なぜ僕は人が27回もの失敗を繰り返す現場を見に行くのか
人は失敗をする生き物だ。
いきなり主語が壮大なことを言ってしまったが、これを読んでいる人の中で人生1回も失敗をしたことがないと言う人だけ僕に石を投げればいい。
アイタタタ…
ヤメテ…イタイ…
僕は失敗をする(正しい主語の使い方)。
それは、今まで受けてきた山ほどのテストだったり、何かの試験だったり、ラジバンダリー。
イヤイタイ…
ソレイタイ…ヤメテヨー…
…こほん。
試験だけじゃなく、仕事でも、大小さまざまな失敗をしては先輩に怒られ、上司と一緒に取引先に謝り、でもそれは次に同じことを繰り返さないで仕事を成功させるための糧になっている。
同じような失敗を繰りかえさないための工夫は、例えば後輩に早めに教えてみたりもする。
そうすることで、若い後輩たちが早く仕事を覚えてくれれば僕だって嬉しい。
人はそうやって成長し、成長を見守り、そして世代を紡いでいく。
失敗は恐れてはいけないが、かと言って同じ失敗を繰り返してもいけない。
僕はそう思っている。
だがしかし。
その失敗を少なくとも27回もしないと終わらないスポーツがある。
そう、野球である。
攻撃する側が点をとればそれはすなわち守る側の失敗であり、逆に守る側がそのバッターを討ち取れば攻撃する側の失敗である。
アウトカウントにして各回3個x9回、実に27回もの失敗を、プロアマ問わずどちらかのチームが達成することでその試合が終了するという、実に不思議なスポーツでもある。
そして。
僕はその野球が大好きだ。
東京ヤクルトスワローズをこよなく愛し、応燕している。(ヤクルトファンはエンの字を燕に置き換えるのが大好きだ)
好きな選手の活躍を大いに喜び、それの何十倍も失敗や負け試合に涙をし、しかしそれも込みで仕事の傍で一球速報を横目に見てはまた小さなガッツポーズとため息を繰り返す日々を送っていた。
そう、去年までは。
新型コロナウィルスの猛威は、僕の日常の一部だった野球観戦さえも軽々と吹き飛ばしてしまった。
僕が入り浸っている野球好きが集まるチャットルームも、例年ではあり得ないほどの静けさを保ったまま。もう4月も半ばだというのに。
いざ試合が始まると、12球団それぞれのファンがそれぞれに歓声と悲鳴を、その指で叩き込む部屋なのに、だ。
野球の試合のある日は、数時間でそのログが見返すことのできないほどに膨れ上がる。
試合中に普通の会話なんて、もちろん成り立たない。
ペナントレースですらそうなのだから、CSや日本シリーズ、はたまた日本代表の試合ともなると、スマホが熱暴走するんじゃないかという速度でチャットが進行する。
そんな日々が、まだ、やってこない。
同じ球団が好き、同じスポーツが好き。
それだけを楽しむことですらできない閉塞感は、僕が20年以上前に初めて信濃町の駅に降り立った時以来初の体験だ。
その日、僕は大学の同級生に誘われて、当時は全く興味がなかった野球観戦に向かっていた。
僕の地元を本拠地とするプロ野球チームはあったけれど、大阪からやってきた球団というよそよそしさがぬぐいきれないまま僕は地元を離れたので、さしたる想いは残念ながらない。
初めて降りる駅という緊張感。友達との待ち合わせに間に合うだろうか、道を間違えないだろうか。ただそれだけで頭がいっぱいで、大学の教室で日々見ている顔を入場ゲート近くで見つけた時のことや試合の展開のことは1ミリも覚えていない。
ただ、試合に勝って初めて歌った東京音頭と、友達が貸してくれた緑のビニール傘から歪んで見えた東京の夏の夜空とが、あの日の僕の記憶として胸に刻まれている。
そのたった1試合がきっかけとなり、僕は当時球団ホームページに設置されていたチャットルームに昼夜となく入り浸っては全国に友達を作り、その友達と神宮で何度となく会い、一緒に燕征旅行をし、そして少しの恋もした。
儚く散ったいくつかの時間を全部思い出すことはもうないけれど、その時間をキチンと過ごしたからこそ、数年前に初めて会ったその人に
「野球好き?」
と問われた時にYESと強く首を振り、また
「ヤクルト!」
と高らかに宣言できたのだと思っている。
僕は野球が好きだ。
1日に27回もの失敗を繰り返す胃の痛くなるスポーツだけど、僕はまた翌日も試合を見るし、時間が合えば球場で応燕をする。
人は失敗をする生き物だ。
牽制死もするし、盗塁死もする。
簡単なショートゴロからの一塁への送球が派手にそれたり、浅いレフトフライを取り損ねたり。セーフティーバントの失敗だって、雄平の三邪飛だって、親の顔より見たことがある。
ホーム突入判断の信号機が壊れもするし、あと3センチずれていればファールだったサヨナラゴロにがっくり膝をつく夜もある。
15連敗目の帰り道に乗った電車が家と反対方向だったり、やっとチケットを取ったシーズン最終戦が96敗目の年だってある。
でもその失敗を繰り返す中で、10回に3回くらいは成功するヒットエンドランに大はしゃぎし、9回2アウト満塁からの通算200号サヨナラホームランに電車で周りの目も気にせず涙もする瞬間があるからこそ、僕は野球を見るのがやめられない。
僕は野球が好きだ。
好きだからこそ、今自分に出来るたった3つことを、欠かさずやろうと思う。
うがい、手洗い、ヤクルト。
神宮球場ライトスタンドで、腹から声を出して応援できる日を心待ちにして。
#ヤクルトスワローズ #Enlightened #swallows