私の百冊 #04 『日本産コガネムシ上科図説 第1巻 食糞群』

『日本産コガネムシ上科図説 第1巻 食糞群』   川井信矢 https://www.amazon.co.jp/dp/4902649071/ref=cm_sw_r_tw_dp_x_GSTMFbRW6DZFQ @amazonJPより

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まことに残念ながら、現在、本書を新刊で購入することはできないようだ。出版した団体のホームページには――発行部数は「ご予約数+若干数」です。なお今回の重版分が完売した場合の更なる重版(3刷)の予定は現在のところございませんので、お早めのご注文をお願い致します。――と書いてあるので、恐らく完売してしまったのだろう。むろん、慶賀すべき事情である。(古書であれば普及版が5,000円ほどで買えます)

さて、「食糞群」という耳慣れない言葉の字面に、顔を顰めた方もいらっしゃるかもしれない。しかし、これを「フンコロガシ」と言い直してみたらどうだろう? なぜか、俄かに可愛らしく思えてくるのは、僕だけではないはずだ。――そう、本書は日本産の「フンコロガシ」を集めた図鑑なのである。

「フンコロガシ」というカタカナ表記を漢字に改めれば、「糞転がし」となる。「糞を転がす奴ら」くらいの意味だ。あのファーブルの『昆虫記』において、第1巻第1章に取り上げられた〈スカラベ・サクレ〉を、きっと皆さんは思い浮かべていることかと想像する。が、ここにふたたび残念なお報せを記さなければならない。我が国の食糞群の連中は、糞を転がさない。例外がないわけではないのだが、スカラベがそうするようにはしてくれない。そもそも我が国の連中は体が小さ過ぎて、転がしているのかどうかも怪しいくらいなのだ。

糞を転がしてはくれないとは言うものの、本書は極めて魅力的な一冊である。なんといっても彼らは美しい! 中でもオオセンチコガネは、やはりスターと呼ばれるべき存在だろう。体色の個体変異が驚くほどに多様化しており、金・赤・緑・藍・紫・等々、目が眩むばかりに美しい、見事なまでの金属的な光沢を誇る。

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スマホで撮影したものだからちょっとボケてしまっている部分もあり大変申し訳ないのだが、しかし、この色彩である。信じられるだろうか? これらは種が違うのではなく、個体変異である。僕らの身の周りにも、肌が色白だったり色黒だったり、髪が漆黒であったり赤茶けていたりするように、オオセンチコガネもまた変異する。しかしその変異の度合いが、人類とは比較にならないほど凄い、という話だ。

「食糞群」と呼ばれるくらいだから、これらは「糞」(草食動物の)を食す。「分解者」と言い直してもいい。馬や牛などが無遠慮に道端に落として行った糞を片付けてくれる。すなわち、人類が農耕を始めて以来、ずっと我々のすぐそばにいた、綺麗好きのありがたい友達なのである。しかしそれだからこそ、現在は身近に見ることがない。馬や牛などがその辺に糞を落として行くのどかな情景が、すでに消えてしまったからだ。

ところが、おもしろいことに、実は彼らの「聖地」なる場所が今でもある。馬・牛のように農耕を手伝ってはくれなかったものの、今現在も人々によって大切に扱われている有名な草食獣――「鹿」である。そう、あの奈良公園では、鹿とともに彼ら食糞群の甲虫たちもまた、大いに繁栄してきたのだ。奈良公園ではオオセンチコガネが多く見られるらしい。春日大社にお参りに行く機会があれば、是非、「ならまち糞虫館」にもお立ち寄り頂きたい。濃い青色(=瑠璃色)をしたオオセンチコガネ=「ルリセンチコガネ」に出会えるだろう。(綾透)

「ならまち糞虫館」HPはこちら → https://www.hunchukan.jp/

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