誰でも見えるところに書くなら調べてからにしてほしい
前々回書いた
「動物との関りを考える時に改めて考えるべきこと」と思うこと
を掘り下げて、今回は
誰でも見えるところに書くなら調べてからにしてほしい
に付いて書いてゆきます。
・先に「お願い」
日本における身近な動物との関係から起こる問題に付いて意見を述べる時、混乱を招く原因の一つとしてこれがあると私は感じていることを、これから長々と書く。
これは動物との関係から起こる問題に限らず、ネット上では珍しくないことと感じています。
動物が関わる問題の中には、誤った情報を信じることで、誰かしら(人間または人間以外の動物)が生命・身体・財産の損害を被ることもある。また複数の人たちを混乱させることもある。
更に「協力したいな」と思っていた活動をしている人が書いた内容に、根拠が乏しい感情的な内容があると近づきたくなくなったりする。これがとても残念に感じることがある。
今迄そのように感じたことがあるので「誰かしらが損害を被る・被っている可能性がある事柄」「混乱を招く可能性がある事柄」はしっかり調べてから発言してほしいと私は願うようになりました。
・これを書いている私は誰?
どの分野のことでも、ある程度調べて書かれた記事を読む時に「この人はどんなバックグランドがあるんだろう」と考えてから読むことがある。なので改めて簡単に自己紹介をしておきます。
犬も猫もその他人間以外の動物と暮らしていませんが、カテゴリー的には「一般飼い主」とか「動物好きな一般人」です。獣医師とかトレーナーとかの資格もないし、地域猫活動とか保護活動をしているということもない。
いつも見ている情報は「誰ても見えるところにある情報」であり、特殊な情報入手手段をもっていない。
強いてあげるとしたら(ネットなどの情報以外だと)広く個人的に話を聞くことはある。たまにその相手が専門家であることもあるが、極々たまにであり、ほとんどの場合、私と同じ一般飼い主です。
・だから?
誰でも見ることができる情報ばかり見ている人間から見ると「あなたの希望?思い込み?、私には現実味を感じませんが…」と感じる発言は何処にでもある。しかしそれが何らかの活動をしている人であるなら、その人の活動に対しても「思い込みで活動することもある人なのかな」と距離を置きたくなる。
たぶん他にも同じような人がいて、身近な動物に関わる活動が広がらない原因になっているのではないかと感じている。
個人が感覚・感情で発言することは自由だと思います(誰かを傷つけないのであれば)。しかし発言に気配りをすれば、理解者・協力者が増え、先に進むめるのではないかと感じる活動が今まであった。なので、これから活動を進めたい人に、心にとめていただけたら嬉しい。
〇 例 ~狂犬病の予防注射~
現在白熱した議論になっていない内容にしたいとおもってこれを取り上げます。
もう数年前になりますが、あちらこちらで「狂犬病の注射は利権だ!」「必要だとしても三年に一回でいいはずだ!」と書込む人が増えて「何がきっかけでみんなで書込んでいるんだろう」と不思議に思ったことがあります。
当時マイクロチップの利用につてい法律で定めるか、定めるのであればどう定めるのかの議論がされていた時期でもあったので、その絡みだと想像しました。「利権」発言については「いつものこと」と感じたのですが「三年に一回」発言が多いことが不思議でなりませんでした。
ちなみに「利権だ」発言は昔からありましたが、実際にその業務をやっている獣医師先生に話を聞いてみれば、言われるほどの利益がでないことが分かります。
獣医師として動物と飼い主と真摯に付き合い、治療、健康管理を行っていれば、その病院をかかりつけの病院とする飼い主がつくので、業務全般から考えた狂犬病ワクチンの利益はそれほど大きくない。
もし、その病院をかかりつけにしている飼い主がいないような病院であれば、いい収入源かもしれませんが、そのような動物病院は続けられないのではないでしょうか。
またその時期は、いつもの病院業務(?)を圧迫することになりますので、糾弾するほどのプラスがることはないと思います(我が家の猫が4月26日に逝ったので、それを感じることがありました)。
もう一つの「三年に一回でいいはず」ですが、騒ぎが大きかった時から更に10年以上前に、そのようなワクチンがあることを知っている私にとって「何故、今?」と不思議でならなかった。
発言している人は「獣医師の先生が言っていた」程度ではっきりしたソースを書く人がほとんどいなかった。時間をかけて調べた結果「たぶんこれだろう」と推測できるものに辿り着いた。それを読んみると、日本において三年に一回でいい!とは書いていない。「ここの記述は、日本が三年に一回に出来ない理由を(日本とは書かずに)書いているんだろうな」と思える内容は何箇所もある。
たぶんネットに書込んでいる人は、それを読んだ獣医師先生の話を聞いて、自分の中で話を組立て直し、ネットに書込んでいるのだろうと想像しています。元の資料を全て読めば、全然ニュアンスが違うことが分かる。
今でも「三年に一回でいいんだ!」と書いている人もいるし、昔の発言が残っていることもある。
