人はどのように性行為にありつけばよいのか
先日、このようなツイートを目にした。
この切り抜き動画を見て筆者は
「えっマジで言ってます?」
「そう言われればそうだな」
「時代は変わったなぁ」
「じゃあどうしたらええねん」
…など様々な思いが去来したため、考えを整理/表明しようと慣れない文章表現に手を出した次第である。
えっマジで言ってます?
「一人暮らしの男の部屋に行くな(男に襲われるから)」
「人気のない夜道を歩くな(男に襲われるから)」
そう親から教育された30代以上の女性は多いのではなかろうか。
昭和末期~平成初期に生まれた筆者もそのひとりである。※1
そのため、「男の部屋に行ったら襲われた」といった話を目にしても「登山家が山に登ったら滑落して死んだ」とか「スリが多い国へ旅行したらスリにあった」と言われているようで
「そんなの当たり前じゃん、何言ってんの?」と思っていたし、今も
「絶対そうなるって訳じゃないけど、覚悟の上でしょ?」くらいには思っている。
もちろん襲う男が悪いし、犯罪を起こす輩が悪いし、なんなら滑落の危険がある形をしている山が悪い(?)のだが、被害に遭う確率を減らすために危険な場所に近づかないという選択はできるはずだ。という主張である。
※1筆者の年代以降のことはわからないため30代以上とした。また実例を一つ上げた程度で「多い」と主張するのは不安だが、「男は狼なのよ 気をつけなさい」と歌う曲が流行した時期があったことからもそう的外れではないと思う。(ピンク・レディー『S・O・S』/初出は1976年。該当曲収録アルバム)なお歌詞には他にも「昔の人がいうことみたい」とあるため、発売当時からみても古い考えのようである。
そう言われればそうだな
上記主張は動画内でいう上田氏のそれに近いものだが、それに対しSHELLY氏はこのように反論する。
一点目の論はなるほど確かに、性的な行動に及ばない男性にとってはまぁまぁ失礼な話である。
上田氏本人も主張していることから男性全般はこの認識を受容しているように感じるが、怒りを表明しても不思議ではない。
二点目の論は引用のみでは説明不十分のため、筆者なりに言葉を足してみる。
「部屋に来る=性行為に及んでよいと男性は考えるものだと認識するべきだ」という主張は「性行為を望んでいないのであれば男性の部屋に訪れるべきではない」と転じる可能性がある。その主張は意図せず性被害にあってしまった女性を苦しめる。
こういった具合だろうか。
まさに筆者が前項で述べた
「そんなの当たり前じゃん」「覚悟の上でしょ?」
といった言葉が被害にあった女性を自己嫌悪に陥らせるものである、という主張だ。悪いのは行為に及んだ男性であるにも関わらず。
これを受けて、知人の部屋に訪れるという行為には本来それ以外の意味はないし、行為そのものを責められるのはよくないなと思ったのだった。
(ふわっとした感想になってしまったが、現状この程度しか言語化が及ばなかった。加害を働く側が問題だと前置きをしても、何の気なしの言葉が凶器になりうるのだと肝に銘じたい。)
時代は変わったなぁ
では何故このようなすれ違いが起こってしまうのか、筆者なりに原因を想像してみることとする。※2
ひところまでは「女性が自ら性的な主張をするのははしたないことだ」といった価値観が主流であったように思う。
そのため女性が性的行為の同意を表明するためには「男の部屋に行く」「二人っきりになる」といった
仕草による意思表明(非言語的アクション)を行うしかなかったし、
男性もそれをもって性的行為の同意とみなしてきたのではなかろうか。
しかし文化や国籍、価値観の多様化によって上記の価値観が共通認識として機能しなくなり、重ねて「自分の考えは明確に主張するべきだ」という
言語による意思表明(言語的アクション)に重きをおいた価値観が主流になっていった。※3
そのため、前時代的な確認方法しか知らない男性と、前時代的な表明方法を捨てた女性との間で認識のズレが生じてしまったのではないだろうか。
以上が筆者なりに考えたこの問題の発生原因である。
