臨床検査の『基準範囲』の真実〜その4
臨床検査の『基準範囲』について、その4をお届けします。
前回の「その3」では
・基準値/基準範囲には様々な種類がある
・基準値/基準範囲は健常人の100%が必ず入るものではない
・健常人でも基準値/基準範囲を外れる人がいる
というお話をしました。
【基準範囲の真実その3】はコチラ
今回は基準範囲の境界線に対する考え方についてお話ししていきます。
基準範囲の境界線に関係する変動要因
前回のその3で「個人の基準値」と「ある1つの集団の中の基準範囲」が存在する
というお話をしました。
ざっと書くと
・何度も同じ検査を受けることで「その人個人が問題なく健康な状態の時は大体このくらい」という「個人の基準値」が決まってくる
・本当の自分の健康な状態との比較は、個人の基準値でするのが望ましい
・初めて検査を受ける等、個人の基準値がない場合は判断ができないため、あらかじめ求めておいた「ある集団の中の健常人の95%が入る範囲を基準範囲」として検査値を判断する
という内容でした。
この『健常人の95%』というのがポイントで、『健常人でも一定の割合で基準範囲に入らない人もいる』ため、基準範囲から外れたとしても、それだけで病気という判定にはなりません。
診察時に説明もないまま検査結果のプリントを渡され、基準範囲から外れていると検査室に尋ねてくる患者さんや、ネットや書店からの基準範囲で不安になる方など、色々といらっしゃいます。
まずは、あまり不安にならないようにしていただきたいと思っています。
ただし、大幅に外れている時は病気の可能性も高いですので、医師の指示に従って様々な検査を受けてくださいね。
で、ここで気になるのが「基準範囲ギリギリの境界線付近の場合」ですよね。
境界線付近なので、大きく外れているわけではありません。細かい定義があるのですが、まずは、健常な状態なのか小さな異常を捉えているのか、しっかりと見極めていく必要があります。
様々な要因で検査値が動いた結果、基準範囲を超えるということも少なくありませんので、検査値が基準範囲を外れたときは、それらの病気由来ではない変動要因も頭に入れながら、検査結果を評価していく必要があります。
また、元々の個人の基準値が低いために、病気で検査の値が高くなっていても、基準範囲の中に入っている、というケースも少なくありません。
一つの検査の値だけでなく、患者さんの状態や他の検査項目など、たくさんの情報を集めて医師は総合的に判断・評価していくのです。
検査値に影響を及ぼす変動要因
検査値が変動する要因としては大きく分けて以下の3つがあります。
・検査前プロセス
・検査プロセス
・患者さんの病態の時期
これらの要因を頭に入れながら、検査値を評価していきます。
検査前プロセスとは、検体を測定する前の過程をさします。その中には検体採取、採取時の患者さんの状態が含まれます。
検体を『正しく採取』し『正しく保存・正しい方法(温度や条件・時間)で搬送』し、『正しく処理(遠心条件・温度・添加試薬など)』をしなければ、いくら測定をしっかり正しく行っても、出てきた検査値に意味がなくなってしまいます。
また、患者さんの状態によっても検査値が変動していきます。項目によっては、座っている時、立っている時、横になっている時で検査値が変化しますし、検体採取の時間、食事の影響、年齢、性別、職業などでも変化していきます。
お薬を飲んでいる方は、その薬剤成分が測定に影響を与える場合もありますので、そういった情報もしっかりと集めて評価の参考にしなければなりません。
採血や診察の時に、食事のことや、お薬のこと等をしつこく聞かれるのは、そのためです。
検査プロセスとは、実際に検体を測定する過程のことをさします。
検査値は測定に使う試薬、測定機器の違いでも変わってきます。また、例えば同じ検体を10回測った時に全て同じ値が出るかというと、そうとは限りません。むしろ、同じ試薬・測定機器で同じ検体を10回測ったとしても、出てくる値が少しずつ変わっていく方が当たり前なのです。
我々臨床検査技師は、そういった「測定誤差」をなるべく小さくしたり、厳しく管理していく「精度管理」というものを徹底して行っています。
同じ試料を測定して同じ値が出るかどうかを「再現性(精密度)」と言いますが、「この範囲の中にあれば大丈夫という変動幅(許容範囲)」を求め管理しています。
再現性を見るための方法としては、同じ試料(検体)を同時に複数回測定する同時再現性、日にちを変えて同じ試料(検体)を測定する日差再現性があります。
そして、患者さんの病態の時期も考慮する必要があります。病気には、なり始めの初期段階や、急激に悪くなっていく時期、持続する時期、回復していく時期など、色々とあります。
疾患の初期段階や、回復している時期は検査値が基準範囲の境界あたりになることも多いので、患者さんの病態経過を観察しながら、検査の結果を評価していくのです。
基準範囲は目安の境界線です。厳しく白黒つけるためにあるのではありません。グレーな範囲が存在するということを覚えておいていてくださいね。