昔の発言については訂正した人もいますが、その訂正と元発言がリンクしていないこともあります。この先紹介する資料を理解できれば、それら発言を批判したくなるとおもいますが、それはしないでいただきたい。
何かをしたいのであれば、資料に「全国的な獣医師協会は法律を最新の科学的エビデンスに合致するように変更するための働き掛けを行うことができる」と書かれているので、その活動を後押ししていただけたらと願います。
後述しますが、日本は清浄国という特殊な立場なので(どのような形にするしても)今までのルールを変えることは慎重にならざるを得ないと想像しています。
しかし昭和60年(1985年)の「半年から一年」への改正は、手続きだけをみる限りサクッと改正された印象がある。
狂犬病予防法の改正を目的とした法律ではなく「地方公共団体の事務に係る国の関与等の整理、合理化等に関する法律(昭和六〇年七月一二日法律第九〇号)第二十条」により改正されている。
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_housei.nsf/html/houritsu/10219850712090.htm
なので、一年から三年も軽々と改正できるかもしれない。
~~~
そろそろ資料を紹介したい
~~~
・その資料はこちら
お急ぎの方は、20行くらい下の太字の下のリンクから資料を入手していくだけばいいのですが、資料の性格を理解する上でこのまま読み進めていただければ幸いです。
※尚、この資料(ガイドライン)は 2015年という(科学の進歩が速くなった現代において)古いといってもよさそうなものです。そのような意識ももって読んでいただきたい。
※誠に申し訳なのですが、以下はパソコンの表示での話になります。スマホで確認したところ、日本語表示にする方法が私には分かりませんでした。
スマホ表示(英語表記のサイト)からでも日本語の資料はダウンロードできます。
スマホからでも以下のリンクから資料をダウンロードすることは出来るまずです。
では資料の紹介。
まず、この資料の性質を確かめる意味も含めて、この資料(ガイドライン)を作成した世界小動物獣医師会のトップページから手繰ります。トップページはこちら。
https://wsava.org/
英語のページですが、上の方に国旗が並んでいます。その中に日本の国旗があり、それをクリックすると日本語表示なります。
国旗のすぐ下にショートカットが並んでいます。その中の「ガイドライン」をクリックすると以下のページに移動する。
https://wsava.org/global-guidelines/
このページは縦に長いのですが、その中から「予防接種ガイドライン」を見付けクリックすると以下にジャンプする。
https://wsava.org/global-guidelines/vaccination-guidelines/
私は日本語以外の読み書きお喋りは出来ないので、日本語のものを探したら
このページの中にある日本語のガイドラインは以下のものだけだった。
犬と猫のワクチン接種ガイドライン(日本語)
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-vaccination-guidelines-2015-Japanese.pdf
このガイドラインの不思議なところは日付がない。
英語版には各ページのフッターに「January 2016」とあるので、たぶんその時期なのだろう(ただし URLに 2020/01 とあるのが気になる)。
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/WSAVA-Vaccination-Guidelines-2015.pdf
このページの末尾の方には、日本語の(ガイドラインではなく)関連記事が三つあります。ページ上の表記では
ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語
(WSAVA 犬と猫の ワクチネーションガイドライン2015年版)
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/Vaccination-Guidelines-Article-Michael-Day-Japanese.pdf
ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語02
(Day先生 来日座談会 ワクチネーション 最新アップデート2017)
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/Vaccination-Guidelines-Article-Michael-Day-Japanese-02.pdf
MVM-2014年 150号ワクチネーションガイドライン概要と暫定
