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TiO2層のひび割れ防止のためSDBSを加える方法 【色素増感太陽電池 論文要約 #2】

論文要約のタイトル難しくない?
論文タイトル書いても面白くないから、キャッチーで短いフレーズ使いたいけど、専門用語と薬品名入れないと意味わからんくなりそうだし

と言うことで、本日は以下の論文の要約となっております

A study on using a binder-free TiO2 paste with sodium dodecylbenzene sulfonate addition to improve the performance of low-temperature DSSCs

ScienceDirect

概要

忙しい人向け論文の結論

研究の目的
$${\mathrm{TiO_2}}$$ペーストにsodium dodecylbenzene sulfonate (ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム・以下SDBS)を加えることで低温プロセスでの$${\mathrm{TiO_2}}$$層作製時の$${\mathrm{TiO_2}}$$のひび割れを防止すること

結論
SDBSを加えることで、$${\mathrm{TiO_2}}$$層にピンホールが形成され、膜の内部応力がいい感じに分散されてひび割れしづらくなった。

例えると、悪を制するために小さな悪事を働いた感じです笑

ひび割れを防ぐために小さい穴を開けたと言うこと。
例えいらないか笑

色素増感太陽電池(DSSC)とは

色素増感太陽電池とは可視光線を吸収可能な色素を利用している次世代型の太陽電池です。色素増感太陽電池は屋内での発電、さまざまな波長域(紫外線・可視光線)の利用・電池の超薄型化・製作コスト・材料が環境を汚染しないなどのメリットがあります。

電池の構造は以下のようになっています(引用:ペクセルテクノロジーズ)

図. 色素増感太陽電池の構造

光を受け取った色素の電子が$${\mathrm{TiO_2}}$$層 > ガラス電極(作用極) > ガラス電極(対極) > 電解質(ヨウ素イオンの酸化還元反応) 
を経由してまた色素に戻ってくるイメージです。

あと、図の酸化チタンの球ですが、これは分子じゃなくて粒子。つまり原子がたくさん集まって固まってます。この粒子が結構重要なんです。粒子の集まりには多孔性(隙間)があります。
例えば、たくさんの砂とたくさんの石だったらたくさんの石の方が隙間空いてそうですよね。
この多孔性によって、$${\mathrm{TiO_2}}$$の表面積が増大し、色素の吸着量が増えます。色素は$${\mathrm{TiO_2}}$$の表面とくっつくので。
もちろん隙間が多すぎるのは大問題で、電子の通り道が少なくなって性能が落ちます。まぁ、つまり、バランスが重要なのです。

論文の背景

この論文では、フレキシブルな色素増感太陽電池を作製するための課題を解決するためのアプローチを報告しています。
ここで言うフレキシブルと言うのは、下敷きのような自由自在に曲げられる薄型の太陽電池のことです。つまり、車の表面や局面状の壁、複雑な形のオブジェなどに取り付けられる太陽電池を想定しています。

そのような色素増感太陽電池には電極にプラスチックのような柔らかい素材を使う必要があります。
そして、このプラスチック素材は熱に弱い!
色素増感太陽電池の製造工程では酸化チタンを塗布した作用極を500℃で焼成する必要があります。

つまり、プラスチック溶けちゃうよと。

そこで、低温(<= 150℃)で焼成して作製する方法を考えようと言うことなのです。
ただし、工夫なしにこの低温プロセスで色素増感太陽電池を作製すると
$${\mathrm{TiO_2}}$$層にひび割れが生じてしまいます。
ひび割れはめちゃくちゃ性能悪くなるので、
これをなんとかするための研究なわけです。

ちなみに、この色素増感太陽電池の作製ですが、結構難しくて、通常の作製方法でもよく写真のようにひび割れを起こしてしまうんです。そんな背景もあって、この論文を読みました笑

ガラス電極上のひび割れたTiO2層

勉強になったこと

ゼータ電位とペーストの粘性

ゼータ電位の絶対値が大きさで粘性が変わることを初めて知りました。
一般的にペースト中の$${\mathrm{TiO_2}}$$は正に帯電したカチオンとして存在しているので、粒子間の相互反発によりペーストの粘性が低くなります。
そこにSDBSを添加するとSDBSが陰イオン界面活性剤として働くので、
$${\mathrm{TiO_2}}$$の表面の正電荷が中和してゼータ電位が低くなり、粘性が高くなります。

二酸化チタンペーストに対するテトラブチルチタン酸の影響

通常の$${\mathrm{TiO_2}}$$ペーストでは使わない試薬なので、新しいアプローチが勉強になりました。
通常の$${\mathrm{TiO_2}}$$ペーストの強みは、先述した通り、比較的大きい粒子を使うことで多孔性を作り、$${\mathrm{TiO_2}}$$の表面積を増大させることでした。
そこにテトラブチルチタン酸のナノ粒子を使用することで、多孔質にテトラブチルチタン酸が埋まり、電荷輸送がしやすくなります。
僕自身この多孔質の制御について研究しているので、多孔質の程度をコントロールする手段の一つとして使えそうだなと思いました。

ピンホールによる膜応力への影響

膜の亀裂について物理学的な考えをしてこなかったので、とても勉強になりました。
ピンホールなしでは膜にかかる圧力が一箇所に集まってしまうため、一つ亀裂ができたら、そこに力が集中してしまう。
そこでピンホールを膜中に分散させておくことで、膜にかかる応力も分散しひび割れが起きにくくなる。
確かにそりゃそうって感じなんですけど、思いつきもしなかったので、自分の考察は浅いなと感じてしまいますね。


よく分からんこと

なぜ、ピンホールができたのか

論文では、SDBSによってピンホールができたと書かれているんですが、その原理が全然分かんないです笑
作用極を焼成した際、SDBSの焼け切れた跡がピンホールになるのかなと思いつつ、どうやら焼成前の乾燥段階でピンホールができるみたいだし、
そもそも、SDBSって融点300℃以上らしいし、本当に謎。

なぜ、SDBSがTi-O-Ti結合を増大させるのか

…うん。
謎は深まるばかりである。

ちなみにTi-O-Ti結合は光触媒に深く関係している結合で
私たちの身近な生活に利用されてます。


この論文によれば、この研究はペロブスカイト太陽電池の研究でうまくいったものを色素増感太陽電池の研究に用いたそうなので、そちらの論文を読めば何か分かるかもしれませんね

感想

ところどころ分からないとこもありましたが、学びありでした!
多分僕の卒業研究にも活かせそうです!
あと最近、中国の論文ばっかりだなと論文読んでて思いました。
一方、日本の論文はあまり見当たらないので、ちょっと残念。
日本もっと頑張れ笑

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