日本の生産性の低さは何が原因なのか?
「日本は生産性が低い」ということをよく耳にする方は多いのではないでしょうか。
ただ、実際具体的に、他の国と比べていつから、どれくらいの生産性の差があるのか?その原因は何か?どのような解決方法が考えられるのか?などは意外と整理されていないことが多いかなと思い、今回はそのような内容を書いてみます。
一応、前回の投稿で生産性に関する内容をデジタル化のテーマの中でも書いておりますので、簡単にお目通しいただけますと幸いです。
|前提
改めて、生産性はより少ないinputでより多くのoutput(≒粗利益)を生み出せば高まるかと思います。
ちなみに、労働生産性は1人当たりの付加価値額、1時間当たりの付加価値額でも算出は可能ですが、昨今は、1時間当たりとして計測されることが多くなっているようです。
|他国との比較
先程の前提を踏まえて、日本が他の国と比べてどのような現状にあるのかを確認してみると、以下の通りの状況です。
上の図は、公益財団法人日本生産性本部の「労働生産性の国際比較2020」での公表データであり、サマリーとしては以下内容です。
日本の1人当たり労働生産性は、81,183ドル。OECD加盟37カ国中26位。
• 就業者1人当たりでみた2019年の日本の労働生産性は、81,183ドル(824万円/購買力平価(PPP)換算)。名目ベースでは前年水準を3.4%上回った。(実質ベースでみると同-0.3%と若干ながらマイナス)
• 順位でみるとOECD加盟37カ国中26位で、1970年以降最も低くなっている。就業1時間当たりと同様、就業者1人当たりでみても、主要先進7カ国で最も低い水準となっている。
• 日本の1人当たり労働生産性は、韓国(24位・82,252ドル/835万円)やニュ-ジ-ランド(25位・82,033ドル/832万円)とほぼ同水準。米国(136,051ドル/1,381万円)と比較すると6割弱の水準になっている。
また、2010年代後半(2015~2019年)の時間当たり実質労働生産性上昇率(年平均)でも、日本は+0.9%でOECD加盟37カ国中19位でした。つまり、労働生産性という観点での成長も他国に遅れをとっている状況です。
|原因
労働生産性が低い原因、他国と違いについては、様々な要因、考え方があると思いますが、ここでは先程の公表データと、デービッド・アトキンソン氏の発言内容などを中心に以下観点で考えてみます。
ちなみに、デービッド・アトキンソン氏は、オックスフォード大学で日本学を専攻、ゴールドマン・サックスで日本経済の「伝説のアナリスト」として名をはせ、退職後も日本経済の研究を続け、日本を救う数々の提言を行ってきたことで有名な方のようで、東洋経済でのコラムも多く出されています。
・産業構造の違い
・中小企業
・人事制度
・考え方
▶︎産業構造
まず、想像に難くないかと思いますが、産業構造の問題は大きいかと思います。GAFAに代表されるようなテクノロジー企業の成長とともに経済大国である米国は成長を続けている一方で、日本ではいまひとつイノベーションと言われることは起きず、自動車産業を中心とした製造業などの労働集約型産業が多くあります。
東洋経済での記事でも以下のようにあります。
国の生産性を決める最大の要因は「産業構造」だ
皆さんは、同じ「先進国」でもなぜ国によって生産性が違うのか、不思議に思ったことはないでしょうか。逆に、日本の生産性がイタリアやスペインとあまり変わらないことをおかしいと感じないでしょうか。
これらの疑問への答えは、次の一言に集約されます。
「生産性」は、その国の経営資源を、どのような産業構造に配分しているかを測る尺度である。
これがすべてです。これは経済学の基本でもあります。
ちなみに、ドイツは日本とよく似た産業構造ですが、1人当たり労働生産性で日本より36%ほど高く、時間当たりでみると56%も高い水準です。
ただ、近年になってドイツでも労働生産性の停滞が懸念され始めているようで、以下原因を挙げていますが、これは同様の構造である日本にも大いに当てはまるものではないかと思い、原因の一つとして紹介いたします。
①人口の高齢化がもたらす労働力人口の減少と(1960年代生まれの)ベビーブーム世代の退職に伴う熟練労働者の不足
②投資が国内に向かわず海外直接投資が増大する傾向
③労働市場とサービス部門の規制を背景とした新規事業立ち上げ比率の低迷
①エネルギー集約型産業で減少が大きくなっている
②無形資産投資が特にサービス部門で弱く、ソフトウェアやデータベース向けだけでなく研究開発への投資、特にデジタルへの投資で後れ
▶︎中小企業
こちらについては、以下東洋経済でのデービッド・アトキンソン氏の記事が参考です。
日本に限らず、海外のどの国のデータを見ても、小規模事業者より中堅企業のほうが生産性は高く、中堅企業より大企業のほうが生産性が高いことは、動かしがたい事実とのことです。
大企業の生産性>中堅企業の生産性>小規模事業者の生産性
企業の規模が小さいほど生産性が低くなるというのは、世界中で確認できる経済の鉄則において、全企業の99.7%が中小企業の日本はその原因を中小企業とせざるを得ない環境、状況であるということでしょう。
例えば社員数が5人、10人といった規模の組織に、経理などのバックオフィス機能を自動化するシステムや名刺を共有するシステムを導入する動機はわかないはずで、そもそもIT部門もないことが多く、安くないシステムにお金をかけることもできない、とのことです。
非常に同意する一方で、ここについては、このコロナをきっかけとした環境の変化や昨今のテクノロジーの進化もあり、考え方次第、取り組み次第では改善の余地があると考えています。