https://wsava.org/wp-content/uploads/2020/01/MVM-2014%E5%B9%B4-150%E5%8F%B7%E3%83%AF%E3%82%AF%E3%83%81%E3%83%8D%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%A6%82%E8%A6%81%E3%81%A8%E6%8F%90%E8%A8%80.pdf
末尾が「概要と暫定」になっていますが、スマホページには「概要と提言」と書かれています。
文書の内容から「概要と(アジアの小動物臨床獣医師に向けた)提言」が正しいとおもわれます。
大元のガイドラインを一読の上、3つの記事を読むととても興味深く、狂犬病ワクチンの接種間隔どころではない日本における課題を感じます。
また飼い主として、ワクチン付いて獣医師と話合いたくなる人も多いのではないかと想像しています。
ガイドライン全文をお読みくださった人なら理解できると思いますが、誰かから切り取った情報を聴き、都合のいい箇所だけ取り上げて発言したくなる人もいそうだなと感じることが何箇所かあった。
〇ガイドラインに書かれていること
・基本的な立ち位置
前述リンクの説明を手繰った方なら理解されているはずですが、これを作成したのは「世界小動物獣医師会(World Small Animal Veterinary Association, WSAVA)」です。獣医師会の世界的な組織。そこが作成したワクチンに関するガイドライン。
つまり「獣医師」または「(各地域の)獣医師会」向けであり、一般飼い主向けではありません。
また、リンクしたものは日本語訳されていますが、元は英語であり世界に向けたものです。
そして何よりも、狂犬病ワクチンのことだけを取り上げたものではなく、犬や猫を中心にそれらに使われるワクチン全般について書かれたものです。
・一通り読んでいただきたいのですが
何度も書きますが、このガイドライン(表紙の2ページを含めると全66ページ)を(意味が分からない部分は飛ばして結構ですから)全て目を通していただきたい。狂犬病のことだけ興味があるという方は、検索機能を使って「狂犬病」と書かれた前後だけでも読んでいただきたい。それだけでも狂犬病ワクチンだけでなくワクチン全体に付いて理解が深まると共に(三年に一回を含めて)問題意識を持たざるを得なくなると思います。
しかし全てに目を通していただくことを前提にすると、ほとんどの方はしていただけないと想像しているので、分かり易い部分を抜粋(引用)し、説明します。
・三年に一回でいいんだ!、と言いたくなる?部分
(ガイドライン:9ページ、左側~右側)
(用語)
VGG:Vaccination Guidelines Group(ガイドラインを作成したグループ)
DOI:duration of immunity(免疫持続期間)
~~~~(引用ここから)
犬の狂犬病ワクチンについては特記する必要が
ある。VGG は、犬の狂犬病が地域的に認められ
る国では、法的義務はなくとも、獣医師が飼い主
に狂犬病ワクチン接種を強く奨めることを推奨す
る。ワクチン再接種までの間隔は、法で定められ
ていることが多い。国際的に入手可能な不活化狂
犬病ワクチンは、当初承認されたDOI が1 年で
あったため、年1 回の再接種が規定されていた。
現在多くの国で、これらの狂犬病ワクチンは3 年
のDOI の認可を取得し、法律もそれに伴い改定
された。しかし、国によっては法的要件がワクチ
ンの認可条件と一致せず、ワクチンの認可内容と
法律のいずれも変更されていない国もある。最後
に、一部の国では、国内で製造され、DOI が1 年
であり、それを安全上3 年に延長できない可能性
が高い狂犬病ワクチンがある。獣医師は法律に気を
配らなければならないが、3 年以上の免疫をも
たらす製剤を入手できる場合には、全国的な獣医
師協会は法律を最新の科学的エビデンスに合致す
るように変更するための働き掛けを行うことがで
きる。
~~~~(引用ここまで)
上記の部分だけ読むと日本向けに(日本みたいな特殊なところもありますからと)書いているのでは?、と思ってしまいます。
この部分だけ読むと、法律の重要性をどの程度認識すべきなのか分かり難いですが、獣医師も飼い主も法に従うのは当然であると読める箇所が何ヶ所もあります。興味深い表現と感じた部分を引用します。
(ガイドライン:9ページ左側~10ページ右側)
~~~~(引用ここから)
犬の狂犬病については再接種が法的に義務づけ
られているため、特異的な血清抗体のモニタリン
グは、一般にワクチン再接種の必要性を判断する
目的のものと同じ扱いでは行われていない。ペッ
トが海外渡航する際は、狂犬病ウイルスに対する
防御抗体力価(0.5 IU/ml を超えると考えられて
いる)についての検体検査が必要である。狂犬病
の血清学的検査は、認可された関連機関でのみ行
われる。
~~~~(引用ここまで)
日本で、法律で毎年接種が義務付けられていても抗体の値が充分であれば、その年は接種しなくてもいいと考えている獣医師もいるようですが、こちらはそれを否定しています。
法律以外のルールも守るべきだが、それらルールについて懸念している内容もある。
