の方がいいと思いつつ、幾人かの体験記を読みました。適合通知が届いたのは登録してから10年後だった方や、反対する家族と大喧嘩したものの自分の意志を貫いて提供した方など様々でしたが、共通しているのは「人助けとして始めたことを、人助けとしてやりきった」ということ。
当時の私は、「自分にこれはやり切れるのだろうか?」と、自分がドナーになったつもりで体験記を読んでいましたが、ドナーとしての苦労や思い、達成感などは伝わってきたものの、「どういう手術だったのか?」はいまいち要領を得ません。前回、私自身も「手術は寝て起きたら終わっていた」と書いたように、当然と言えば当然なのですが。
漠然と「痛そうな手術」という印象よりも、もう少し詳しく手術の流れみたいなものを知りたいと考えて辿り着いたのが、日本骨髄バンクの『骨髄採取マニュアル』でした。このマニュアルを読んだことで、ドナーが全身麻酔でどういう手術を受けるのか、どんな器具が使われるのかを一通り確認することができました。
私にとって、骨髄バンクの件は「note で書いて世間に物申す」といった意欲で調べ始めた話でした。
しかし、患者さんの話を読み、骨髄バンクの現状、ドナーの体験記と調べていく中で私の心境も変化していき、いつしか「自分だったら骨髄提供はできるのか?」という方向に傾いていました。ドナーをされた方々の体験記を読んでいて、手術に関する記述がフワッとしていることに不満を感じて骨髄採取マニュアルに行き着いたのも、自分はその手術に耐えられるのか判断材料が欲しくなったからです。
いつもの風呂掃除中にドナー登録を決める
骨髄移植について調べた後は「ドナー登録する/しない」を繰り返し考える日々が続きました。そして、献血を翌日に控えた2019年 7月28日の日曜日、いつもの風呂掃除をしている時に私はドナー登録することを決めます。
骨髄採取マニュアルを読んでみて手術内容は怖いと感じたものの、全身麻酔で行われる手術であり、寝ている間に始まって寝ている間に終わっているはずです。寝ている間に済むことであれば、自分の腰でお医者さんがガチャガチャとしていても問題はないという結論に至りました。
全身麻酔については、骨髄採取よりもずっと多くの件数が各地の医療現場で行われている訳で。そこへの抵抗感は、全身麻酔という医療技術よりも、手術をする医師・医療スタッフを信頼できるかどうかの話に見えます。採取を担当するお医者さんとは手術までに何度も会う機会があるようですし、おそらく心配はないだろうと考えました。
術後の痛みも気にはなったものの、ドナーの体験記などを読む限り痛み止めを処方してもらえる様子。つまり、術後の痛みは我慢する類の話ではなく、薬を出してもらうなどして対処していく問題だと判断しました。
そうした話を整理していった結果、「全身麻酔って、どういう感じなのだろうか? 医龍みたいに 5つ数えている間に寝てしまうのだろうか?」といった好奇心の方が上回るようになっていました。
またこの時、健康診断の結果で自分の骨髄は使えないと言われた場合は兎も角、ここまで考えてきた経緯が経緯であり、私自身は辞退する権利を捨てた状態で登録するという覚悟も決めました。
そして何よりも、ドナー登録会やイベントといった特別な場所・特別な雰囲気の中ではなく、いつもの風呂掃除で床や浴槽を磨きながらいつもの精神状態で各結論を出せたことが、私のドナー登録の決め手となりました。
ご家族への相談もお早めに
いま思うと、私はこの 7月28日の時点で、家族にも一度話を通しておくべきだったと思います。結果的に、私は家族の同意を得られたため骨髄採取まで行くことができましたが、毎年、家族の同意を得られずに辞退するケースが出ています。
法律(移植に用いる造血幹細胞の適切な提供の推進に関する法律)的にはドナー本人の同意だけで押し切れる話だと思います。しかし、面談や検査のための通院、手術に伴う入院、そして手術後にも家族のサポートが必要となる可能性があり、骨髄バンクは家族の同意も重視しています。『骨髄提供に関する同意書』を作成する際も、ドナーと、同席して説明を聞いた家族代表またはそれに準ずる人とが連名で署名をします。
