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M&A 役員の継続と保証債務の解除
M&Aの契約書実務に携わっていると当事者からいろんなオーダーをいただくことがあります。法務としての契約書の調整方法は書籍も多いですが、中小企業のM&Aではそれよりも当事者のいろんな思いをうまく文字にして契約書として調整することを求められているような気がします。
今回は、買主側から、M&A後も株式譲渡の売主に取締役をやめないでほしいから、保証債務をすぐには解除したくないと要望がありました。
前提条件
株式譲渡スキームによるM&Aにおいて、通常は、買主が、売主が負担している対象会社の債務に対する保証債務は、速やかに解除します。全国銀行協会と日本商工会議所が「経営者保証に関するガイドライン」(平成25年12月5日公表、平成26年2月1日適用開始)を策定しています。金融機関においても、株主でもなく代表者でもない個人が負担する保証は、解除されることが一般的です。
M&A後は、買主の元で対象会社の運営が行われますので、売主にとっては自らがコントロールできない対象会社に関する保証を負担し続けることはリスクでしかありません。
今回のケースでの当事者の要望は次の通りです。
買主:売主に役員として一定期間継続してほしいから保証債務は解除しな
い。
売主:保証債務は負担し続けてもよい。
売主自身も認識していない保証債務を負担し続けるリスクと買主の売主に役員を継続してほしいという要望を調整する必要があります。
契約書への落とし込み
以下の要領で契約書に反映させました。
・売主の役員継続義務
M&A後3年間は、取締役を継続する。ただし、体調不良等のやむを得
ない理由による場合と買主の同意がある場合には、期間中であっても辞
任できる。
・買主の保証債務の義務
買主は、M&Aの3年後までに売主の保証債務を解除する(3年後
までは保証債務を解除しなくてもよい)。
ただし、売主がM&A後3年以内に、体調不良等のやむを得ない理由に
よる場合または買主の同意を得て、取締役を退任した場合には、保証債
務を直ちに解除する(売主がM&A後3年以内に勝手に取締役を辞任し
たとしても、M&Aの3年後までは保証債務は解除されない)。