ガイドラインではなく「ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語02(Day先生 来日座談会 ワクチネーション 最新アップデート2017)」の2ページ目左側。
各種施設でワクチン接種を証明できないとサービスを受けられないことがあることに付いての記述。
~~~~(引用ここから)
イギリスでも毎年ワクチンを接種していないと動物を受
け付けないという施設があります。科学者ではない人たちがワ
クチンに関するルールをつくってしまったため非常に複雑化し
ている。これは獣医師として、科学者として、法律や規制が科
学の進化に追いつく必要があることをアピールすべきです。
~~~~(引用ここまで)
同様に、獣医師でもない科学者ではない影響力のある人たちの(根拠を示さない)発言が混乱を招く一因になっていると私は感じています。
以上の様に、このガイドラインは獣医師向けに科学的な情報を提供しているものであり、飼い主は各地域の法律を遵守すべきであり、その他のルールも守ることになる、と考えている。
このガイドラインは、ルール作りの時に必要な情報を提供しているのであり、ここに書かれていることが絶対的なルールではないことを分かり易く述べた部分を引用する。こちらもガイドラインではなく「ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語 (WSAVA 犬と猫の ワクチネーションガイドライン2015年版)」の1ページ目左側、冒頭に近い部分。
~~~~(引用ここから)
このガイドラインはワクチンを画一化する法律ではなく、獣
医師に対して科学的な情報を提供するために策定されている。
~~~~(引用ここまで)
・三年に一回でOK、について
私は狂犬病ワクチン接種を年一回行い続けることを希望していない。
あくまで「科学的根拠を示して話をしてほしい」と考え、そもそも「語るべき立場なのか」も考える。
私も接種回数が少ない方が良いと考えているが、私は獣医師でも科学者でもないので、主張も情報の流布もする気はない。今回の書込みの目的もそれではないことを改めてここに書いておく。
「一般飼い主が語るべき内容ではないと考えているし、語るのであれば、しっかりとした根拠を示して書かないと身近な動物に関わる人たち全てが、感情論で語るように見られるとおもう」ことを危惧し、その具体例として書いている。
以下に一見、日本でも三年に一回でOKと読める内容を引用する。
まず、ガイドラインではなく、「ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語 (WSAVA 犬と猫の ワクチネーションガイドライン2015年版)」の2ページ目左側。
~~~~(引用ここから)
現在の犬のコアワクチンは、ほとんどの国において最低免疫
持続期間3年間とされている。これまで1年とうたわれていたも
のが3年となったのは、強力なワクチンが開発されたためでは
なく、先ほどと同じ実験を行い、子犬に接種してから3年後に
検査したのである。すなわち現在のワクチンも、記載された免
疫持続期間は3年間とされている場合、これは最短3年間という
ことになる。
~~~~(引用ここまで)
私は「えっ?、そうなの!、今迄の薬で?」と驚きました。
そして「ここだけ読んだのかな?」と思ったりもしました。
ガイドラインの46ページ目(ファクトシート:狂犬病ワクチン)の左側
~~~~(引用ここから)
攻撃試験と血清学的検査の結果から、市販の不
活化製剤および組換え製剤接種後のDOI は3
年である(Jas et al. 2012)。
~~~~(引用ここまで)
これを読むと「もう全ての狂犬病ワクチンが3年なのか!」と思ってしまう。
しかし、その少し下に以下の記述がある。
~~~~(引用ここから)
一部のワクチンは、強毒性狂犬病ウイルスによ
る攻撃に対して3 年間防御するが、国または地
方の法律で年1 回の追加接種が必要とされるこ
とがある。VGG は、すべての立法府議員に対
し、法律を制定するときには科学の進歩に基づ
くことを推奨する。一部のワクチン(国内で製
造される製剤など)では、1 年を超えると信頼性
の高い防御を得られないことがある。
~~~~(引用ここまで)
最後の方ですね。ここが気になる訳です、
〇日本のことを考える
日本だって法律を変えればいいだけなのに何故変えないの?、とお考えの方は、まず日本で流通している、そして入手可能な犬用狂犬病ワクチンのDOI(免疫持続期間)が一年なのか三年なのか調べてほしい。
それを調べた上で「三年に」と発言するのであれば、何故現状のようになっているのか、それを変えるにはどうすればいいのか書いてほしい。
ただ「一年はイヤ!」だけでは先に進まないし、もし進ませたくない人たちがいたとしたら「しめしめ、この程度だったらこのままでいいや」となることでしょう。
・三年に一回にできない理由の憶測
先にも書きましたが、私も三年に一回に出来るのであればそうしてほしい。多くの人がそう思うだろう。
「利権だ!」と声を上げる人たちは「獣医師の収入が減るから三年にしないのだ」という人たちがいますが、これだけを理由に三年に変わることがないのは、社会人を長いことをやっている人ならなんとなく分かることでしょう。
