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フランス視察記⑨子どもにとっていちばん怖いこと

さてさて、視察のレポートも今回が最後です。ここまでお読みいただいたみなさん、ありがとうございました。

今日は「ターラの夢見た家族生活」の著者で、エデュケーターとして在宅教育支援にも取り組まれていたパボさんとのお話です。宿のあるラヌラグ駅に戻って、近くのカフェにて。

「ターラの夢見た家族生活」はエデュケーターという仕事の価値と、「子どもは支えられたらたくましく育つことができる」ことをターラを通して描いている漫画で、フランスのソーシャルワーカー専門誌ASHにて2019年に連載が開始しています。

それを見た安發さんが、「日本の子どもたちのために何ができるのか、に取り組む全てのひとに届けたい!」とクラウドファンディングで費用を集め、安發さんの翻訳の元、日本語版が完成したのです。

思い返せば、私もこのクラウドファンディングに参加させていただいていて、安發さんと直接繋がることができたのでした。

人生って改めて面白いなと思うのが、このクラウドファンディングは2023年の1月~4月で実施されていて、私は「わー、これめっちゃ読みたい!」と思ったわけです。ちょうどもやもやとしていたときのこと。

このときは、パランパルミルのことは全然頭になかったものの、フランス×子ども支援、に無意識のアンテナが働いていたのだろうなと思います(笑)

そうして2023年後半には、パランパルミル(パレナージュ・ド・プロキシミテ)事業構想が降ってきて、安發さんの通訳の元、アンソレンさんとの対話が実現するまでになったのです。

パボさんがタラ夢を書いてくれていなければ、安發さんがクラファンやってくれてなければ、繋がらなかったこの道のり。だからこそ、そういうときがやってきたんだなという思いが強かったりするのです。

今回渡仏して、直接パボさんにお会いする前にも『エデュケーターワークショップ』というのを数回、安發さんとパボさんが開催してくれていて、私はその全てに参加をしました。

その時も、お会いした時も、(さらに後述するパボさんが来日された2025年1月13日のイベントでも)、パボさんは最初に『フランスでは、足りていないことの話しかしない。他の国でうまくいくための話を、自分たちができる気が全くしないんだ。』ということをおっしゃいます。

まさに現場に長くいらっしゃったパボさんならではの感覚なのだろうと思いますし、「自分たちは本当にうまくやってるんだ!」と言い切られるよりもずっとずっと、安心感を感じます。「ああ、この方は、真剣に目の前の子どものことを考えているからこそ、葛藤や悩みを抱えながら歩んでいるんだろうな・・・」ということが伝わってくるからかもしれません。家族支援は正解も、マニュアルもないですからね。

鮮やかな青シャツの胸元にはオレンジで「Pavo」の文字が!

私たちが活動の紹介をさせていただいた後(ここでも「ウィーズの意味は知ってるよね・・・?wといわれる:詳細は視察記③にて)、パボさんはフランスでもよくあることとして『親が子どもの症状に目が行っていて、本当の問題に目を向けようとしないこと』を挙げられました。

「故意にものを壊す」とか「不登校になった」という症状は結果であって原因ではありません。ですので、「ものを壊すからここにはこないで」などと言って「ものを壊す」という症状が出ないようにするのは間違っています。「なぜ、ものを壊したか」という原因を知ること。ものを壊した、ということは表現であり、その表現に含まれている思いや考えに目を向ける必要があるのです。支援の中で大事なことは、血が出ていることへの対処と血が出た原因への対処の両方だからです。

だからこそ『子どもが落ち込んでいる』ということに対する捉え方にも、ポジティブな面があります。パボさんは『子どもが落ち込んでいたら、それはとてもいいこと』と表現されていました。

なぜなら、劣悪な環境では落ち込む暇はないから。
今、落ち込むという行動を選択できるほどいい環境にいる、ということ。周りを信頼できているから、落ち込む様子をさらけ出せているということ。
…そういう捉え方をするそうです。逆を言えば、辛い経験をしたのに『落ち込むことができていない』ということこそ危険、とも言えると思います。

パボさんのエデュケーターワークショップでも話されていたことで、私もとても印象に残っていることがあるのですが、「1対1の関係性」は、実は1対1ではないということ。

その人それぞれの、背景・歴史があった上での『今』であり、その過程においてはたくさんの人が関わっていて、それらにはその人本人にも見えていないことが含まれます。

その『今』に出会った私たちは、過去の人を思いだして「この人は○○さんに似ているな」とか「あのときの○○さんよりこの人はこうだと良いな」とか勝手な解釈をして相手を見るため、1対1の関係は多くのフィルター越しに築かれることになるのです。

