クズも死後神になれると知ってから餃子のタレが輝いている
前回に続き祖父の葬儀の話。
我が家は神道なので、仏教の葬式とは異なる「神葬祭」を執り行った。仏教の葬式は"死者の魂を極楽浄土へ送り出すための儀式"であるのに対し、神式の葬儀は"亡くなった家族を先祖と共に神として奉る"ことを目的として行われるらしい。つまり、亡くなった祖父は神さまとなったわけだ。このまま行くと未婚の私も死後、神になる確率が高いということに気づき、ちょっと怖くなる。
神葬祭の一日目、まず通夜祭と呼ばれる儀式がある。斎主となる神官の方が祝詞を読み上げ、参列者は玉串(と呼ばれる、白いひらひらした紙と葉っぱのついた枝みたいなやつ)を奉納するというのが、大まかな流れ。
その中で、斎主が故人の経歴や功績をたたえ霊魂を鎮める言葉を献上する儀式がある。これはもちろん事前に個人のプロフィールや人柄を知っていないといけないので、遺族があらかじめ説明しておくらしい。形式に則った荘厳かつ流麗な言葉で綴られるのだが、それにしても結構な文量である。これを故人ひとりひとりにあわせてカスタマイズしたものを、葬儀までの時間がない中で毎回執筆し、手書きで清書するなんて、作家で言ったら締切まで1日しかない、しかも絶対に落とせないやばい寄稿を頼まれるようなものだ。遅筆な私だったら絶対無理。神官の方に対して、変な角度の尊敬の念が湧いてくる。
そうやって書かれた祝詞を読み上げる際、お経とはまた違う独特なイントネーションなのと、馴染みのない語彙も多く出たため、全ては理解できなかったのだけど……いやごめんなさい、正直に言うとほとんど聞き取れなかったのだけど、私の祖父の場合は「世のため〜人のために〜力を〜尽くし〜」というようなことを仰っているのは聞き取れた。上記で書いたことは式が終わってから調べたことなので、実は儀式の意味も知らずに参列していたのだが、この言葉が聞き取れたときに、す、すげ〜〜!!一人一人変えてるんだこれ!と衝撃を受けたのだった。
たしかに祖父は、世のため人のために尽くした人だったと思うので、うむうむなるほどなと思うと同時に、「これ、故人がマジのクズ人間だったらどうするんだ?」という疑問が湧いてきた。
というのも、私の父は不倫にギャンブルにやりたい放題で、離婚後も養育費を全く払わず私と姉のお年玉貯金の全てをもってフィリピンに逃亡したため、もし彼が神道によって弔われていたらどうなってしまったんだろうと思ったのだ。いや、これはあくまで娘である私の目線なので、父にもそれなりに讃えるべき功績はあったのかもしれないけど、仮に父を担当した神官の方がいたとしたら、相当頭を悩ませることになったには違いない。
ものすごい気になってしまって、通夜祭が終わった後スマホで色々調べたが、ヒットする記事はなかった。というかそもそも検索の仕方もよくわからなくて、「故人 クズの場合 神道 祝詞」とか調べたけど、Googleには「クズの場合」は無視されて、神道の儀式や神葬祭についての記事ばかりが出てきたのだった。
二日目の葬場祭や火葬を済ませたあと、神官の方を含む親族で慰労の食事の場があり、私はたまたま神官の方と向かいの席に座ることになった。和やかな歓談ムードになって、今ならいけるかなと思い、神官の方にどうしても知りたかったことをそのまま聞いてみた。
「祝詞を読む際に、故人が讃える功績の全くないマジのクズ人間だったらどうするんですか?」
小さめの声で言ったのに、みんながわっと笑った。親族のおじさんが「そんなこと気になってたのかよ!やっぱり作家先生は違うねえ」と囃し立てる。
神官の方は、私の質問に少し困った顔をしながら笑って、
「そうですね。まあ、そういうときも、『天命を全うし〜』とかなんとか、なにかしら言うことはありますよ」と、だいぶ言葉を選びながら答えてくださった。
つまり、どれだけのクズでも死後はそれなりに神になれるっぽい。そして天命を全うしたというのが生前の功績になるということは、生きてるだけでえらいって言う言葉は神道的に正しいのかもしれない。
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