座談会記事(ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語02 (Day先生 来日座談会 ワクチネーション 最新アップデート2017))から当時の日本の状況がうかがえる。
座談会記事なので、具体的な数字と感触的な話が入り交じり部分的に引用すると誤解を招きかねないので「私の理解」を書き、補足的に引用をします。
その記事には、飼い主さんのワクチンに対する意識が低い、接種する人(犬や猫などに接種させる飼い主)は決して多くない(示されている数字は「いくらなんでもそこまで低くないのでは?」と感じます)との内容が書かれて、それに対して WSAVAのDay先生は
~~~~(引用ここから:1ページ目右側)
対策としてはまず獣医師への教育です。小動物の臨床家は
集団免疫とはいったい何だったか、覚えていないかもしれません。
また、飼い主へのアプローチも対策の1つだと思います。
~~~~(引用ここまで)
飼い主だけでなく先生方の意識についても言及しています。
この座談会記事の最後のページに(私も同様に考える)先生方が危惧されている点がありますので引用します。
~~~~(引用ここから:6ページ目左側から右上へ)
栗田 獣医師はある程度知っていると思います。むしろポイン
トは飼い主だと思います。たとえば1日に2人以上の飼い主から
「これは毎年打つ必要があるのですか」ときかれたら、ワクチ
ンプログラムについて考え直すのではないでしょうか。飼い主
の力が必要なのかもしれません。
Day ネット上に氾濫している不確定な情報を信じてしまう飼
い主も多く、科学的に正しい情報を発信するという目的で
WSAVAでは飼い主およびブリーダー向けのガイドラインも作
成しています。
座長 まだ日本語版はありませんね。ぜひ訳して広める必要が
あります。
梅村 私たちも時々リサーチするのですが、最近、インターネッ
トで「ワクチン 犬 毎年」と検索すると、5年前にはそれほ
どなかった飼い主のブログに多くヒットするようになっていま
す。私が懸念するのは、そういったブログなどを拝見すると、
混合ワクチンというすべてのくくりを3年に1回でいいというこ
とだけがクローズアップされているような場合です。たとえば
ノンコアワクチンは年に1回でないといけないなど、そこまで
の細かい情報はまったく伝わっていません。情報が曲解されて
伝わっていることは非常に危険だと考えています。
座長 獣医師の教育も大事ですが、飼い主、ブリーダーの教育
も今後大きな影響があるでしょうね。
Day ワクチンの決定権は飼い主ではなくて獣医師にあるとい
うコンセプトですので、学生や若い獣医師たちへの教育も重要
になってきます。
~~~~(引用ここまで)
科学的に正しい情報を発信しなければならないのは当然のことであり、三年に一回が進まない原因の一つがここにあると考えています。
また「ワクチンの決定権は飼い主ではなくて獣医師にある」、私もそうだと考えています。
この団体(WSAVA:世界小動物獣医師会)は以下のような提言もしている。
以下の資料の2ページ目左側から右上へ
MVM-2014年 150号ワクチネーションガイドライン概要と暫定
~~~~(引用ここから)
④ ワクチンだけにとらわれない「年1回のヘルスチェック」
小動物診療において、病気にかかっていなくても年に1
回ワクチン接種のために動物病院に受診してもらうシステ
ムが一般化され、それが動物病院の収入源として重要視さ
れてきた(または、現在もされている)。ノンコアワクチ
ンのDOIは一般的には1年またはそれよりも短いため、特
定のノンコアワクチンが必要な場合には毎年ワクチン接種
をすることになる。しかし、コアワクチンの場合には、毎
年ワクチンを接種する必要がない。犬や猫の健康状態を良
好に維持していくためには、ワクチネーションだけではな
く、定期的に、問診と身体検査によって問題点を明らかに
し、必要に応じて寄生虫コントロール、栄養管理、歯の衛
生管理、シニアケアプログラム(心臓、腎臓、がんなど)、
あるいは行動学的カウンセリングなどを実施することが重
要である。これらを継続的に行っていくため、すべての犬
と猫において、ワクチンだけにとらわれない「年1回のヘ
ルスチェック」を実施していくことを推奨している。この
場合、ワクチンによる感染症予防は「年1回のヘルスチェッ
ク」における一部の要素に過ぎない。
~~~~(引用ここまで)
広く日本の獣医療の現状を理解している人であれば、これは理想に感じるのではないかと私は考える。「病気や怪我をしなければ病院に行かない」という飼い主は珍しくない。
ワクチン接種する飼い主さんであっても「ワクチン接種しないと受けられないサービスがあるから」程度に考えている人もいる。獣医療現場では「集団免疫とはいったい何だったか」を忘れてしまうような現状があるのかもしれない。
少なくとも「年一回のヘルスチェック」を多くの人がその必要を理解し、受けるようになっていただくことを祈るばかりだ。
・抗体検査でいいのでは?
