感傷を他人のものにする ~ドラゴンクエスト ユア・ストーリーに想う愛の押し売り
*このnoteは、8/7(水)時点全国公開中の映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」のネタバレを含みます。
これから見る予定のある方は、ご注意ください。
「感傷」とは、物事に感じて心をいためること、とあります。(デジタル大辞泉より)
よって、個人の感情の揺れ動きであって、決してそれは100%ブレることなく他者に伝わることはない、と思います。
一方で、「共感」とは、他人の意見や感情にそのとおりだと感じること、とあります。(出典同上)
「感傷」をなんらかの形でアウトプットした結果、思ったことが伝わり、「共感」を生む。
それはしんみりとした感情だったり、心の奥がじんわりする出来事だったり、なるほど!と思う論説だったり。ラジバンダリ。
これを前提にして、8/7に見てきた映画「ドラゴンクエスト ユア・ストーリー」で監督が伝えたかったことを考えてみたいと思います。
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ドラゴンクエストというのは、元々1986年にエニックス社(現: スクエア・エニックス社)から発売されたロールプレイングゲームです。
その後の作品展開や派生ゲームを改めて語ることはしませんが、その中で、ドラゴンクエストVという親子の物語を題材にしたのが、今回の映画の大筋です。
しかしながらこの映画、酷評酷評あんど酷評。見に行こうと思っていたのにやめたと自分の周りだけでも複数人声があがる程度に、すこぶる評判が悪い。
悪いならばその悪い理由を自分の目で見てみよう。
それが映画を見た動機です。怖いもの見たさ、という別の文言になるかもしれませんね。
で、だ。
鑑賞後の第一声としては「仕事を思い出させないでくれ」なわけですが、それは横に置いて、なぜ評判が悪かったのか。
とはいえ、日々ヤクルトの打線や守備に対して、「大志、いい三振!」などと褒め月間展開中の身なので、よかったことから。
・父パパスが息子の命を守るために、魔物に抵抗することなく倒され亡くなる
・リュカが自分の本当の気持ちに気が付いて、ビアンカにプロポーズ
・おばばに化けてそれを手助けするけなげなフローラ
・リュカとビアンカの子どもの誕生
原作内でもターニングポイントともいえるシーンは、やはり泣けます。
泣くというのは、この話に共感できたから。
ではなぜ共感できたのか。
それは、この映画を見ている自分が、ゲームのドラゴンクエストVの舞台という同じ土台を共有していて、その中での当時の思い出や感情、またその感情の沸き上がりによる追想など、『物語に入り込む』ことができたから。
そう。
この『いかに物語に入り込める(入り込む土台を作れる)』かが、監督の腕の見せ所なんです。
では、なぜこの映画は、こんなにも評判が悪いのか。
いくつかのトピックで考えます。
・ストーリー展開の粗さ
約2時間の映画なわけですが、数十時間をかけてやりこむこのゲームが2時間で語れるはずもなく。
よって、映画のストーリーはダイジェスト版を見ているかのように、次々に進みます。自分が動かしているわけでもないので、見ているではなく見せられている。
このことで、客観的に一歩引いた状態で映画を眺めている。
それが昨日の2時間でした。
・主人公のキャラの軽薄さ
エンディングまで見ればわかるのですが、この映画は大人になったドラゴンクエストV好きの男性がVR体験できる機械を通じてゲームの世界を楽しむという前提から作られています。つまり、主人公はゲームを楽しんでいる男性自身であり、ドラゴンクエストVの主人公リュカではないのです。
結果、この男性の言動を「見せさせられている」ことになり、そこに現実世界から持ち込まれる人くささや言動の軽さ、またファンタジー世界にはないコミカルさを見せつけられます。
・唐突に出てくるゲーム用語
他の方の論評にもありましたが、「クエスト」て(苦笑)。
ゲーム内のフローラが、ブオーンを倒したリュカ相手に「このクエストは〜」なんて言いますか?
それは、ゲームとして楽しんでいる時のユーザーがゲームから得る用語であって、決してファンタジー世界の住人が口にする用語ではないんです。
この3つに共通するのは「客観がはいること」。
つまりそれって、『物語に入り込め』てないんです。
だから、見ながら現実世界のあれこれを思い出してしまい、ミルドラースの正体なるものにも、はいはいとなってしまう。
監督が思い描いていたであろう「自分がゲームを通じて体験したこと」を映画という媒体に持ち込みすぎてしまったが故に、監督の暑苦しい想いがスクリーンから剛速球で、でもキャッチャーが伸びしてやっととれる高さと幅で飛んでくる。
↓伸びをしてやっと取れるボールを投げるピッチャーの例
ほらそこ。
2019年ヤクルト阪神の開幕戦@京セラドームで、石山が暴投サヨナラ決めた試合を思い出さないように↓
感傷は、あなたものです。
決してそのままでは他人には伝わらないし、共感を生まない。
共感を得たければ、どうかもっと、原作の世界観を壊すことなく、またリュカという久美沙織さんの小説「ドラゴンクエストV」由来のように思える名前の主人公に必要以上のことを語らせることない土台で、映画を作ってほしかった。
これは、「ユア・ストーリー」ではないです、監督。
あなたのマイ・ストーリーを、ずれた方向から投げつけられただけ。
暑苦しいのは、外の気温だけで結構です。
#ヤクルトスワローズ #Enlightened #swallows