なおこれらはなんの裏付けもない想像であり、他者と議論するための資料には使えないものとして認識いただきたい。
筆者個人の思いとしては、仕草による意思表明「非言語的アクション」には奥ゆかしさやわびさび(いわゆるエモさ?)が感じられて好きなのだが、それによってすれ違いや何らかの加害/被害が生じてしまうのであれば、そういったアクションが廃れていくのも止む無しであろう。
※2本来考察にはそれらを裏付けるための数字的資料/歴史的史料を用意するのが常ではあるが、筆者はこういったものの専門家でもなんでもなく調査能力も全くないため、「考察」ではなく「想像」とした。もし筆者の主張を裏付ける/撤回する信頼性のあるデータをお持ちの方がいれば、ぜひ出典元を併記の上コメントいただきたい。(他力本願で誠に申し訳ない)
※3これは言い換えれば「言っていないことは表明していない」ということでもある。当たり前のように思えるが、これが仕草による意思表明(非言語的アクション)と大層相性が悪く、どちらか一方が非言語的アクション使用者の場合「意図せずその仕草をして意思表明と間違われる」「仕草で表明しても認識されない」といったトラブルが発生する。
前者はまさに「女性が部屋に来たのに性行為目的じゃなかった」本題のケースであり、後者は「性行為目的で男性の部屋に行ったのに性行為に至らなかった」というケースだ。いずれにせよ悲しいすれ違いである。
じゃあどうしたらええねん
これを踏まえ、SHELLY氏の
という主張を言い換えると、以下の通りになる。
「男性には(現代女性のほとんどは非言語的アクションを用いないため)仕草だけで性行為の可否を判断すべきでないと教育すべきだ。」
動画内アンケートの男女差異から考えても、この主張は正しいように思う。が、ここで大きな問題が生じる。
それでは男性はなにをもって性行為の可否を判断したらよいのか?
ということだ。
SHELLY氏は現在の性行為の意思確認方法は間違いであると指摘したまでで、その代替案を提示してはいない。
仕草による意思表明をほとんどの女性が捨てたが、
性行為に対して明確な意思表明を行う女性は果たして増えただろうか?
全くデータのない状態で断言するのは心苦しいが、おそらく「NO」であろう。女性から男性へアプローチする/食事やデートに誘う/告白する/プロポーズするといったケースは昭和の時代より増加したであろうが、性行為へのアプローチの男女比率が明確に変化したという風潮はあまり感じられない。※4
※4筆者による体感。参考までに筆者は30代女性、住居、出身大学、職場すべて東京都23区内である。しかし大学や職場は男女や性の話題がほとんど出てこない環境だったため正確な周りの空気感はほぼ不明、体感する場所はもっぱらSNSなどインターネット上である。最近のSNSは利用者によって情報を選別して流してくるため、かなり偏っている可能性は高い。
解決策その1:もっと性にオープンになる
現在の男女の問題を解決する方法としてSHELLY氏が男性への意識改革を働きかけたように、女性にも「もっとわかりやすく性行為の可否を表明するべきだ」と働きかける必要があると筆者は考える。
その具体的方法として、まず「もっと皆が性に対してオープンになる」を挙げたい。
男も女もセックスやエロスの話題をオープンにし、お互いの性に対するスタンスを普段から明確にすることで認識のすれ違いを減らそうという主張である。
つまり、「磯野ー、野球しようぜー!」と同程度の感覚で性行為を誘ったり断ったりできるようになれば男性も性行為の可否を確認しやすいし、女性も性行為の可否を表明しやすいのではないか、ということだ。
しかし昨今は容姿への言及もセクシャルハラスメント(性的嫌がらせ)とされる可能性があったり、下手に性的な話題を持ち出せばいろいろなものを失う可能性の方が高く、「性にオープン」とは真逆の流れである。※5
またそういった話題をオープンにすることで性的なトラブルや犯罪が増加する可能性もゼロとは言えない。上記のような空気感を健全に作り上げるには、人・時間ともに大量のリソースが必要となるだろう。
