M&A株式1-6 行方がわからない株主がいるときは?
行方不明の株主がいる場合には、M&Aの前に対応が必要です。
所在不明株主が所有する株式は、会社法上の手続に従い裁判所の許可を得て売却できます。スクイーズ・アウトも有効な方法です。
事業承継円滑化法により行方不明株主の年数の要件が緩和されています。
行方がわからない株主の株式の取得の方法
株式会社は、行方がわからない株主に対しても、株主名簿記載の住所のあて所に通知等を行う必要があります。
行方がわからない株主が所有する株式を取得するには、以下の方法があります。なんらの手続もせずに、行方がわからない株主を株主名簿から削除したり、当該株主の株式を売却したりしてはいけません。
【方法1】所在不明株主の株式として売却または競売する
株式会社は、行方がわからない株主が、以下のすべての要件に該当する場合は、所在不明株主として、当該株主が所有する株式を裁判所の許可を得て競売または売却することができます(会197Ⅰ、Ⅱ、230Ⅳ)。手続には、少なくとも3カ月以上の期間が必要です。
要件①は、株主名簿の住所に発送した郵便が郵便局から「あて所に尋ねあたりません」等の理由により会社に返還されている状況が5年以上続いていることです。単に、当該株主からの連絡が途絶えているというだけでは、所在不明株主とはいえず、当該株主の株式を競売または売却することはできません。
この5年の要件は、経営承継円滑化法に基づく都道府県の認定を受けることと一定の異議申立手続きをとることで、1年とすることができます。
経営承継円滑化法に基づく認定の要件は、以下の通りです。
所在不明株主の株式売却の方法は、次の「所在不明株主の株式売却の手続」を参照ください。
【方法2】 不在者財産管理人を選任し、株式譲渡をする
行方がわからない株主が、不在者に該当すれば、利害関係人から、家庭裁判所に対し不在者の財産管理人の選任を申し立てます。選任された不在者財産管理人が、裁判所の権限外行為に関する許可を得て不在者の所有する株式を売却します。
不在者とは、従来の住所または居所を去り、容易に戻る見込みのない者のことです。不在者財産管理人の選任申立てができる利害関係人は、不在者の配偶者、相続人に当たる者、債権者などです。不在者が所有する株式を買いたいという理由では利害関係人に該当せず、財産管理人の選任申立てはできません。また、申立時には、戸籍謄本、戸籍附票、郵便局からの返還物、現地調査等の資料が必要となります。
株式譲渡のためだけに不在者財産管理人の選任はできず、選任された不在者財産管理人は不在者が現れるまたは不在者が死亡したことが確認もしくは失踪宣告がされるまで、その仕事は続きます。
不在者財産管理人の選任を申し立て、株式譲渡に関する家庭裁判所の許可を取得し、実際に株式譲渡を行うまで数カ月から半年程度の期間が必要です。
【方法3】スクイーズ・アウト
行方がわからない株主の株式の対処方法として、「スクイーズ・アウト」の方法によることもあります。
所在不明株主の要件に該当しない場合や、不在者財産管理人の選任申立てができない場合にも、スクイーズ・アウトは可能です。
スクイーズ・アウトについては、別の記事で記載します。
所在不明株主の株式売却手続
所在不明株主の株式の競売または売却の手順は以下のとおりです。期間は、3カ月以上必要です。
1.取締役会で所在不明株主の株式の競売または売却を決定
所在不明株主の所有する株式の競売または売却について、取締役会で決議(取締役会設置会社でない会社においては取締役の決定)します。実際には、競売では時間がかかり、市場価格のない株式では買受人が現れる可能性が低いため、自社または主要株主等の第三者へ売却することとなります。
株式会社が当該株式を買い取る場合は、以下の事項を定めます(会197Ⅲ)。買取価格は、買取りの効力が発生する日における分配可能額を超えることはできません(会461Ⅰ⑥)。
2.異議申述の公告および所在不明株主等あてに催告
所在不明株主の株式を競売または売却する前に、以下の事項を公告し、かつ、所在不明株主等には通知します(会198Ⅰ~Ⅳ、会規39)。公告は、会社が定めている公告方法により行います。通知は、株主名簿上の住所にあてて行います。
公告した一定の期間(3カ月以上)内に利害関係人が異議を述べなかったときは、所在不明株主の株式に係る株券が発行されている場合、当該株券は期間の末日に無効となります(会198Ⅴ)。
3.裁判所に対する所在不明株主の株式売却許可申立て
2.の異議申述期間(3カ月以上)に異議がなかった場合に、市場価格がない株式を売却するには、株式会社の本店所在地を管轄する地方裁判所に対して、所在不明株主の株式売却許可を申し立て、許可決定を受けます(会197Ⅱ)。
4.所在不明株主の株式の売却と代金の支払
売却した日に、株式会社または第三者は株式を取得し、所在不明株主は株主たる地位を喪失し、代金請求権を取得します。株式会社または第三者は、早期に債務を免れるため、通常は、売却代金を債権者不確知(民494)として株式会社の本店所在地を管轄する供託所(法務局)に供託します。株主の代金支払請求権は10年で消滅時効にかかります。代金支払請求権が、消滅時効にかかれば、供託をした株式会社または第三者は、供託金を取戻すことができます(供託法8Ⅱ)。
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