共感 - 相互理解

Research Question: 共同体でデザイン行為を行う際、他者への共感・理解が必要である。共感とはなんだろう。

参考資料)数土直紀: 理解できない他者と理解されない自己 寛容の社会理論, 勁草書房, 2001.


社会について何かを明らかにするということは、私たちが意識しないまま他者と共に実践的に遂行している営みを意識化するということを意味している。p.2

ウィトゲンシュタインの「生活形式」:
函館の炒飯を食べ慣れたAさんが中国で炒飯を食べた。全く違うものだった。これは言語(生活形式)が一致しているだけであり、意見の一致ではない。

相互理解は私たちが所属する共同体の外部へ足を踏み出した瞬間に失効する。相互理解が単なる思い込みでしかないような他者と出会う。そして新たに形成される相互理解は、暗黙の相互理解ではなく明示的な(意識的な)相互理解でなければいけない。顕在化した問題の存在を前提とした上で築く相互理解が必要。(関連:F.ハイエク1952、J.ハーバーマス1962)

炒飯とは何かという日常のささいな議論は、本質的な問題を考える上でも適応できる。


相互理解はどうやって形成されるのか

私たちは日常的に他者と相互理解を形成していることを前提にして日常生活を営んでいる。

H.ガーフィンケル(アメリカの社会学者)の実験:

学生に会話の相手に発言の内容をしつこく確認するよう指示。その結果を報告させる実験をおこなった。典型的な結果が次のものである。

友達と私は、ある人物が横柄な態度をとるためにわれわれが悩んでいることについて話をしていた。友達が彼の印象について語った。
(被験者)やつにはむかむかするぜ。
(実験者)お前のどこが具合が悪くてむかつくのか説明してくれよ?
(被験者)冗談だろう? おれの言いたいことはわかっているくせに。
(実験者)だから、お前の病気を説明してくれ。
(被験者)(困り切った様子で私の言っていることを聞いていた)どうしたんだい? こんなに話をしたことはなかったぜ、そうだろう?

このほか、ガーフィンケルは彼が実施した実験において被験者が困惑や混乱や怒りといった感情的な反応を示した例を幾つか紹介している。このようなガーフィンケルの実験は、私たちが他者と達成しているはずの相互理解を意図的に破壊する実験だといえる。p.12 
※補足:「むかつく」ということばの意味を実験者は理解していなかった。

つまり、「相手も知っていると思っていたことを、相手は実際には知らなかった」という事象が起こったとき、感情的に反応することのほうが、冷静に「自分が知っている知識を相手に説明する」ことより優先される傾向にある。

暗黙の相互理解は、それが暗黙のうちに成立しているために誰もそのことにあえて言及しないという特徴を持っている。p.15
言及しないという選択それこそが相互理解を自明であるかのように装わせているのであり p.16
他者はこのことを知っているだろうという期待と、他者は私に対してそのことに関する説明を求めないだろうという期待の二つの期待が、その相互理解が虚構でしかないことを隠蔽するように私たちの日常において作用している p.17

相互理解はどうやって形成されるのか。相互理解は、相手に説明を求めること、あるいは自分の知識を説明すること、あるいはその両方によって形成される。


*関連資料)数土直紀: コミュニケーションによる相互理解の可能性, ソシオロゴス18, pp.106-19, 1994.

*関連資料)数土直紀: 自由の社会理論, 多賀出版, 2000.



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