囚われたい乙女心
週末は、お互い仕事や他の予定がなければ、たいてい彼と一緒に過ごしている。
夜はわたしの家で一緒に眠るのが定番コースなのだけど、お風呂から上がって化粧水やボディークリームを塗ったり、長めの髪を乾かすのに時間をかけていたりしている間に、彼は先に眠りについてしまう。
ちぇっ。おやすみのチューもハグもなしか。ちょいと物足りないぜ。と物悲しく思ってしまったりもするのだが、それ以上にわたしを悩ませていることがある。
最近、先にベッドで熟睡している彼の隣にそっと入ると、彼がわたしの方にガバッと大きく寝返りを打ち、あろうことかわたしの体の上に片足と片腕を乗せてくるのだ。
いい歳した意識をなくした(熟睡状態の)成人男性の片足と片腕ともなると、相当な重量である。(彼は身長も高めなのでわりと大柄)
その瞬間、「ぐ・・・・S・・・O・・・S・・・。」とモールス信号も絶え絶えに、岩に挟まって身動きがとれないかのような、「ロックオン」状態に。
最初のうちは、苦しみながらなんとか這い出そうとジタバタと必死にもがいていたのだが、ずしりとのしかかる大男の手足は、か弱い乙女の力では、到底動かすことはできない。
押しても押しても、ビクともしない。
もがいてももがいても、抜け出せない。
そして抵抗するのに疲れ果てたわたしは、ある時ふっと力を抜き、抵抗するのをやめてみた。
すると、
・・・おや?
・・・なんだか悪くない・・・かも?
身動きひとつとれない状態で脳裏に浮かんだのは、幼い頃の憧れ。
当時、ヒーローと敵対する悪役にお姫様がさらわれ、悪役の根拠地に拘束されるというゲームやアニメの展開を見ては、「わたしも囚われてみたい・・・」と羨望の眼差しでお姫様を見つめていた。
これぞ、まさしく・・・。
それ以来、彼がわたしと反対側に寝返りを打ち、「ロックオン」が解除されようものなら、「ようやく自由の身に・・・。」という解放感と、「あ・・・・・解放されちゃった・・・。」という名残惜しさとの間で、謎の葛藤が。
こうして「囚われの姫」は、安らかな寝息を立てている彼の横でひとり、今宵も人知れず思い悩むのである。