なんで色彩検定を受けるの?と聞かれた日々のこと
11月8日に色彩検定2級を受験した。
会場にはオシャレな美大生のようなひとたちや、試験が始まる1分1秒前まで公式テキストをめくっているひとたちがたくさんいて、「趣味で受けに来ました!」という私は場違いなのかな?と少しびびったけれど。
自己採点では9割近く取れていて、結果は合格だった。
思えば、最初に「色」に興味を持ったのはいつのことだろう。
3つ下の弟がいる私は、幼いころから一人遊びが好きだった。
母が弟を妊娠している頃から、おばあちゃんの家で暇さえあれば絵を描いたり折り紙で作品を作ったりしていた。
24色入りの色鉛筆のセットを大事に大事に使っていた小学生の頃、文房具屋さんでバラ売りの色鉛筆を見かけた。家にあるセットでは見かけたことのない淡いトーンの色鉛筆を見て、心が跳ね上がったのを覚えている。
お小遣いを貯めたのか買ってもらったのか定かではないけれど、いわゆる「パステルカラー」と呼ばれる類の色鉛筆を数本、手に入れた。
「エメラルドグリーン」という名前の色は、原色しか知らなかった当時の私にとって宝物のような色だった。
そのあとはキラキラのラメ入りのペンや、香りつきのペン、まるで鉛筆のようなシャープペンシルが流行り、クラスメイトに負けじとお小遣いを可愛い文房具に注ぎ込んだ。
いつの日か、心を踊らせた淡い色鉛筆の存在は忘れていた。
大学生になって、就活前にひとつぐらい何かの資格を取ったほうが良いのかな?という下心満載の気持ちで色彩検定のテキストをめくったことがある。
開いたページには大きく「目」の図が載っていて、網膜だとか虹彩だとか理科の授業で聞いたかもしれない単語が並んでいた。次のページにはガラスの面に差し込む光の図が載っていて、屈折や正反射という言葉に懐かしさを覚えながらも、私はそっとテキストを閉じた。
「思っていたのと違くない!?」というのが第一印象だった。
色の勉強って、ファッション雑誌にあるようなコーディネートの色合いを考えたり、色の種類を覚えるものだと思っていた。もちろん、あと100ページほどめくればそういった内容も出てくるのだけど、その遠すぎる道のりに諦めてしまった。
そんな苦い思い出の色彩検定に挑戦しようと思ったのは、今年の自粛期間のこと。
アクティブに出かけるのが大好きな私は、ステイホームをきちんと守りながらも、その生活が少しずつしんどくなってきた。
時間があるなら、少しでも意味のある時間を過ごしたい。
そう考えて思い出したのが色彩検定だった。
それとひとつ、私は「勉強」に対して強いコンプレックスを持っていた。
ひたすら暗記をすればよかった中学時代は、よかった。
先生から一番偏差値が高い公立高校をおすすめされたのを断って、自分が行きたいと思った文武両道の進学推進校を選ぶくらいには勉強ができた。
学年一位をとっていたこともあったし、自分は頭が良いのだと思っていた。
高校生になってどんどん勉強についていけなくなった時、中学生までの自分はただ言われたことを言われた通りに覚えることが少しだけ得意なだけだったんだと気付いた。
その調子だから大学受験もうまくいかなくて、大学でもあまり勉強には力を入れられなかった。
だけど、いつか大人になって「これを勉強したい!」と思えるものに出会えたら。
今度こそ、きちんと学んでみたいな。そう思っていた。
そんな思いと、ずうっと自分の奥底にあった「色」への興味と、突然現れた膨大な時間が重なって。
色彩検定の勉強にチャレンジしてみようかな、と思った。
色彩の勉強を始めて感じたのは、見えないものが見えるようになったということ。
駅に向かう途中の家の色の組み合わせが素敵だな、とか。
電車の広告ってこういう色使いだから目に入ってくるんだな、とか。
駅の路線図がカラフルなのはこういう理由だったんだ、とか。
この組み合わせだからこのコーディネーションはオシャレに見えるのか、とか。
今まで視界には入っていても意識して「見る」ことがなかったものたちが、日常生活の中で鮮やかに浮かび上がってきた。
知らないものを知るって、楽しい。
新しいことを学ぶ意味って、こういうことだったのか。
解けたところで何になるかわからないX軸とY軸と戦っていた当時の自分に伝えてあげたいくらい、知らない知識を吸収して、噛み砕くことが楽しかった。
初めて「暗記をする」ことよりも「理解する」ことに焦点を当てる勉強ができたのも、自分の自信になった。
他の人には当たり前にできていたことかもしれないけれど、私にとってはすごく大事なことだった。
色彩検定の勉強をしていて、と伝えると「なんで色彩検定を受けるの?」と聞かれることがたくさんあった。
きっとその質問にそんなに深い意味はなくて、私が逆の立場でも絶対に聞いているのだろうけど、聞かれるたびに少しだけどきっとした。
勉強をしている理由は単純明快で、ただ色が好きだったから。
好きな色にちょっとだけ詳しくなったら、見える世界が変わるかなって思ったからで。
検定は別に受けても受けなくてもよかったけれど、
せっかく少しかじるのであれば目に見える指標としては良いかもな、と思って受けただけで。
仕事で使うわけでも、キャリアにちゃんと生かせるわけでも、正直ない。
だけど私は、世界が鮮やかに見えたあの日、「エメラルドグリーン」の色鉛筆を手にしたときと同じ胸のときめきを感じたのだ。
色が好きで、勉強がちょっとだけ好きになって、
ひょっとしたら「無駄」と形容されがちな物事の先にあることを大事にできる自分が好きで。
なんて書いてみたけれど、6月の検定が中止になったと知って夏の期間は寝かせてしまったし、受けるのは2級だから!と3級の範囲は深めて学んだわけてもなくて、そういうところは変わらないよなあと思いながら。
好きだから、という気持ちだけでチャレンジをしてみて、よかったなと思った。
好きだけどどうせ、と。
そうやって思うことが多かった私だからこそ、今回のこの小さな一歩が自信になって、もっともっと自分の好きなことにチャレンジできたら嬉しいな