だいたいのことは、「C'est pas grave!(なんとかなる)」
念願のフランス留学生活がはじまり、運良くフランス人学生のコミュニティに混ぜてもらえたものの、思っていた以上にフランス語がちんぷんかんぷんだった私。毎日半べそをかきながら、ノートを持ち歩いては、分からない単語をメモするようにしていた。
フランス語の語学力以外にも、日本とは違う考え方や、フランス人のコミュニケーションに馴れないところもあって、いわゆるカルチャーショックの連続だった。
初めてのフランスではなかったし、現地のことはそれなりに知っているつもりだった(地下鉄が臭いとか、スリが多いとか、道端によく犬のウンチが落ちているとか)。
それでも、寮の水道から赤い水が出てきたときはギョッとしたし、もう忘れてしまったけど、何かの手続きをするのにも、たらい回しにされたり、ストライキで地下鉄がとまったり、郵便物が届かなかったり…。
日本では考えられないようなことが、フランスではふつうに起きる。すべてがスムーズにすすむことの方がめずらしい。最初はひとつひとつにやきもきして、落ち込んだりもしたけれど、だんだん慣れてくるのだから人間ってすごいと思う。
日本では、「お客様は神様」と言われるくらい、基本的にはとても丁寧な接客やサービスが行き届いているし、サービスをする側も受ける側も、ある程度の期待値の高さを共通認識として持っているように感じるけど、
フランスでは、自分の責任の範囲で仕事をしているような感じなので、できないことはできないと言われるし、お客の期待に応えられない時にも、ペコペコあやまったりしない。
日本だと、丁寧なコミュニケーションが好まれるので、ひと言謝りの言葉をはさんだ方が物事がスムーズにいくことがあるけれど、フランス人はプライドも高いので、気安く他人に謝ったりしない。
そして、そんなトラブルがつきものの日常を、「これがフランスなの」とパリジャンたちも諦めている様子。
だから、フランスに行くたびに、日本はなんてきちんとしているんだろう、やっぱり日本は暮らしやすい、と感動してしまうのだけど、
不思議なことに、フランスに長くいると、それはそれで成り立つことに気づくというか、何でもかんでも完璧じゃなくても、たまにはそんなことも起きるよね、と思えるくらいには、おおらかに受け流せるようになってくる。
それはきっと、腹立つことがあったとして、一緒に怒ったり、解決策を考えてくれたり、笑い話にしてくれるフランスの友人のおかげでもあるのだけど。
そんなとき、フランス人がよく使うのが「C'est pas grave!(たいしたことないよ、なんとなるよ)」とか「C'est la vie(それが人生、そんなもんだよ)」「Ca va aller!(大丈夫だよ)」などなどの表現だ。
心配ごとがあったり、思い通りにいかないことがあっても、しなやかに乗り切るための合言葉のような感じがして、ちょっとだけ気持ちが軽くなって、また前を向けるのだ。