ここでは「狂犬病ワクチン」について考えている。
現在日本の法律では一年に一回打たなければならないとされている。
にも関わらず、打たない人もいれば、抗体検査の結果次第で打つ必要はないという飼い主もいれば獣医師もいるらしい(獣医師が話をしなければ飼い主がそのように考えることはないのでは、と私は考えている)。
今迄引用してきた通り、このような考えは、WSAVA(世界小動物獣医師会)にはない。法律を遵守することを前提とする。
この辺りも情報が混乱する原因の一つだろう。
参考までにガイドラインにて抗体検査の有用性について書かれている部分(「血清学的検査について」のQ&A)を引用しておく。
(用語)
CMI:cell-mediated immunity(細胞性免疫)
~~~~(引用ここから:58ページ右下)
80. 血清抗体価は、ワクチンで誘導された免疫の判定
に役立つか?
役立つ。とくに犬のCDV、CPV-2、および
CAV-1、猫のFPV、猫と犬の狂犬病ウイルス(法
的義務として)には役立つ。他のワクチンについ
ては、血清抗体価の有用性は限られているか、ま
ったくない。いずれのワクチンに関しても、様々
な技術的、生物学的な理由から、CMI の検査の有
用性はほとんどないか、まったくない。血清学的
検査においては、多くの変数でコントロールがは
るかに容易であるため、CMI の場合のような要因
が問題になることは少ない。ただし、検査センタ
ーの品質保証プログラムによっては、依然として、
矛盾する結果が得られることがある。
~~~~(引用ここまで)
狂犬病ウィルスを含む限られたウィルスに関して「ワクチンで誘導された免疫の判定」に「役立つ」とされている他方「他のワクチンについては、血清抗体価の有用性は限られているか、まったくない」としている。
また「検査センターの品質保証プログラムによっては、依然として、矛盾する結果が得られることがある」と指摘もしている。
コロナ禍後の現在、この辺りの内容を理解してくださる人は多いことを期待する。
~~~~(引用ここから:59ページ左側)
82. VGGが定期的な狂犬病抗体検査を推奨しないの
はなぜか?
多くの国において、抗体価検査の結果に関わら
ず、犬と猫の定期的狂犬病ワクチン接種が法的に
義務付けられているため、多くの獣医師にとって
この質問から生じる実際的な影響はほとんどな
い。狂犬病抗体検査は、ペットの海外渡航に関連
する特定の場合にのみ必要となる。国際的に使用
されている狂犬病ワクチンの有効性は高く、一般
的には、接種後の免疫を検査する必要はないと考
えられている。
~~~~(引用ここまで)
今迄も他の箇所で引用した内容と同じ。
たまに「今の日本の現状では、毎年の狂犬病ワクチン接種は抗体価検査の結果で判断するべきである」という内容をネットで見ることがあるが、少なくともWSAVAはそのような考えはない。
もっと単純に「日本では長年国内での感染がないのだから狂犬病ワクチン接種必要ない」と発言する人がいる。しかしそれに対して、獣医師会などが躍起になって「そんなことはありません」と活動しない。
飼い主によっては「そうなのか、必要ないのか」と思う人もいる様ですが、少し調べれば法律で定められていることを知ることになる。刑事罰もある(狂犬病予防法二十七条 二、二十万円以下の罰金)。
このようなことも混乱を招き、身近な動物に関する情報に対してよくない印象をもってしまう原因になっていると私は考えている。
・日本の獣医たちが腰が重い理由を推測する
何故三年に一回に動かないのか。第一に国内製造の薬に拘っているからではないかと想像する。
変化を好まない日本人の性格もあるのかもしれない。
現状でさえ(情報が混乱し)毎年のワクチン接種について飼い主に説明することに苦労されている場面があるようだ。これが三年に変更したら更に苦労されるだろうし、事務手続きの変更にも苦労するかもしれない。
また、薬がどれだけ効くのか疑問視する先生もいるのではないかと想像する。
一般的な薬は、同じ薬でもジェネリックを含め、幾つかの会社から販売されていることがあります。それらは同じ効果が得られるはずですが、製品が違うと効果に差を感じることがあると聞いたことがあります。
なので、三年に一回の薬に対して疑問視する先生がいても不思議はないと考えています(ガイドラインでは、同じ薬での実験を一年を目的にしたものを三年にしただけと書かれていますし、海外では随分と前から三年に一度になっていると書かれているので、すぐに理解が広まると思いますが)。
一番の懸念は、その変更を行った後に国内感染が起こってしまった時。一年から三年の変更と国内感染の因果関係を明確にすることは困難ですから、大きな(ややこしい?)混乱が起こることでしょう。
更には、犬や猫にどのような影響があるのか。海外の保護活動についてよく調べてみてほしい。その意味で私は絶対に日本に狂犬病が根付くことがないようにしなければならないと考えています。その点を懸念する獣医師もいると考えている。
