教師の仕事に残業代を発生させることで生まれる教育の質の向上
「定額働かせ放題」
ニュースなどでよく耳にするようになりました。
給特法という法律によって、公立学校の教師には残業代が支払われないことになっています。そもそも、教師の仕事には「残業」という概念がないのです。
つまり、教師の月給は、仕事量や残業(よく、「時間外在校時間」と呼ばれます。時間外【勤務】ではなく、あくまで【在校】時間とされています。うまく表現されているものですね…)に関わらず、一定です。
わたしはこの、残業代が支払われないというシステムが、教育の質の向上に大きなブレーキをかけていると考えます。
残業代を払わないということは、経営者(教育委員会)にとって、人件費がかからないということです。
ニュースなどで「企業努力を重ねてきたが、あとは人件費を削るしかない」と話す経営者の言葉を聞くことがあります。ここでいう「人件費を削る」とは、解雇ということと、時間外労働をさせないようにして、残業代を削減するということの両方が考えられます。人件費というものは、それだけ、経営者にとって大きなコストがかかっているということです。
教師は、労働量に関わらず、残業代が発生しません。つまり、このシステム自体が、人件費の大きな削減に貢献しているということです。すると、何につながりうるでしょうか。
自動議事録作成のアプリケーションを導入することを考えてみましょう。
こういったアプリケーションを使用している方に伺ったところ、毎月1300円程度の利用料がかかるようです。
しかし、人が手動で議事録を作成しようと思うと、アルバイトを雇ったとしても1時間当たり1300円程はかかってしまうのではないでしょうか。
つまり、毎月1300円の支出をしても、人件費よりも大幅に安上がりとなります。
対して、教師には、どれだけ業務を与えても、人件費を追加で負担する必要がありません。つまり、アプリケーションに毎月1300円を支払うことが、人件費よりも高くつくのです。それならば、導入コストを負担するよりも、教師に追加労働を与えた方が、合理的だ、となりますね。
よく「学校はICT化が進まない」と言われますが、その理由は、ICT化の導入にかかるコストが、人件費よりも高いからという理由が隠れていると私は考えます。
「教師に残業代が付くようになれば、残業代を払うよりも、アプリケーションにお金を払う方が安い→いろいろな業務管理ソフト等が導入され始め、ICT化が進む」と考えます。
そして、このICT化が進むことで、教師が様々なICT機能を使うようになると、その効果は子どもへの教育に還元されると推察します。
人には、コンフォートゾーンがあります。自分の居心地の良い物的・精神的環境にとどまろうとします。
教師が日々の業務でICTを導入しない中、子どもたちにICTを最大限活用した授業を行おうとするでしょうか?
教師の業務がICT化されれば、教師は日々の業務を通して、無意識にICTの特徴や特性を掴みます。つまり、業務そのものがICTを活用した授業研究の一環ともなりえるのです。
また、このように、人件費とICT等の導入経費が天秤にかけられながら教師の働き方改革(個人的には、働き方「正常化」と呼びたいところですが…)が進むことで、教員免許を要しない業務が教師に割り振られることは減少していくのではないでしょうか。
つまり、教師の仕事に残業代が発生するようになると、
①業務のICT化が進む
②ICTを活用した教育の質の向上が図られる=子どもへの還元
③教師が教師としての業務に集中する=教師の専門性の向上
につながると考えます。
給特法の定めが与える影響がどの程度広いのか、広い視野で考えてみる必要がありそうです。