くるみボタンと秋の朝
朝起きて窓をあけると、つんとする空気。
例年より暖かい日が続くと、つんとした秋らしい空気を感じるのも、うれしいものだと寒がりな私も感じるようになった。
我が家は季節ごとにスリッパも衣替えするのだが、ぐんと冷え込んだ少し前、私だけ一足先に冬用のスリッパを用意した。
温かみのあるオレンジレッド色でふわふわしたボア素材のスリッパ。至ってシンプルなデザイン。
そのスリッパにふと、ボタンをつけてみようかと思った。
裁縫はめっぽう苦手な私がである。自分でも驚いてしまうそのひらめきは、ある友人とのエピソードを思い出したからだ。
10歳年上の彼女と知り合ったのは、4年ほど前。
知性的な額をすっきり出したポニーテールの彼女とは、同じブランドの革製品を持っていたことから仲良くなった。
きっかけはささいなこと、である。年齢差を感じさせない彼女との会話には、リズムもあってとても楽しいものだった。
クリスマスプレゼントとだよ、と彼女が手渡してくれたのは、あたたかい靴下とレッグウォーマーだった。同じ商品をお店で見ていた私は、そのレッグウォーマーにボタンが付いているのを見つけて驚いた。
あれ、こんなボタンついていたっけ?と聞くと
「それ、わたしが付けたくるみボタンよ。」とポニーテールを揺らし、
はにかみながら笑う彼女。
こんな思いやりがあるのかと驚いたと同時に、こころまで温かくなるのを感じた。
彼女はお店でレッグウォーマーを買ったのち、手芸屋さんでくるみボタンを買い、縫いつけてくれたのだ。
そのことを思い出して、またうれしくなったので私もスリッパにボタンをつけようと思ったのだった。
日の当たる時間もだんだん短くなって、寒い季節がやってくるけれど、心はあったかくありたいと思う。
秋の朝。
ポタージュスープにボア素材のスリッパ。
彼女のはにかんだ笑顔を思い出している。
#エッセイ #パラレルキャリア#執筆