となると「今までの方法で長年清浄状態を保ってきたのだから、このままがいいのでは?」と考えるのも理解できてしまう。
たぶん、獣医師の方々もこのようなことが頭にあるのではないかと、私は想像しています。
(参考)2024.02.10 追記
狂犬病予防注射ではない、犬のコアワクチンについて日本の動物病院の獣医師が書かれた記事があります。
犬の混合ワクチンは毎年か3年に一度か @ 獣医師広報版
基礎的な知識あり、仕事が扱っている専門家としてこの様に考えるのは当然のことだと思います。
〇長々と書きましたが
引用含めると一万字を超え、約一万五千文字以上になっています。
引用した資料が古いので現状に合っていない箇所もあるかもしれません。ここに書かれている内容を鵜呑みにせず、現状を各自調べていただきたい。
長々と書きましたが狂犬病ワクチンの年一回接種は法律で定められているし、世界的にも問題になっている狂犬病の問題を語るにはこれくらいの文字数は必要なのではないかと私は考えています。
また、リンクを貼ったガイドラインはじめ、その他記事を読むと、ワクチンについて、またワクチンを含めたヘルスチェックについて、飼い主が考えるべきことが多々あるのではないかと感じますが、その辺りことが今の日本で(意識をもった人は増えましたが全体として)あまり出て来ない(ネット上で話題になったりしない)ことも残念です。
身近な動物に対する日本社会の意識は向上しています。動物愛護管理法の内容とその運用状況をみても以前と比べれば明らかに向上しています。
そのような現状において、年一回のヘルスチェックを全体として考えるようになってもいいのではないか、と考えるのです。
今回引用した4つ資料の中にも書かれていますが(狂犬病に限らず)ワクチン接種はヘルスチェックの中の一つであるという意識が根付いてほしいと願うばかりです。
・ついでに
この書込みは「狂犬病ワクチンの接種間隔」の議論(?)について、私から見えた事柄で書かせていただいた。その議論の解明で行き着いたのが「 WSAVA(世界小動物獣医師会)の犬と猫のワクチネーションガイドライン」でした。
それにはワクチネーション(ワクチンの使い方)が書かれていて、冒頭(表紙を含んだドキュメント全体の)3ページ目に「ワクチンは不必要に接種すべきではない。」との立場をとっているものである。しかし当然ながら効果がなければ意味がない。つまり、意味ある最低限の接種について書かれている。
このガイドラインを読むと「多くのワクチンがあり、それらは一括りに出来ず、飼い主もそれらを一つ一つ勉強した方が良さそうだ」と感じる人も多いだろう。
狂犬病ワクチンの情報以外にも、ワクチネーションの視点から「コアワクチンとノンコアワクチン」「法律とワクチン接種」(猫に限られますが)「FISS(Feline Injection Site Sarcoma:猫の注射部位肉腫)とアジュバント」については(勉強という程のことはしなくても)知っておいた方が良さそうだ。
その知識を役立てるのは獣医師との話合いに使うものであると私は考えているので、深く勉強しなくても「こんな情報をネットで見たのですが」程度にかかりつけの獣医師に相談するのがいいと考えています。
(この中でも引用しましたが、ガイドライン中では「ワクチンの決定権は飼い主ではなくて獣医師」と書かれた部分もありますし。)
・最後に
何度も書きますが、私も三年で一回になることを願っている人間です。
なので「狂犬病ワクチンを三年に!」と声をあげる気持ちは理解できます。しかしそれだけ叫んでも(少なくとも私は)「法律で定められていることをなんの根拠も示さず否定するのは大人気ない」と感じてしまう。
既に引用し参考にさせていただいた記事から、ここで再び世の中に変化を起こさせる可能性を感じる内容を引用する。
座談会記事(ワクチン接種ガイドライン記事、Michael Day - 日本語02 (Day先生 来日座談会 ワクチネーション 最新アップデート2017))
~~~~(引用ここから:6ページ目左側)
獣医師はある程度知っていると思います。むしろポイン
トは飼い主だと思います。たとえば1日に2人以上の飼い主から
「これは毎年打つ必要があるのですか」ときかれたら、ワクチ
ンプログラムについて考え直すのではないでしょうか。飼い主
の力が必要なのかもしれません。
~~~~(引用ここまで)
私も同様のことを考えます。
しかし今まで以下のような経験をしたことがあるので難しいと考えてしまいます。
(私が「飼い主の力」に期待した経験)
災害時の同行避難について受け入れ側(避難所)がその準備をなかなか具体的に取り組んでいただけない現状に対し、どうするればいいのかと各方面から情報収集した結果、以下の提言を、同行避難(更に同伴避難)の準備を進めてくださることを願う人に、伝えるようにしました。