親が子どもと出会うときも、すでに親側に多くのフィルターがあります。ゆえに、子どもとのアタッチメントをどうしてももてない人はいて、昔はそれは良くないことで改善の必要があるものとされていましたが、今は『もっていない感情を、もてと言っても無理がある。』という考え方が主流だそうです。

予防を意識した施策がとられるようになったのは、そういう考え方のシフトも影響しているようでした。ただ、子どもに安心感が必要であること、それがないと大人になって困ることなど、親が親になるまで知ることができなかった子どものニーズをしつこく伝えて情報提供をする努力は必要とパボさんは仰っていました。

夜ごはんタイムということでパボさんの話をうんうん聞きながらモリモリ食べる二人

パレナージュの話になったときに、パボさんは半里親のボランティア性を指摘し『子どもに近づく大人には、何かしら前向きでない事情があると感じる』と表現をされていました。当事者性が活動の原点である私のような人間からすると、それを言われるとちょっと辛いのですが、実際そういう側面はあると感じます。

それが「自分が子ども時代に得られなかったもののため」だったり、「ポッカリ空いた自分の穴を埋めるため」だったり。

それ自体が全て悪いとは言わないけれども、やはり専門職が職業として関わることによって、子どもたちは「何かお返しをしないといけない」と感じることがないのは大事な点とされているようでした。

私は逆に、子どもが「お金をもらっているから自分に関心があるんだ」と思うことの弊害があったり、条件付きの愛でないからこそ感じられるものにも未来へのポジティブな要素があったりということも、大いにあるよなあと感じている方なので、それもぶつけてみました。

パボさんは「簡単な話ではないが」と前置きしつつも『ボランティアは「愛」を与える行動ではなく「市民として」の行動』とお話されていて、とても興味深かったです。子どもが一番恐れることは、見捨てられることです。

どろどろとした地獄と、だれもいない砂漠なら、地獄を選びます。

お父さんとお母さんが争っている家庭。
お父さんやお母さんの暴力がある家庭。

そういった環境を子どもから見た「地獄」に例えて仰っていましたが、子どもは砂漠に行くことの方が怖いので、繋がりが保たれる場所で、どういうふるまいをすべきなのかを一生懸命考えます。

この点には本当に共感するので、日本でパレナージュ・ド・プロキシミテの取り組みを進めるときにも、途中でパレナージュの関係性が終わってしまうことが子どもの傷つきにならないように最大限の配慮をしなければならないと感じました。もちろんマッチングされる大人側も人間なので予期せぬ事故や病気などもあり得ますが、そのような場合であっても子どもへの説明責任や機会の確保といった役割を果たしていけるように整えようと思います。

また、パボさんは『親の愛情が欠けている時、それを埋める必要性はある。例えばスポーツ教室やピアノ教室の先生などといった色々な方面の「関係性」が役立つことは多くある。パレナージュで良い大人と出会い、「長期的な関係性」ができることは、その子にとってプラスだし、実際にそういう事例も聞いています。』とも教えてくださいました。

前述のボランティア性の懸念はあるものの、プラスの面ももちろんあるという専門職の方の声を聴けたことは励みになりました。マイナス面であげられていることも非常によくわかるので、日本の価値観にあうかたちはなんだろう……と考えながらお話を聞かせていただきました。

安發さんもエデュケーター養成の専門学校に行かれた経験があり、そこでは「子どもの『頼れる大人の電話帳』づくりを手伝ってあげなさい」という話があったようです。その一行にパレナージュで出会う大人が入れるような関係性が生まれていくことは、ひとつ目指すところかなと思いました。

最後にパボさんにタラ夢本へのサインをお願いしたら、オリジナルイラストを入れてくださいました・・・!

下書きからしっかり15分くらいかけて書いてくれました
完成!
『エデュケーターであるということは植物を植えて待たなければいけないということ』
『急がないことだね!』とターラちゃん。

パボさんは、子どものニーズを理解できない人に植物の話をするそうです。植物に水や日光が必要なように、子どもには愛情・話しかける・安心感を与える必要があります。

私たちもウィーズに込めた思いの通り、今後もそういった子どものニーズに応えられるようにしていきたいと思います。

パボさんありがとう!!

ちなみに、年明けの1月にはパボさんが来日されたので、記念イベントに参加してきました。なんだか会場内、青い服の人多かった気が・・・(気のせい?笑)タラ夢シールをいただきました!

さて、これで視察の内容のnoteはおしまいです。毎回読んでいただいたみなさん、ありがとうございました。

せっかく視察記⓪で往路の記録を書いたので、復路の記録まで書いて終わろうかなと思います(笑)

ではまた!

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Ayumi Mitsumoto🍃NPO法人ウィーズ理事長
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