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かわいくなくていいんだよ

このあいだ、銀行の窓口に訪れた。たいがいの用事はATMで済んでしまうので気が付いていなかったが、窓口に立つ銀行員には、若い女の人が多いようだ。おそらく20代前半の女性にいろいろと手続きをしてもらっていたのだが、(こんなことを言うとなんとなく怒られそうだが)すごくかわいかった。僕が書類記入に手間取っていると「もう、しっかりしてください!」と笑顔を浮かべ、うっかり恋に落ちてしまいそうだった。年下のかわいい女の子に敬語で注意されると、恋に落ちてしまいそうになる。

基本的に銀行とか郵便局とか病院とかで行われる、事務的な手続きは面倒で大嫌いなのだが、終わった後に「また来よう」と思っている自分がいた。たいがいの用事はATMで済んでしまうのでまた来る理由はないのだが。また来る理由、誰か知りませんか?


また別の日。僕は度重なる結婚式に備えて、クリーニング屋に訪れていた。さて、これは勝手なイメージだが、クリーニング屋というところにはパートのおばちゃんが集まる印象がある。だからという訳ではないが、部屋着に毛が生えた程度の身なりで、足元は100均のサンダルに毛が生えた程度の格好で訪れた。

余談ではあるが、毛が生えた程度ってなんだ。部屋着に毛が生えていたら部屋着より気持ち悪いし、だいたい部屋着に毛は生えない。「毛が生えている方がちょっとマシ」みたいな前提はどこから来た。毛が生えた方がいいのは頭とか、一般的に毛が生えている場所だけだろう。というか頭以外も別に生えていなくてもいいだろう。脇とか。あと、足の親指の関節部分とか。あの毛は必要か?毛としての正式名称すら知らない。毛としての正式名称ってなんだ。ちなみにこの部分は完全に余談である。余談が長い。

話を戻すと、とにかくみすぼらしい格好で訪れたクリーニング屋でレジに立っていたのは、おそらく女子大生であろう、かわいい女の子だった。トートバッグに無理やり突っ込んだしわくちゃのスーツを渡した。「こちらはお持ち帰りください」とジャケットのポケットに入っていたライターを手渡された。

もう、めちゃくちゃに恥ずかしかった。かわいい女子大生に、ずぼらな自分を見せつけてしまった。部屋着だし、スーツぐちゃぐちゃだし、ジャケットにライターが入ってることも気づかず手渡してるし。もう恋に落ちる余裕もなかった。「なんか小汚ねえ客」と思われているに違いない。恋するなんておこがましい。

会計を済ませた僕は。小声で「…ざっす」と謎の言葉を残し、ただひたすら惨めな気分になって店を去った。もう二度とこのクリーニング屋には行きたくない。しかし、クリーニング屋には必ずもう一度訪れなくてはいけない。スーツを回収しなければいけない。惨めな思いをしてまでクリーニングしてもらったのだから、受け取らなければならない。


「受付には綺麗で若い女性が適している」という価値観があると思う。あまり美醜の問題をギャーギャー言うとギャーギャー言われそうだが、訪れた客が不快に思わないように、自分の身なりを気にするのはマナーだし、綺麗な女性は印象もいいし、理にかなっていると思う。

しかし、かわいけりゃいいってものではない。ありのままの自分を見せられる相手の方が良い場合だってある。近所のコンビニもスーパーも弁当屋も、綺麗で若い女性ばかりだと生きにくくて仕方ない。肉屋にはぽっちゃり気味のおばちゃんがいてほしいし、部屋着で立ち寄ったら「あんた、シャンとしいや!」と笑われたいし、できればコロッケをサービスしてもらいたい。適材適所というものがある。かわいい女の子には、ぜひ自重してバイト先を選んでもらいたい。クリーニング屋とか、かわいくなくていい。かわいいを無闇やたらと振り撒くんじゃない。気をつけろ。

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