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駆け抜ける喜び? ペガサス飛馳人生③
どうも、うえなかです。2019年の春節に中国で公開された映画『飛馳人生』の日本版DVD公開を記念して、あれやこれや調べて、わかったことを書いておこうと思います。
前回はこちら
いざ、バインブルグへ
苦心の末、念願のマシンを手に入れた張馳と孫宇強。本番に向けて息子の張飛くんもカウントダウンしています。
続々とバインブルグに向かう他のチームの車列。カット変わってトランスポーター一台で意気揚々と荒野を疾走する孫宇強(と羊(ヤギ))。孫宇強はサービスポイントまであと300キロのところで、親子で飛行機に乗る張馳に電話をします。「俺たち、この百万ちょっとのマシンで、絶対に数百万のマシンたちをぶっちぎれる」と自信たっぷり。詩まで口をついて出ます。
大漠孤煙直 長江落日圓
(広い砂漠には、一筋の煙が真直ぐに、長い河には落日が丸く)
が、この詩はオリジナルの即興詩ではなく盛唐の詩人、王維の「使至塞上(使ひして塞上に至る)」の一節です。
単車欲問辺 属国過居延
(単車 辺を問はんと欲し 属国 居延を過ぐ)
征蓬出漢塞 帰雁入胡天
(征蓬 漢塞を出で 帰雁 胡天に入る)
大漠孤煙直 長江落日圓
(大漠 孤煙直く 長江 落日圓(まど)かなり)
蕭関逢候騎 都護在燕然
(蕭関 候騎に逢へば 都護 燕然に在りと)
この詩を、この場面に即して超訳してみようと思います。私は漢文訓読を瀬戸内海に落っことしてきたので、正しくない、とかいう指摘は無用です。
車一つ(たった一台のトランスポーター)で辺境の地(バインブルグ)に向かおうと、私は居延(とある町)を通過した。
ころころと転がる蓬のような私は漢民族の要塞を出ていくが、北へ帰る雁の群れは異民族の住む空へと消えていく。
(蓬は日本のヨモギではなく、枯れると根が土から離れて転がっていくアザミ科の植物だそうです。自分を蓬になぞらえています。「俺は何にもない人生だった」と語る孫宇強のイメージです)
この広い砂漠では他に見えるものはなく、ただ一筋の狼煙が真直ぐに伸びているのと、長く横たわる河に沈む夕日が真ん丸に映るのが見えるだけだ。(狼煙は辺境の砦のもの。すぐ先に(あと八時間くらいのところに)目的地があるということを示しています)
蕭関(出発した町)で斥候の騎馬兵に聞いたところによると、連戦連勝の都護さま(張馳)は燕然(バインブルグ)にいらっしゃるとのことだ。
詩のタイトルの「塞上」とは辺境の砦のこと。そしてラリー会場(レース場)は中国語で「賽場」。塞と賽は同じ発音です。5年ぶりにレース場に復帰できる喜びで、この詩の一節が口をついて出てきたのです。
5年が意味するもの
が、ここで事態は一変。トランスポーターが横転し、苦心の末手に入れたマシンは大破。立ち尽くす張馳。金も部品もない、あったとしても直す時間がない。「どんなにぶつけても、絶対に修理してやる」と、かつて言っていたメカニックの記星も、なすすべ無しといった表情。張馳は出場辞退申請書を手渡され、記入して提出するよう言われます。
大衆333チームで孫宇強が作った詩のとおり「虎のように勇猛に操るが、目を凝らしてみれば元の場所に突っ立ってる」状態の張馳に救いの手を差し伸べたのが林臻東。
「あなたがレースにでていない5年間が何を意味すると思う?」と問う林臻東に張馳は、
「俺の時代はとっくに終わったっていうことだ。そうだろ、若いの」と答えます。
林臻東は「この5年間で科学技術は進歩した。これまでできなかったことができるようになったんだ」と返して辞退申請書を放り投げます。
最新技術の導入されたピットとスタッフを提供し、張馳のマシンの修理を申し出たのです。それに対し、
「めっちゃ金持ちで、すんげえ頭よくって、スポーツ万能でその上イケメンだからって、調子こいてんじゃねえぞ!」(『ちはやふる 上の句』より)
とはならず、「俺にやらせろ」と、もろ肌脱いで出ていく記星。そう、「絶対に直してやる」ができる条件が整ったのです。(が、なぜ脱ぐ?火花散って熱いぞ!)
