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南フランスのアプリコット畑のある家で

夏の盛りになると、甘酸っぱい香りとともに、蘇ってくる光景がある。

フランスに留学していた大学3年の夏、帰国する前の最後の一週間を、南フランスのマルセイユの郊外にある、友人の実家で過ごした。

マルセイユのあるプロヴァンス地方といえば、オリーブ畑やラベンダー畑がたくさんあって、地中海に面したおだやかな気候がきもちいい観光でも人気のエリアだ。アヴィニョンやアルルなど、印象派の画家たちも親しんだ素敵な古い町や、おいしい塩で有名なカマルグ湿原なども、この地域にある。

マルセイユ育ちの友人は、「マルセイユは大阪と似ている」とよく言っていたのだけど(彼女は日本に何度か旅行で来たことがあって、関西弁をとても気に入っていた)、彼女いわくマルセイユはパリよりも気さくな雰囲気があって、南フランスの人たちは大らかであたたかいと言っていた。

そんな故郷を愛する友人の家は、マルセイユに隣接するオバーニュという小さなベッドタウンにあった。東京のマンションで育ったわたしにとって、思わず感嘆の声をあげてしまうほど、絵に描いたような美しい田舎の一軒家だった。

南仏らしいオレンジ色の壁と屋根の一軒家で、いつか映画で見たような、すてきな家だった。家の前には十分に泳げる広さのプールがあって、庭もずいぶんと広かった。

何より感動したのは、その広々とした庭に、アプリコットの木がたくさん植っていたこと。日本だとアプリコットはあまりスーパーで見かけないけれど、フランスでは旬の時期にはよく出回っていて、爽やかな甘酸っぱさがたまらない大好きなフルーツなのだ。

家を案内されて、見たことのない敷地の広さに、庭にプール?! わたしが鼻息を荒くしていたら、「田舎だからね。この辺りはどこの家もこんな感じだよ」と彼女は謙遜していたけれど、あっとうてきな空間の広さがもたらす心地よさや、自然がすぐそばにあるおだやかな暮らしがまっすぐに心に響いた。自分のなかの「豊かさ」のものさしが変わったような気がした。

ちょうどご両親が留守のときだったので、彼女と実家で暮らすお兄さんと、途中からもう一人の留学生の友人も合流して、若者だけの時間だったのに、友人が18年間育った家だと思うと、家族に温もりに包まれているような気持ちになれた。

みずみずしいもぎたてのアプリコットを毎日好きなだけほうばることができたなんて、今はもう夢のような話だけど、太陽を浴びながら、プールで泳いで、ベランダで水タバコをしたり(わたしはすぐにむせてやめたけど笑)、友人の幼なじみが遊びに来たり、みんなで料理をしたり、ただただおしゃべりをしてのんびり過ごした一週間。

南フランスの田舎町にある永遠の憧れの家。
あの夏の贅沢な時間を、きっと一生忘れないと思う。


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