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畑選び


私は2021年1月に、今まで5年間勤めた会社を退職したが、すぐには転職せずに、人生100年時代の、残された約50年の時間の使い方を時間をかけて考えている。

幸い、定職についている夫の収入と5年間貯めた貯金のお陰で、贅沢をしなければ暮らして行けるので、
大学に通い直したり、習い事を始めたり、自分のビジネスを始めたりと、いろんな事にチャレンジさせてもらっている。

そんな中、今後の人生設計を立て直すために、手っ取り早く身近な人で楽しく暮らしてそうな年上に片っ端からインタビューして行った。

名古屋の広告代理店時代の先輩でいつもオシャレなスーツを着こなし、ディスコに今でも生き続けているダンディーな方や、大学の先輩でいつも明るく皆の人気者の女性など、手当たり次第声をかけては楽しく歳をとるヒントを沢山頂いた。

その中で、元々大手印刷会社に勤務した後に、入社10年目位で農家になり、地方にある実家の祖父の農地を継いでいる先輩にも話を聞いた。
私は、将来的に収入が減っても食べては行けるように、農業をしたいと考えていたので、彼に農業の始めたきっかけや、始め方を聞く事がとても大きなヒントになると思い、楽しみだった。

インタビュー当日、用意した質問に答えてもらっている中、農業を始めるきっかけとなった本を1冊紹介してもらった。

高坂勝著「減速して自由に生きる ──ダウンシフターズ」だ。

高坂さんは、20代の頃は大手小売店で働かれていたが、その後BARの経営者と農家の半農半X※を実現されていた方で、
(現在BARは閉められている)その生活を実現するためのヒントが本には沢山書かれている。
「農業で米と大豆を賄っているお陰で、収入は少なくて済む」所が、一番私のニーズにフィットした。

自分や家族が食べる分の食料は小さな自給農でまかない、残りの時間は「X」、つまり自分のやりたいこと(ミッション)に費やすという生き方。https://www.ishes.org/cases/2011/cas_id000025.html


また、高坂さんのコメ作りに使われている農法は「冬期湛水・不耕起栽培」という農法も手間がかからず良さそうなので、
早速高坂さんに弟子入りしたいと思い、検索してみたら、田んぼを貸していた。https://sosaproject.net/mytanbo/
場所をGoogle Mapsで検索すると、自宅から117km車で片道2時間。
車の運転に不慣れな私が毎週通う距離としては厳しそうだ。
主人に相談をしたら、彼も毎回付き合ってもらえる訳ではないので、断る代わりに自宅近くの近所の畑を探してくれた。
家から3.6キロ 自転車で14分。レンタカー代もかからず、日頃のいい運動になりそうな距離だ。


HPにアクセスすると、オンライン説明会を毎日開催していたので、早速参加してみた。
母体となる組織は、全国100ヶ所に展開する、資本金6億円の大規模な貸し畑・農園会社である。
主な参加メリットをまとめると下記の通りだ。

・有機農法の美味しい野菜が作れる
・苗や種子・肥料・農具・その他備品が用意されているので、文字通り手ぶらで行ける
・トイレも完備されている
・指導員がいるので、相談ができる

どうやら初心者でも失敗なく収穫できるのがウリの様である。
しかし、値段が高い 約9000円/月 

関西人で、ケチな私は正直「ないな」と、思った。
頭の中にある「ある」「ない」インジケータは「ない」に振り切っていた。
先日も知人に相談したところ「家の庭で簡単になすや胡瓜ぐらいできますよ」と教えてもらったばかりだ。
ホームセンターで買えば1ヶ月分の費用で十分お釣りが来るだろう。

オンライン説明会が終わった後、事務局から電話がかかって来て見学の予約をする事になった。断っても良かったが、農業ビジネスの勉強にもなると思い、行くだけ行ってみる事にした。


見学日当日は、自転車で到着。GoogleMapsの予測通を超えて20分程度で到着した。畑には、小さい畝が沢山あり、丁度、1ターム前のに植えられた野菜が収穫の時期を迎えていた。その日は、収穫を終えた方向けに、新しいタームに向けた講習会が開催されていたので、平日の日中にもかかわらず、4〜5人の借り手の姿があった。

女性の担当者にパンフレットを使用した説明をしてもらった後、畑を案内してもらった。3畝を貸してもらって8800円/月 初年は1年契約。種子や苗は支給されるが、植えたい苗があれば自分で持ってきても良いらしい。

説明会であったように、道具は借りたい放題。そう説明をされている私の前で、借り手の皆さんは慣れた手つきで物置きから農具を持ち出していた。物置に置かれている農具の中で、私が知っている農具はプチトマトを育てた時に添えていた緑色の支柱くらいで、それ以外の物はほとんど見たことも使い方も想像できなかった。

「畑のことで分からない事があればスタッフに何でも聞いてください」とにこやかに言われたのだが、私は、スタッフがどんな方か分からないと、何を質問して良いか分からないので、参考までにと、担当者にここで働かれている経緯をお聞きした。

すると、彼女は農業学部出身で、昔は県庁職員として、地元の農家に世の研究内容を元に、農業指導をされていた方だった。もう1人いらっしゃった男性も、種子メーカーの、種子開発員だったらしい。

失敗の可能性について聞いたところ「上手い人も下手な人もいない」らしく
よっぽどの天候不良が無い限り失敗しないらしい。

私の農業体験の動機は、野菜作りを楽しむために始めたわけではなく、今後の生活を考えるための選択肢探しのために行うので、ここで作る野菜作りプラスアルファ、経験豊かな方から農業知識が沢山得られそうなのはとても魅力的だった。

話を聞いているうちに、私の頭の中にある「ある」「ない」インジケーターが「ない」から、少しづつ「ある」に移動し始めた。

先ほど物置きで見かけた豊富に取り揃えられた農具を自分で買い揃える事や使いこなす事など、これから吸収しなくてはいけない膨大な情報を
「聞く」「借りる」で済むのだ。私は、担当者の上手な営業トークに惑わされまいと、ずっと身構えていたが、ふっと肩から力が抜けた。

農業の失敗は、痛い。1年で済むことが2年かかる事もあり得るだろう。
それに比べて、ここで手厚いフォローの元、確実に成功するパターンは、賢い選択肢と言えるのではないか??

そんなことを考えている私に、担当者が「もしよかったら」と、お土産に収穫時期を迎えたカブや小松菜をくれた。美味しそうな色のラディッシュが目に入ったので、おねだりをしたら、あっさりとくれた。美味しい食べ方も教えてくれたので、私の頭の中にある「ある」「ない」インジケーターが一気に「あり」に振り切れた。

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まだ、別の畑の見学も残っているので最終決断は出来ないが、この畑で年間10万円の授業料を払い、野菜作りをとことん学ぶのも良い判断なのではないかと思った。


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