ちゃんとジャッキアップしたあとマシンを固定するカットが映ります。過去焦ってケガして引退したことの落とし前です。
こうしてマシンも復活し、レース本番になるわけですが、特に書くことはありません。(あ、『頭文字D』へのオマージュとなる「溝落とし」使ってます)
CGに頼らず、車を改造し、本物のラリードライバーや韓寒監督自身が運転したりして撮影したそうです。本物使っているという点では、このほど公開された映画『フォードVSフェラーリ』も同じです。
ただすげー。と息を飲んで見守るだけです。(うそです。後ほど)
あの結末、何?
5年間毎日20回、計36,500回のイメージトレーニング(妄想ともいう)と、葉部長がくれたラリーコンピュータのおかげで(それを組み込めた記星、天才!)林臻東との差を縮めていく張馳。
「勝ちたいんじゃない、ただ負けたくないだけだ」と全開で最後の直線を走ります。
林臻東の記録を破ってゴールするものの、マシンの破損でコントロールを失い、断崖から「飛馳」します。
そして流れる歌『奉献(ささげる)』(歌っているのは韓寒監督です)。
モルディブに行くといっていた葉部長はとてもそんな様子には見えないし、
「大哥」は自首したのか、逮捕されたのか、取調室のようなところにいるし、
それぞれの人生を背負って飛んでいくようです。
そしてエンドロール
え?これで終わり?
と思ったら、同級生のパパとの対決です。
厳密に言えば、あれはドライバーじゃない。パイロットだ。わかったか。
滑走路を疾走するポロ。(フライングでは?)
監督一作目の映画『後会無期(いつか、また)』でもポロで滑走路を走るシーンがありました。やりたかったんですね。
相手はジェット戦闘機。努力も虚しく抜き去られます。
しかし、息子張飛くんがコインを投入口に入れると……
このシーン何?要るの?
要るんです。パパとの最後の約束だから。
『奉献』の中でも
拿什麼奉献給你 我的小孩
(何を捧げられるだろう、我が子に)
と歌われていました。
レースの終盤、張飛くんはパパに無線で
你答応過我比賽以后要滅了我同学的爸爸
(レースが終わったら同級生のパパをやっつけるって言ったよね)
と言うと、
パパ張馳は
放心、等爸爸贏下這場比賽、這就是賽后彩蛋。
(安心しろ、パパはこのレースに勝つ。そしたら後のお楽しみだ。)
と答えます。
「彩蛋」は「イースターエッグ」のことです。映画の後のオマケ映像も「彩蛋」と言います。
だからこんな構成になっているのです。
さて、コインを入れた後のマシンはボンドカーよろしく変形して空へと飛んでいきますが、映像はすぐに手描きアニメーションに変わります。なぜ?コインを入れるって何?
これ、ゲームなんです。
エンドロールの「スペシャルサンクス」に、
こんなロゴが並んでいます。『守望先鋒(over watch)』というゲームのロゴです。
手描きになってから流れる音楽には、このゲームのBGMが使われています。
そして、ジェット機を抜き去った後に出てくる天使は、このゲームのキャラクターの一人「マーシー」です。「リザレクト」という技が使えます。これは倒れた仲間を蘇生させる技で、この時に流れる音声が「Heroes never die」です。
ということは?というところで映画はエンドロールに戻り、韓寒監督作詞、人気バンド「五月天(MayDay)」のボーカル阿信が歌う『一半人生』が流れて終わります。
さて、この映画で韓寒監督は何を描きたかったのでしょうか。
「Heroes」って誰のことなのでしょうか。
ごめんなさい。もう一回続きます。