スペキュラティブデザイン、まだ見ぬ世界のその先へ
武蔵野美術大学 大学院造形構想研究科 クリエイティブリーダシップコース クリエイティブリーダシップ特論 第2回
19 Apr.2021
【 登壇者 : パーソンズ美術大学 : 岩渕 正樹さん 】
第二回目の講義は、日米で最新デザイン理論と実践の橋渡しに従事する岩渕 正樹さんからにレクチャーしていただきました。
岩渕さんは東京大学卒業後、IBMDesignでの社会人経験を経て、パーソンズ美術大学に留学。デザイン思考の新しい在り方を常に追い求め現在NYを拠点に様々な活動を行なっています。
岩渕さんについては、こちらの記事にご本人によって詳しく書かれています。
スペキュラティブデザイン
岩崎さんがパーソンズ美術大学に留学を決めたのは、“スペキュラティヴ・デザイン”を学ぶため。
まず、ペキュラティヴ・デザインとはなんなのか。
20世紀後半から出てきた、デザイン思考は「デザインは機能的で問題解決するものである」という方法であるのに対し、ペキュラティヴ・デザインは「問題解決をするのではなく、未来に意識を向ける」ことを目的にしています。
スペキュラティヴ・デザインの提唱者であるAnthony Dunne(アンソニー・ダン)の著書↓
講義の冒頭に、一枚の写真が出されました。
その写真には、水の中に仰向けに浮かんだ女性が、子宮から血を流しイルカを出産している場面でした。
これはメディアアートのスペキュラティヴ・デザイン分野で有名なアーティスト長谷川愛さんの作品です。
彼女は、現代社会の子どもを持つ、持たない、養子を取る、代理母になるという選択肢のどれにも当てはまらない自分のような人の新しい選択肢として、人間が絶滅危惧種の動物を出産できたらどうなるのだろうと考えました。
幼少期から祖母がお寿司屋さんを営んでいたため、「魚は食べ物である」という認識だったが、海洋生物の代理母になれば、自分がベジタリアンになれるのかもしれないという未来までを見据えた作品です。
私はこの一枚の写真にとても衝撃を覚えました。
今までデザインを学んできて、現状の起こっている世界の問題解決しかしてこなかった、むしろデザインとはそうあるべきだとも考えていた私にとって、長谷川さんの作品は新しい可能性を提示し、そこで考えうる未来を想像しています。
〜Be a Dreamer〜 夢追い人になれ!
岩渕さんは「今ではない未来を想像する力が必要」と語ります。
スペキュラティヴ・デザインの観点からも言える通り、今起きていることのその先には何があるのかイマジネーションすることで“新しい文化”の創造につながるのだと。
お話の中ではpppp図(図1 : Anthony Dunne氏とFiona Raby氏による図)の「起こりうる未来 」に目を向けることから、岩渕さんはさらに「Dream」を見据えることが重要であると仰られています。
飛行機が誕生したのは人が「空を飛びたい」を夢を描いたから、ロケットができたのは人が「宇宙に行きたい」と夢を描いたからです。今の社会があるのは人間が夢を描いてきたからなのです。
現代社会、組織の中にいるとVISIONという言葉の方が多く使われますが、
VISIONはDREAMから来るのだと岩渕さんはおっしゃいました。(図2)
確かに、“ビジョン”企業っぽく客観的だけれど、“DREAM”は誰しもが持つことができるものだと感じます。
岩渕さんは、この一連をSocial Dreaming through Designという言葉で表現していました。デザインを通じて社会の未来を定義していく、新しい文化の創造こそがデザイン思考のその先にあるのではないかと思います。
Not 現在 but 未来
日本にも、デザイン思考のブームがきています。デザインって重要だよねという意識は広まり始めています。デザインという波が来て、それが当たり前になって飽和した状態になった時に、どうしたら良いのか。
岩渕さんは、デザイン思考をより理解し、デザインの本質を実践に結びつけることを行っています。
現在の“流行り”の波に乗ることはすでに手遅れで、それが当たり前の世界になった時、自分がどうあるべきなのか。
岩渕さんは、デザイン思考のその先、未来を見据えた考えがあったからこそこのように行動できたのだと感じました。
「今ではなく、未来を見る」
これからデザイン思考を学ぶ学生として、その先を見据えた視点が重要であることを知ることができ非常に身になる講義でした。そして、これはデザインにおいてだけでなく、生きる上でも必要なことを学ぶことができたと感じています。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?