BUCK-TICK 魅世物小屋が暮れてから ライヴレポート
去る7月17日に行われたBUCK-TICKの配信ライヴのレポートを、ほぼ全曲、熱に浮かされるまま勢いで書きました。お目汚し失礼します。
~第一幕~
古びた電飾が瞬きをしながら、今宵の宴の演目を告げると、小屋の幕が開いた。
火吹き男、蛇女や双頭の美女。緊縛調教、動物の芸がメリーゴーランドのように回り、蝋燭を持つ怪しげな紳士に奥へ奥へと誘われた先に…
無数の電球とシャンデリアが吊るされた真っ赤な舞台が現れた。
ヤガミのドラムから始まったのは、唄。
昭和歌謡のビッグバンドのようであり、ダンサブルにも感じる新しいアレンジを桜の紋が入った黒留袖に深紅の薔薇を咲かせた麗人 櫻井敦司が唄う。
続くのはスズメバチ。ロクスソルスの館でファンに熱を与えたアレンジから更に進化し、鋭い針で刺す。
両翼ギターの今井と星野が、振り払っても飛び回りまとわりついてくる羽音を艶っぽく奏でる。
mas Q ue ここから突然、夜の深淵へと。
笑顔で観客に媚びへつらうなど決してしない、唯一無二、天才クラウン今井寿。
鮮やかなグリーンヘアにモノトーン柄をいくつも合わせたティアードフリルの衣裳を纏い、浮遊する音色で観たものを煙に巻く。
センターでは、櫻井が仮面に唇を寄せる仕草と声で魅せる。
アップライトベースを奏でる樋口の、したたかさを湛えたシルエットが逆光に映える。 色彩を抑えた花柄の燕尾服姿。いつもの愛らしさは影を潜め、彼が持つ芯の強さが低音で響くたび、ゾクッとさせられる。
続くのは、這いずりながら激しさを内包するノクターン。
湿った音がステージを濃霧に包む。雨粒が跳ね返るように、ラストはシンバルの音が曇り空を裂く。
昭和歌謡の風情を漂わせた 誘惑。
紺のナポレオンジャケットの星野のギターソロと後半コーラスから醸し出される色気が、場を静かに支配していく。
その背後からヤガミのドラムと、したたかにアップライトを操る樋口の濃い血の繋がりを感じさせるビートが刻まれていく。
COYOTE 着物を揺らし、孤独に荒野を行く歌い手は舞台を囲む炎に怪しく照らされる。
Mr.darkness&Mrs.Moonlight
黒留袖を脱いだ櫻井、レースの袖から伸びるしなやかな腕と指先。レザーに包まれた細い脚が軽やかに舞う。
サタン
或いはアナーキーから、惑わす悪魔が舞い降りる星野の曲。タメのあるブレイクに色気が増す。
舞夢マイム
紅を引かれた唇が、ソファーにもたれて気だるく呟く歌は、馬鹿な男を転がしてきた故の哀しみか、それとも諦めか。縺れ合う二人は朝日を遮るカーテンの中、刺し違えたのか、それともただ、立ち去ったのか…
続くのはDiabolo
これぞ魅見物小屋、今井はティアードフリルを揺らし激しくステップを踏み、怪しい夜更けに乾杯!