例えば、初めからできないと決めつけたり、安易に従来のやり方に固執するのではなく、環境変化に対応し、例えばテレワークやzoomなどのテレビ会議システムなどに取り組むことは非常に重要だと感じます。もちろん、ほとんどの費用はかからないです。
更に、意外と多くの企業でスプレッドシートやチャットツールなど、無料で使え生産性を高められるようなツールを使っていないことがあり、それだけでも生産性は高まるのではないかと思っています。
▶︎人事制度
これもコロナをきっかけによく話題になっているテーマだと思いますが、メンバーシップ型雇用とジョブ型雇用の人事制度に関する内容です。
ジョブ型雇用については、いくつか参照させていただきましたが、以下記事が特に勉強になりました。
当該記事では、ジョブ型雇用に注目が集まる5つの理由の話があり、環境変化に伴って、これまでの雇用制度、それに紐ずく評価制度、つまり人事制度を多少なりとも変えざるを得ない内容があります。
ここでは、生産性という観点において、以下3つを挙げます。
・テクノロジー人材の獲得・育成
・労働市場の流動化
・テレワークの浸透
現在の流れにおいて、上記取り組み、現状は不可避だと思いますが、それに対応するためには、従来のメンバーシップ型の雇用制度では厳しいということです。
つまり、人材獲得競争が熾烈な職種であるテクノロジー人材の獲得・育成には、ジェネラリスト育成型の従来の雇用制度と切り離し、テクノロジー人材に最適化した人事制度をつくる必要性があるということ。
また、産業構造の変化や総人口の減少により、構造的な人材獲得難が発生しているなか、ジョブ型雇用であれば職務要件が明確なため、仕事を切り出しやすくなり、機動的な人材活用が可能であるため。
そして、テレワークの浸透で勤務中の姿が互いにみえなくても、社員が自律的に働き成果をあげられるよう、それぞれの仕事内容をはっきりさせたいとのニーズが生まれているため。
このように、変化にともなう必要性や取り得る手段の変化があると思います。
▶︎考え方
ここについては、特段具体的な話というよりも少し抽象的な内容かと思いますが、生産性が低い原因というだけではなく、意外と多くの物事の障壁になっていることも多いのではないかと思っています。(もちろん自戒の念を込めて)
先ほどご紹介しましたデービッド・アトキンソン氏も、「現在の日本の産業も企業も、人口増加時代にできた経営のやり方をそのまま続けています。国家そのもの、政治家や官僚、経営者の考え方が、人口増加時代から何も変わっていません。」と述べています。
また、日経ビジネスでのコラムにおいても、日経BP総合研究所主席研究員の方が、次のような経験を話されています。
”現場でシンプルに、「セル生産をしよう。それだけで何人か不要になる」と提案しました。
しかし、この現場では最初まったく受け入れられませんでした。管理職も現場の作業者も、「そのやり方は、以前やっていた。効率が悪いから今の形になった。だから、やる意味がない」と口を揃えます。セル生産の考え方自体は理解しているのに、これまでの自分たちの経験から自社には合わないと決めつけていました。
現場が確かに楽になると感じてもらい、信頼してもらうように努めました。そして、最初の提案から半年ほど経って、ようやくラインの一部でセル生産を試してもらえることとなりました。
結果は最初の1カ月ではっきりと出ました。時間当たりの梱包個数が1.5倍に増えました。”
なかなか難しいことも当然あると思いますが、旧弊や常識にとらわれず「一見変えても意味がない、むしろ悪化してしまうと感じてしまう箇所こそ、そこを一つ変えてみるだけ」で大きな効果が生まれることは意外と多くあるのかもしれません。
|解決策
解決策については、各企業の置かれている状況により様々だと思いますので、ここでは汎用的に、解決策のひとつとして考えられるものを端的に共有できればと思います。
▶︎粗利益を上げるための”販売”施策(output)
特に私のnoteでは基本的に中小企業を想定した内容を書いていますので、大手には当てはまらないことも多いと思いますが、労働生産性における付加価値額を上げる、つまり粗利益を上げるためによりROIの高い取り組みをどんどん行うことは考えられます。
販売施策として考えると、「単価を上げる」か「外注費(間接費)を減らす」のいずれかだと思います。
単価を上げるために、基本的にはその価格でも買ってもらえるような商品サービスの「質」を高める必要があります。(ここは個別事情が多いためこれ以上は省略させていただきます)
外注費(間接費)を減らすためには、販促費含めた外部購入費を減らす(ROIを高める)必要があり、例えば昨今ではDtoCのビジネスモデルを構築している会社や、例えば販促して無料で活用できるSNSなどを上手くパフォーマンスさせるなどがあると思います。
▶︎その他inputを減らす施策
前回のnoteでお伝えしたような積極的なデジタル化だと思います。やはり、ここについては、考え方の要素も大きいと思いますが、不可逆的な流れだと思いますので、どのようにすれば自社でよりデジタル化ができるか、という思考が重要だと考えています。
更に、専門的な人材、優秀な人材を業務委託など、雇用形態、働き方など関係なく、積極的に少しでもプラスになるのであれば、活用していく必要性があると感じています。
労働人口減少、特に地方においてはより優秀な人材、そもそもの人手不足という話題が尽きないと思いますが、このようなリモート環境が浸透してきた今こそ、首都圏、あるいはグローバル全体でどんどん優秀な人材、自社が求めている能力のある人材の招聘が必要だと思います。
今回は以上です。ご覧いただきましてありがとうございます!