そもそも男の部屋を訪ねて性的行為に及ぶのが大きな問題になるのは、(カップル成立済の男女も多分に含まれるだろうが、)明確な意思確認はしていないが高頻度で逢瀬を重ねている、いわゆる「友人以上恋人未満の男女」が多数ではないだろうか。性行為へのアプローチがオープンにできるのであればとっくにカップルとして成立しているだろう。
よってこの解決策はあまり現実的とは言えない。
※5筆者による体感。前項※4の注釈の通り。
解決策その2:性交同意書の導入
以前どこかの機関が「性的同意アプリ」をリリースして炎上していた記憶があるが※6、筆者は結局のところ書面に残すのが一番トラブル防止につながるのではと考える。
前項の提案も「言った言わない論」に発展する場合や「どちらか一方が心変わりした」といった場合に対処しきれないが、書面にはそれらのケースにも一定の効果があるのではないだろうか。
性交同意書に記載する内容例は以下の通りである。
同意する行為の内容
中断する場合の合図、合言葉
お互いの署名、捺印欄
立会人の署名
性行為を実施するうえで必ずしも書類を作成する義務はないが、
書類なし<書類あり<書類あり&役場へ提出
の順に効力があるものとする。どこへ提出するかは考えないものとする。
各項目の解説は不要であろうが、最後の「立会人」については少し説明を加えたい。
書類を作成する場合に起こりうるのが、「脅迫、強制されて本人の意思と反した署名をさせられるケース」である。
当事者間だけではこの問題が発生する可能性が高いため、それを防止するためにお互いが用意した立会人の署名を必要とした。
また同時に「安易に署名しない」という教育も必要となる。
借金の連帯保証人が簡単に取り消せないように、性交同意書の同意も簡単には取り消せないものとすることで「一時は同意したが気が変わった」というトラブルを減らすためである。
しかし、これらの書面を作成し、ひいては第三者も関与する形をとるためには性的な価値観を表明するハードルを下げる必要があり、こちらも今の形のままではあまり現実的とは言えないのが正直な所である。
※6性的同意サービス「キロク」と思われる。2023年8月25日リリース予定だったが一度延期し、2023年12月14日に改めてリリースされた。(公式URL:https://kiroku-6.com/)
結び
いかがだっただろうか。
筆者は有性生殖の生物であり身体(母体)による妊娠や出産から脱却できない限り、人間と性行為は絶対に切り離せないものであるし他者との愛情表現としても非常に重要な行為であると考えている。
そのような尊い行為がすれ違いや憎みあい、犯罪行為や被害の心的外傷などによる生活の支障となってしまうのは実に悲しい。
解決策として挙げた内容は情緒もへったくれもないように感じるし、極端な提案だとも思っており絶対こうするべきだとは考えていない。
また、重ねて言うがこれらの主張は現実のデータに即しておらず、筆者のまったくの想像によるものであるため、想定されていない事例や、現実に即していない論、論として破綻している部分も多分にあると思われる。※7
しかし現状男女間の性的トラブルはなくなっておらず、それらを防ぐためには筆者は書面が一番明確であるように思うし、もしかしたら令和カップルにおけるスタンダートになるかもしれない。
現状の問題点、不満点をあげるだけでなく、その解決策を考え、可能であれば実践することこそが問題解決の糸口である。
性的行為へのよりよい意思の表明方法、意思の確認方法があれば、ぜひ皆様からも何らかの形でご表明いただければ幸いである。
※7※2にもある通り、事実誤認やデータに基づいた指摘があれば適宜確認し、よりよい文章にするために修正していきたい。その場合は原文の表現も残して修正の履歴がわかる形にするつもりだが、改変多数によってレイアウトが煩雑になる場合は別記事として作成する可能性があるとご承知おきいただきたい。
ここまでご高覧いただき、誠にありがとうございました。
やまもと 記
(2024年10月6日 初稿作成)