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駆け抜ける喜び? ペガサス飛馳人生②
どうも、うえなかです。2019年の春節に中国で公開された映画『飛馳人生』の日本版DVD公開を記念して、あれやこれや調べて、わかったことを書いておこうと思います。
前回はこちら
マシン探し
ライセンスを無事取り戻した張馳とその相棒孫宇強は、レースで使うマシンを探しに出かけます。
いや、このTシャツ! そんなの作ってる場合じゃないはず!でも韓寒監督はマシンを手に入れる前にこのTシャツ作りたかったんです。きっと。
まるで、「Google」のロゴみたいな色使いの「1246gogogo」。最初にラリーに参加した時のゼッケンナンバーって言ってるけど、
4桁ってあり? 誘ってるな?
よーし。ググってやろうじゃないか。あ、中国ではGoogle使えないんだった。「百度一下」しよう。
「1246」は韓寒監督が2014年に作ったeスポーツクラブの名前。「オーバーウォッチ」や「プレイヤーアンノウンズ バトルグラウンズ」などのシューティングゲームをプレイし、中国ナンバーワンのプロチームになることを目指している、らしい。ほー。
訪れたのはかつて所属していた「フォルクスワーゲン(大衆)333チーム」。韓寒監督もここに所属していました。
7年間の活躍と葉部長との付き合いとで必ず格安でマシンをレンタルしてもらえるはずだ、と胸を張る張馳。久しぶりのレースマシンについ妄想を始めます。
そこに現れたのが葉部長。「ここ数年辛い目にあったせいで精神にきちゃったのか」と聞かれ、「ここ数年車に触れなかったからずっと脳内でシミュレーションしてきた。今そのモードに入ってた」と語る張馳。うーん。
孫宇強には「お前のことは高く評価していたんだ。レースでは情熱的で、その上文才もある。久しぶりに会ったことだし、得意の即興詩を聞かせてくれよ」と頼みます。それにこたえて張馳を風刺した詩を吟じる孫宇強。
一頓操作猛如虎,定睛一看原地杵
(虎のように勇猛に操るが、目を凝らしてみれば元の場所に突っ立ってる)
以前張馳役の沈騰と孫宇強役の尹正が共演した映画『夏洛特煩悩』でも尹正扮する袁華が沈騰扮する夏洛をからかう詩を即興で作らされます。(この映画へのオマージュです)
本編ではもう一か所孫宇強が詩を即興で吟じる場面がありますが、それは後ほど。
仲間との再会②
結局、車は貸してもらえず(まあ、あれだけのスキャンダル起こせば、ね。)
所属当時使っていた廃棄処分にされるフレームを夜こっそり持ち出すように言われます。そこでかつての凄腕エンジニアの記星と再会します。後ろに流れるのは『我是真的愛你』。そう、緑の恐竜を着た孫宇強の妻に抱き着いたのと同じ曲です。もう、「巻き込まれハグのテーマ」になってしまってます。いい曲なのに。
記星を演じているのは張本煜(チャン ベンユー)。喜劇役者です。
韓寒監督の前作『乗風破浪』にも出演しています。本作では喜劇要素はこのハグシーンくらい。シリアスな演技すごくいいです。ファンが多いのもうなずけます。
宇強:「以前三人で一緒にやってた時言ってたよな『お前ら二人がどんなにぶつけても、絶対に修理してやる』って。一生忘れない」
記星:「あの頃は俺も若かった」
うーん。
二人の資金は合わせて40万元足らず。
(屋台でチャーハン売って借金も返しつつ5年で30万元(日本円で480万円)貯めるだけでもすごいことだと思うけど)
到底レースに参加するための改造費(イチから作るにほぼ等しい気が)には足りません。
そこで「スポンサーを探す」ことに。
羊をめぐる冒険
最初に二人が訪ねたのは成功学の大家で網紅(インフルエンサー)の豪邸。
SNSで発信してもらいスポンサーを募ろうとしますが、取り合ってもらえず、代わりにお土産としてヤギ(羊)をもらいます。
スポンサーを探すは
拉賛助(商)
拉 は「手で引っ張る」の意味。
生地を手で引っ張って伸ばす。を繰り返して作った麺を「拉麺」と言います。
張馳は、拉賛助せずに拉羊して(ヤギを「引っ張って」)帰ったことを息子に咎められます。「拉」するものが違っているというわけです。売り払っても車代の足しにもならないので飼うことにしたようです。
なぜヤギ(羊)なのか、
それがこの映画を見て私がいちばん引っかかったところです。
中国人の観客は大笑いしていました。確かに面白いのですが、
なぜヤギ(羊)なのかの答えにはなりません。
ヤギ(羊)には何か含意があるのか。
張馳は「嬉しいこと(喜羊羊)じゃないのか」と切り返していました。
『喜羊羊と小灰狼』というチビッ子に大人気のアニメもありますが、
これじゃないでしょう。
ネットでは
SNSで拡散する代わりに、張揚(言いふらす)の羊(揚と発音が一緒)だとか(そうそう、「張揚」は張馳のお父さんの名前でもありました)
ヤギ(goat)だから greatest of all time だとか、game over at terminus だとか、
みなさん好きなことを言っております。
ところで、このシーンで風変わりな網紅役を演じているのは高華陽(ガオ ホアヤン)。韓寒監督のラリー仲間ですべての韓寒作品に出演しています。
映画には一文字違いの「高花陽」という登場人物が出てきます。(さすがに全く同じ名前であの結末では本人怒り出すかもしれないし)
ラリーレーサーで張馳のかつての教え子という設定。