家族と揉めて辞退ということになると、最もダメージを負うのは患者さんですから、家族・周囲への相談は早めに済ませておくことを推奨します。
2019年 7月、献血にあわせてドナー登録
そうして迎えた2019年 7月29日月曜日、私は予定通りに献血へ行きました。
いつも通っている献血ルームは商業施設の上階にある為、エレベーターに乗ってからもう一度、「引き返すなら今だぞ。骨髄バンクへの登録を切り出すことなく、献血だけして帰ることもできるぞ」と自問しましたが、私の気持ちは変わりませんでした。
献血ルームに入ると、受付で「献血は献血でやりますが、ドナー登録も考えています」と伝えて、ドナー登録のしおり『チャンス』と登録申込書を受け取りました。念の為しおりにも目を通しましたが、だいたい既に調べて知っている話だった為、申込書に氏名や生年月日、住所、電話番号、身長、体重などを記入していきました。
前回の記事でも書きましたが、提供できる骨髄の量は体重によって決められます。そのため、ドナー登録には、18歳以上54歳以下という年齢制限や健康体であることという条件の他、男性45kg以上/女性40kg以上という体重制限もあります。
また、ドナー登録する際には HLA型(白血球の型)を調べるために 2mlの採血が必要となりますが、その 2mlは、採血ベッドで献血用の針を刺した時にそこから採ってもらえました。針嫌いの私としては、献血時のひと刺しを我慢するだけで両方を済ませられたのが有り難かったです。
闘病患者のつぶやきと改善を図るWeb問診票
白血病と闘っている患者さんが「どうか、提供する意思がないのであれば、登録を解除してください」と Twitter に投稿したのは2019年 7月 5日のことでした。私が見た NHKのニュースは、この投稿を受けて取材・報道されたものだったのでしょう。
患者さんがコーディネートを進められるドナー候補者数は、初回のみ最大10名。その後は 5名未満になった時点で次の候補を追加でき、最大 5名まで同時進行できます。この様な制限があることから、辞退を申し出る登録者の存在は、患者さんがドナーを探す上で邪魔となる訳です。
私が骨髄提供をした時期までは、骨髄バンクはドナー候補者のやり取りを封書・レターパックで行っていたため、辞退の申し出は数週間もの時間の浪費となっていました。現在は、スマホによる Web問診票を使うことで郵送待ちを時短できるようになっていることから、応答時間の長期化はかなり改善されていると思います。
それでも、提供できる可能性があるドナー候補者を 1人の患者さんで独占しないよう、患者さんが連絡をとれるドナー候補者数に上限があることに変わりはありません。
適合通知に対して辞退という返信に至る方々も、ドナー登録した時は「人助け」であったはずです。当初の人助けを最後まで人助けとして終わらせる為にも、途中で提供意思がなくなったり、提供が難しくなったりするのであれば、すぐに骨髄バンクに連絡を入れて予めドナー登録の取り消しや保留をしておくべきでしょう。
次回は、初めて届いた適合通知
以上、私がドナー登録をした経緯のお話でした。
私にとってドナー登録はノリと勢いで超えるには高過ぎるハードルであった為、登録前までに自分でそれなりに調べましたし、時間も相応に掛けて考えた方だと思います。
ドナー経験者の話を探してここに辿り着くぐらい真摯に考えている方であれば改めて言う必要もないことだとは思いますが、人助けで始めたことが最後まで人助けとして終われる行動選択をして欲しいと思います。
次回は、初めて届いた適合通知とコーディネートの終了という話をする予定です。私は骨髄提供をする前に、患者さん理由によるコーディネート終了を 2回経験していますから、その辺りのことを書いていきます。(了)
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