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近所の銭湯のはなし

この家に住み始めてから半年が経った。住む場所の条件として家賃と立地はもちろん最優先だったのだが、実は密かな条件にしていたことがあった。それは「銭湯」だ。元々住んでいた家の近所には銭湯などなかったので、気軽に銭湯へ行ける生活にちょっとした憧れを抱いていた。

その密かな条件を満たした今の家の周りには、銭湯が2つある。引っ越してきた当初、いつ行こうかと考えていたがそこは真夏の東京。歩いて10分弱の銭湯からじんわり汗を浮かばせながら帰ることは容易に予想された。かと思えば、今年は秋が短く気付いたらコートを着る季節になってしまっている。その寒さはまた、私に徒歩10分の億劫さを感じさせた。

1月も半ば。その日は急にきた。仕事後の友人との約束が流れてしまい直帰した日、急な時間の余裕は私を「有意義な時間にしろ」と駆り立てた。いろいろと溜まっていたことをこなした勢いで急に「寒いし銭湯行くか」と思い立ったのだった。気づくとシャンプー類をカバンに入れ、銭湯へと向かっていた。

何度か目の前を通ったことのある建物に入ると、そこは想像以上に昔ながらの雰囲気が残る銭湯だった。歴史を感じるロッカー、マッサージチェア、洗面台。ただ、よく掃除されていて綺麗だ。地元のおばちゃんたちに混じり、不慣れさがバレないよう少し様子を伺いながら浴室に入る。天井が高く、思わず見上げてしまう。5種類ほどある浴槽にわくわくした私は何度も順番に入った。気付けば30分以上経っている。なんていい時間なんだ。

なんで早く来なかったのだろうかと思った。仕事後、時間を気にせずにゆっくりと湯船に浸かることは、想像以上に幸せな時間だった。これが「今日しか行けない」場所だったらすでに行っているだろう。「いつでも行ける」と思っていると、自然と足は遠のいてしまう。行きたいと思っていても行かないということは、結局自分の中でそこまで優先順位が高くないということなんだろうけれど、時にそれはもったいないことがある。
私はまた近いうちに、その銭湯に行くだろう。寒さなど関係なしに。そして、ちょっとした「やりたい」ことに、もうちょっと手をつけていくのがいい。

Jan.16 2020

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