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ポートランドから、アメリカ西海岸カルチャーを考える
*本稿は番外編。ポートランド雑記です。
まちづくりやクリエイティブに携わる人にとって、ポートランドはどうやら憧れの街であるらしい。おしゃれ、クリエイティブ、DIY、サスティナブルな食。ウェルビーイングとくくれそうな様々なキーワードが、ポートランドのイメージの核にはある。
住みたい街全米ナンバー1、環境都市、安全な街、若者文化の街。メディアでも賛辞が踊る。
一方で、ジェントリフィケーションやともなうホームレスの多さについても言及されてもいて、負の側面も色濃い。私も、到着したその日に10代の白人の女の子が、閉店したスーパーの軒先に座り込んでいるのを見て(10代で女性のホームレスなんて最悪!)衝撃を受けたし、気配を消して道端で寝ているホームレスの毛布を踏みそうになったことがなんどもある(1ブロックにひとりはホームレスを見かける)。
ポートランドの家賃上昇の加熱を抑えるため、近年ではついに行政が介入して、高騰した家賃を払えなくなった人々を大家が追い出すことを禁止した(その影響か、住みたい街全米ナンバー1の座は現在、シアトルが握っており、シアトルでは目下ジェントリフィケーションが進行中)。しかしオレゴン州に消費税がないことを忘れてしまうくらいには物価は高く、ちゃんとしたレストランでランチを食べれば、12ドルほどが財布から飛んでいく。郊外の中規模都市といえど、東京と変わらない物価なのだ。観光ガイドの表紙そのままに、街中に多数あるブルワリーに併設されたテラスで、陽光を浴びながらビールを飲んでいられるのは、観光客か富裕層なのである。
ヒューマン・ファーストなダイバーシティ
ただ、それでもポートランドはまだまだ人気の都市である。近年アメリカで人気のある都市(シアトル、サンフランシスコ、ポートランド、そしてデンバー)には、共通点がある。人種差別が少なく、LGBTフレンドリー、生き生きとしたローカル・カルチャー・ムーブメントが存在して文化が豊かなところだ。
ポートランドにはインテルやナイキ、コロンビアの本社があり、これらグローバル企業が経済面を支えている。
ポートランドのホームレスの多さについては、実は優れた福祉政策があるため近隣都市から流入した結果でもあるらしい。
想像にすぎないが、こうしたピースフルでヒューマン・ファーストなマインドの背景には、ヒッピーカルチャーがある。東洋思想やスピリチュアリティに関心が高いのだ。スティーブ・ジョブズが禅にかぶれていたのは有名な話だが、そもそも彼はポートランドの大学でカリグラフィーを学んでいる。ポートランドは「文化的開拓者」「オルタナティブ」「東海岸のカウンター」としての、アメリカ西海岸カルチャーの中心地でもあるのだ。
「ここだったら住めそう」と思える街
実際に2ヶ月を過ごしたポートランドは、居心地の良い街だった。よく通っていたコミニティストア(コンビニみたいな店)のアルバイトのお兄さんとは、いつもおしゃべりしていた。お気に入りのレストランもできた。退屈したらフォレストパークのトレイルを黙々と歩いて森林浴もできるし、ブルワリーでクラフトビールやサイダーをのんでもいい。
いつも街のどこかで小さなイベントが行われていて、飽きない。まち歩きに疲れたらフードトラックでリーズナブルなエスニック弁当が買える。街の中心部にどーんとある、図書館並みの大型書店「Powell's パウエルズ」(密林天下の時代に強烈な存在感を放つリアルブックストア!)は、本もお土産物もたくさん置いてあって、何時間でも過ごせる。『ボヘミアン・ラプソディー』を観ようと出かけた映画館も心地よかった。上映を待つカフェでは、雨上がりの虹だってみた。
住んでいる人は「ここ数年でだいぶファンシーになったよ!」と話す。やはり地価高騰の影響だろう。ダウンタウンの外周には、建てかわったばかりの小洒落た集合住宅がピカピカな顔をして立ち並んでいもいた。まちは新陳代謝をしている。
まちの居心地は、人がつくる
ポートランドで感じたのは「コミニティ」の力。朝食のために訪れたカフェで、ダイバーシティグループでの違いの理解しがたさなどを、仲間とわいわい議論をしていたら、店主がやってきて、カードに「foward together」と書いてくれた。
いまやおしゃれでファンシーな街とされるポートランドだか、ここで生きる人は、この不確実な時代を生き抜くために、自分とは違う人をきちんと愛し、街を愛し、コミュニティに貢献し、文化の力を信じて、前に、前にと進む方法で戦っているのだ。そのエネルギーには感嘆しかない。
結局のところ、居心地の良いまちをつくるのは、行政でも大きな経済だけでもなく、まちを愛する人々の小さな営みである。支えあうコミュニティの力は大きい。
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