ヤガミのカウントで始まった聞き慣れない爽やかな旋律が施されたのは、BUCK-TICKの代表作、
JUST ONE MORE KISS
原曲が 熱く胸を焦がす恋ならば、煌めいた過去への憧憬を唄うよう。少し落としたテンポで唄う櫻井の声とメンバーが奏でる華やいだコードが優しく愛の光を注ぐ。
切なく美しい余韻を残しながら第一部の幕が閉じた。
~第二幕~
怪しく笑うピエロが緞帳を開けると、
ノイズと鋭いライティングがステージを包み、ICONOCLASM が始まる。
幾度となく演奏されてきたロックナンバーは、土着の民に伝承されてきた秘祭の舞踏曲へと変貌していた。
星野のカッティングが催眠術の如く耳に響く。
普段のライヴでの激しさとは異なる、ドープでマッシヴなアレンジに、徐々に心身が侵食されていくカルト信仰的な感覚を覚える。
古びたアコーディオンのようなエフェクトで奏でる白鳥の湖から、きらめきの中で…。
ベースが唸りギターノイズが絡み合い、ドラムが不穏な空気を揺らす。
化粧のとれた裸の僕は誰だい?と麗人は問う。
黒光る木馬の向こうに浮かび上がる樋口のベースが、情事の始まりを告げるサファイア。
脳天を突き抜けていく今井のギターに、快楽で視界が歪む。 紫紺の光が刺すステージに妖しく輝くサファイアの瞳。
見てはいけないものを凝視する鑑賞者たちの汚れた欲に応えるように、
赤の襦袢をはだけ、魅世物小屋に堕とされた高級娼娼婦(娼夫)が妖艶に揺れる。
櫻井の艶かしい歌声が鼓膜を愛撫していく。
悦びに震えるファルセットで鳴いたとて、事が済めば長居無用とばかりに無言で肌を隠し暗がりに消える。
Django!!魅惑のジャンゴ
指を鳴らす音に青い性愛の倒錯から目覚めたと思った矢先。
五人のマジシャンが奏でる鮮やかな音に再び魅せられる。
センターで踊り掻き鳴らす今井クラウンの後方で、燕尾服の樋口とナポレオンジャケットの星野2人の案内人がステップを踏み、薄紅色の軍服を纏うドラマー・ヤガミが魔法をかけていく。
ロンド
舞台下からクラウンが奏でるメロディーにのせて櫻井は裾を翻し、猫の仮面と華麗に円形のステージを舞う。
ロクスソルス獣の館から魅世物小屋にその場を変えても 、変わらぬ妖艶な舞。
一転、薄明かりの中、三日月が映し出され、
MOONさよならを教えて…
サファイアで淫靡な姿をさらした麗人は
純白のマリアヴェールから、
内面の美しさが溢れる瞳を覗かせて清廉な祈りをささげる。
その祈りを月まで届かせるかのように、ラストへと駆け上がるバンドサウンドに涙が溢れる。
ドラムでAlice in Wonder Undergroundの行進が始まる。
病が蔓延し何処に向かうのか分からない世界で、明るくポップに、しかし高く深く進んで行く。
続くのはOnce Upon a Time
タイトルとは裏腹に、懐古主義とは無縁なBUCK-TICKを象徴するアップテンポなメロディーライン。
櫻井が指をからめて約束する。未来の神話が始まっているのだと示し、進化し続けると。
ずっと張り詰めて演じていた櫻井が、ヤガミの後方へ回った刹那、柔らかな微笑を見せた。
星野のアコースティックギターが優しく響き、
幻想の花が始まる。
白く照らされたシャンデリアの下。奏でられる音色は、クライマックスへと次第に力強さを増していく。
五人のシルエットが美しく浮かび上がり、深く優しい闇を湛えた黒の幻想の花が、ステージに鎮座する。
夢見る宇宙
あなたに出会えた夜、僕は生まれた。
そう。我らBUCK-TICKの泉に舞い泳ぐ魚は皆、飽くことなく進化を続ける五人に、それぞれの道程で出会った。
出会えたことで新たな自分が生まれ それぞれの瞬間を生きてきた。
きっとこれからもBUCK-TICKに支えられ、夢を見て、愛と感謝を届け、また彼らから受け取り、輪廻するのだろう。
鼓動刻む樋口のベース、全身に血を巡らすヤガミの力強いドラミング、細胞を潤す星野のギター、ゆっくりと手を降り舞台を去る櫻井の慈愛に満ちた眼差し。
彼らの表現する全てが、生きることへの希望と愛に満ちている。
最後は、常に未来を指し示すかのような今井のギターエフェクトがきらきら星のメロディーを響かせて、魅見物小屋の幕は閉じられた。
潔い。これ以上ないくらい潔い幕引き。
今宵、魅せられた世界は、夢か幻か?
いや確かに在った、この胸は焦がされている。
でも、もうあの天幕があった場所を振り向く暇はない。
BUCK-TICKは誘う。
新たな旅へ、列車の出発の時は近づいている。