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機械仕掛けの現代で
デジタル化が進むにつれて、何が真実か、何が虚偽の情報なのか見極める力が求められている。
そこで改めて聴いて欲しい曲がSEKAI NO OWARIのillusionだ。
illusionが含まれたENTERTAINMENTがリリースされたのは2012年。スマートフォンが発売されて数年経った頃、SNSが現在ほど発達していない時から、SEKAI NO OWARIはメディアの本質を見定めている。
イントロでは不穏な雰囲気の中にもポップさを感じる電子音が鳴り響き、かなり衝撃的な歌詞から始まる。
命の並んだ午前0時のスーパーマーケット
これから食べる命を選ぶんだ
普段訪れるスーパーマーケットに並んでいる品々を、「命が並んでいる」と捉えたことはあるだろうか。少なくとも私にはない。
「いただきます」「ごちそうさま」を口にするのが日常と化し、その言葉の命に対する有難みが薄れてしまっているように感じる。
illusionの歌詞は、普段は念頭にも置いていないくらい当たり前の事実を、冒頭から改めて突きつけてくる。
TVで放送されている
爆弾が降る民族紛争は
音声も映像も
調整された戦争
機械仕掛けの「僕らの真実」はいつか
貴方の心を壊してしまうんだろう
僕たちが見ている世界は
加工、調整、再現、処理された世界
だから貴方が見ているその世界だけが
全てではないと
みんなだってそう思わないかい?
加工、調整、再現されたコンテンツを見て、画面の向こう側に同情してしまっている節がある。しかし、実際に行われていることは私たちが想像しているものよりも遥かに惨い可能性も有り得る。
視聴者に誤解を生むような見出し、Twitterでの140字のつぶやき、毎日放映されるニュース。これら全て加工、調整、再現されたものなのである。
目に入るものだけで全てを知った気になってはいけない。まさに、貴方が見ているその世界だけが全てではないからだ。
命を閉じ込めた 灼熱の動物ランド
僕らはそこでホッキョクグマと出会えるんだ
僕はコンピューターで無限の宇宙を見て
もう全てを知っていると錯覚するんだ
2番の冒頭でも、私たちが違和感を感じないくらい日常に溶け込んでしまっている命について皮肉な例えを用いて言及している。
自分たちよりも弱い立場にいる動物たちを、思いもよらずに軽視してしまっているのかもしれない。それは、動物園に足を運ぶ私達もそうだ。
命を利用されていると捉えざるを得ない当たり前の状況を、当たり前にしてしまってる現実を、動物園のホッキョクグマを通して、私たちに訴えているように感じる。
生きていくことが
あまりにも便利になったから
生きているという実感が無くなっている
僕の知ってる「現実」が
どうか嘘でありますようにと
神様の「形」の「人形」に祈るんだ
この世の中にあるのも全てが、人々の深層心理を読み取り、解決するべくますます便利になっていくに違いない。しかし、便利な世界になることで、皮肉にも生きている実感を感じにくくなってしまっている。
苦しい、辛い、しんどい思いが解消されていくにつれて、人々の表情も乏しくなっていくのではないか。
便利になっていくのは、好ましいことでは無いのだろうか。
私がよく利用するTwitterは140字でしか呟けない。人によって解釈の仕方も変わるため、同じコミュニティ内でもよく争いが起こっている。
Instagramのストーリーやティックトックも15秒の動画までしか投稿できない。身近なSNSでも、長くてYouTubeの数十分だ。
若者が多く利用するネット社会で、ほんのちょっとした言動のひとつから、「〇〇してたのではないか」「〇〇のように考えていたのではないか」という憶測がかなり多く飛び交っている。
私はこの歌詞を改めて考察し、SEKAI NO OWARIの音楽が伝えたいことは"当たり前の状況を当たり前で終わらせないこと"だと思う。
現代では、SNSで情報を得ることが当たり前になっている。そこで私自身、今一度気に留めておきたいのは、複数の情報から答えを見出すことである。
ひとつの意見だけを鵜呑みにして、自分の個性や考えを見失っては行けない。数多ある情報から、自分の答えを導き出すことが大切である。
そんな当たり前のことを、このillusionを聴くことで再度実感し、熟考するきっかけになる。
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「INSOMNIA TRAIN」
ライブで大きな木が立ったり、機関車が空を飛んだり、動物たちがストーリーを読み上げたり、ファンタジーで知られるSEKAI NO OWARIだが、最も現代の本質を見抜き、痛烈さを感じる歌詞を書いていると思う。
それこそ、TVなどで得る情報のみで彼らを判断するのではなく、歌詞を読み込んで自分なりに解釈し、彼らの曲たちに魅了されて欲しい。
そんな彼らの魅力に浸るための第1歩として、私が魅了されるきっかけとなった1曲、illusionを勧めたい。