レース中にコースアウトして崖から転落し、救急搬送された彼です。
レースの序盤には羊の群れにコースを遮られていました。
羊(ヤギ)は高花陽(高華陽)の羊(陽と発音同じ)ということでいいのではないでしょうか。
ちなみに、2ヵ月に及ぶバインブルグロケで印象に残ったことは?と聞かれた張馳役の沈騰は、蚊が多かったことと毎日羊肉串を食べに行ったことだと舞台挨拶で答えてました。
おっと、中国の成語(四字熟語)に「順手牽羊」というのがありました。
【順手牽羊】ついでにヒツジを引いていく。事のついでに他人の物を持ち去ることのたとえ
ことのついでも何も、本来の目的が達成できていないのに羊だけ連れて帰ったのがおかしいのかもしれません。
賛助(スポンサー)を求めて
かつて付き合いのあった金持ちとは皆、海外旅行中だという理由で連絡が着かず、以前羽振りの良かった旧友も経営不振で援助はもらえず。(飲み明かした代金を代わりに支払う張馳、いい人です)
テレビに出演して資金を得ようとする張馳。ところが番組の賛助商(スポンサー)として現れたのは林臻東。これは辛い。意地をはって援助を断ったのに。
意を決して登壇し、レーシングスーツの胸に書いた文字「求賛助」を見せようとしますがファスナーが引っかかって時間切れ。一銭も手に入れることができませんでした。
「賛助」はスポンサーでした。「求」は求む。
だから「求賛助」は「求む、スポンサー」です。
ところがカメラに見せることができた二文字は「求賛」。
「賛」はSNSなどでの「いいね」の意味です。
「求む『いいね』」になってしまったわけです。
2015年10月17日、上海で行われたロレックスマスターズ2015の準決勝で、アンディーマリー選手を破り決勝進出を果たしたノバクジョコビッチ選手はカメラにサインする代わりに、この「賛」の字を書いて観客を驚かせました。
それはともかく、本来時間切れでそれもかなわないところ、林臻東は意気に感じて「みんなで彼に『賛』を送ろう」と提案します。会場じゅうそろって「賛!」
欲しいのはそんなものじゃない!
わかりますよ。その気持ち。
テレビに出ただけでも効果があるとなだめる孫宇強。葉部長が明日会いたがっていると伝えます。何かいいしらせがあるかもしれない。笑顔でと。
葉部長との別れ
とびっきりの笑顔で葉部長を迎える張馳。ところがいい話などはなく、「フォルクスワーゲン(大衆)333チーム」をクビになったのだと。そして紙の包みを張馳に手渡します。「以前の車で使っていたラリーコンピュータだ。使えるかもしれない。レース勝てよ」と。
「こいつをガンダムの記憶回路に取り付けろ」
お前はテム レイか! と突っ込みたくなるところです。
ここで突然二人で歌い出します。
この歌は香港のロックバンド「Beyond」が1990年9月に発表した『光輝歳月』という曲の一節です。南アフリカの故ネルソンマンデラ大統領のために作った歌です。
二人が歌っているのは
ただ抜け殻のような体だけで
光きらめく年月を迎える
横なぐりの雨の中自由を抱きしめる
人生さまよいもがいても
自信だけが未来を変えられる
誰もができることではない
こんな内容の歌詞の部分です。オリジナルでもいいのですが、イケメン好きのために、謝 霆鋒(ニコラス ツェー)の歌う粤語(広東語)バージョンをどうぞ。
1991年4月には普通話(共通語)バージョンも発表されています。中国の観客には当然その歌詞も重なって聞こえているはずです。
風の中暴れる両手を振り回し
光り輝く詩篇を書く
どんなに疲れていようとも
世界は寄せては返す波のように移り行く
光きらめく年月を迎える
そのために一生を捧げる
粤語(広東語)バージョンも普通話(共通語)バージョンもどちらも楽しめる『中国好声音』の動画もどうぞ。
食事の誘いを「モルディブ行きの飛行機が待ってる」と断って葉部長は去っていきます。
「大哥」登場
万策尽きた二人は「最後の手段」として孫宇強の知り合いの「大哥」を訪ねます。
「大哥」とはお兄さん・アニキ・親分の意味です。
余談ですが「大哥大」とは携帯電話のこと。中国に携帯電話が導入されたのは1987年。当時使っていたのは夜移動しながら指示を出す人つまり黒社会の親分くらい。だから携帯電話は「大哥大」と呼ばれるようになったそうです。(今は「手機」と呼びます)
台湾には今も「台湾大哥大」という通信会社があります。
脱線しました。
「大哥」の出資の条件は彼女の名前をレーシングスーツに刺繍して、それを着て表彰台に立つこと。
それともう一つ。
「俺は歌が下手だが他人の歌を聴くのが好きだ」
「全国優勝したコンビの歌と踊りを見てみたい」
いやいや、何が何が。
「大哥」を演じているのは騰格尓(タンガー)さん。内モンゴル出身、モンゴル族のシンガーソングライター。中国民族歌舞団副団長、国家一級演員(人間国宝的な役者)で、中国音楽家協会理事を務めていらっしゃいます。
それではここで2019年11月10日に行われたアリババの「天猫双11狂歓夜晩会」での「大哥」のパフォーマンスをご覧いただきましょう。
この場面で張馳が歌い、孫宇強が躍った歌、『大哥你好嗎(兄貴、お元気ですか)』も実際には張馳役の沈騰と騰格尓とで歌っています。(映画では沈騰のトラックだけを使用)
こうしてついにマシンが完成します。さあ、レースだ。
ここまで努力してきた張馳と孫宇強、そしてマシンを仕上げた記星に惜しみない「賛!」を。
1、2、3、
賛!
すみません。続きます。