やることは1つ「災害時に自分が避難することになる避難所に同行避難が出来るか問い合わせる」それだけです。そのような人の数が増えれば(引用した先生の考えと同じで)行政も避難所も考えざるを得ないだろうと考えたのです。
これだけは「具体的には?」となるので以下のような内容も加えて伝えました。
~ ~
・まず市区町村役場に電話し、ご自分が利用することになる地域の避難所を確認し、その避難所が同行避難を受け入れてくださるのか確認する。
・役場としては「各避難所運営は各避難所に任せているので分からない」と答えるはずなので「では避難所の連絡先を教えてください」とお願いし、教えていただく。
・教えていただいた避難所に対応状況を問い合わせる。避難所運営は準備だけで大変なので「問い合わせる」までにしてください。
~ ~
東日本大震災よりも前から行っていましたが、震災後は災害に関心を持つ人が増えたという意味で同行避難に興味を持つ人が増えたし、震災から三年後くらいから保護犬保護猫の譲渡も盛んになった結果(犬や猫と暮らす人が増えたということもあり)更に興味を持つ人が増えたと感じていました。
また近年、大規模災害そのものも増えてきたこともあります。
なので、この話をすると「なるほど、やってみます」と仰ってくださる人が多々いらっしゃいました。
しかし、やり始めてから10年(震災からは6~7年)くらい経った時、予想外の現実を知りました。
多くの人に上記の提案をし「やってみます」と答えてくれた人も多々いらっしゃいました。10年以上はやったので100人以上はいると思います。その中には再び会う人もいました。それらの人に「やってくださいましたか?」と訊いたのですが、訊いた人の中にやってくださった人が一人もいなかったのです。
中には別の形で地域で同行避難の現実に向けて動き始めた人もいらっしゃいましたが、私がお願いした問合せをしてくださった人は一人もいなかったのです。
この活動は東日本大震災よりも前から行いました。中越地震(2004年)のことがあり、ペットと暮らしている人たちは、同行避難に多くの人が強く関心をもつだろうと考えたのですが、私の想像よりもはるかに少なかった。
当時は、避難所に動物を入れるなんてことは出来ないと考えている人が多かったのです。
なので東日本大震災以前は話をするのに苦労しましたが、東日本大震災後は興味を持ち、自分が避難することになったら一緒に避難したいと考える人が増えたことを実感しました。
なので「これで世の中変わる!」と思い込んだのですが、予想外の結果になりました。
以上の経験から、飼い主一人一人に語りかけ、何かを実行していただくことの難しさを実感しました。
なので
~
1日に2人以上の飼い主から「これは毎年打つ必要があるのですか」ときかれたら
~
の世の中にすることがどれだけ難しいか、私には実感しています。
ではそうすればいいのか?
「三年に一回にしないのは利権だ!」と叫べば、幾らかの人は振り向いてくれるでしょう。その中から諸事情を自分で調べ理解し行動してくれる人がどれだけいるだろうかと想像すれば、世の中を動かすだけの数はいないだろう。
逆に「法律で決まっているのに」と怪訝に感じる人の方が多いのではないでしょうか。
私の考えとしては、丁寧に説明し理解を促した上で、行動してくれる人が一人でも増えてくれることを願い、そのために地道に情報提供してゆくしか今の私には思いつかない。
私は入口になるだけで、踏み台のように通り過ぎて行ってくれればいい。その先は影響力のある先生や活動されている人たちに協力し、世に訴えてくださればいい。
今は、多くの人に訴えるツールがネット上に幾つも存在します(私はこれらが苦手)。それらを効果的に利用して実現していただけたらと願うばかりです。
それとは別に年一回のヘルスチェックが進むこと、そのためにも各飼い主が共に暮らす動物たちの健康により興味をもっていただけたらと願うばかりです。
そのためには分かり易い情報が必要になる。
私はそのような情報を提供するボランティアだと思っています。
皆様の身近な動物たちとの生活が思い出の中になってしまった時、いつまでも後悔することが少ない様に、少しでも素敵な思い出が多くなる様に、また、次の動物を迎えた時に同じ過ちをしないように、成長した自分が次の動物との生活を送れるようになることを陰ながら祈っています。
とても長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
~~
(2024.01.18 追記)
三年か一年か、臨床現場の先生が書かれた記事があった。
ネット上では「三年に一回」という声を強く聞くことがあるが、一般飼い主さんの多くは望んでいないようだ。
最後の「フェレット用ですね」を読んでなんとも複雑。もしその需要がなければどうなっているんだろ。
犬の混合ワクチンは毎年か3年に一度か
2023年8月20日:ムクムク(川村幸治)
@獣医師広報