カニ( ̄▽ ̄)
何年前だったか…。
羽田空港の近くに東急系のホテルがあった。
空港の拡張や開発の波にのまれてこの地での営業は終わり建物も跡形もない…。地元が関東なので滅多に使うことは無いのだが…。
その時は早朝フライトだったので、兄弟で旅行を行くのにこちらのホテルに宿泊した。
明日の予定を打ち合わせつつ、のんびりと部屋で過ごしていた。
「あれ、カニ」
ユニットバスルームからの帰り、それを発見した弟の驚いた声。
「え、カニ?」
目線の先に近づくと、どれくらいそこに居たのだろう。
浜辺に居た時とは違う、絨毯の色に擬態したちょっと紫がっかったように感じられる臙脂色の浜辺におる小ちゃなカニがジッと身を潜めている。
「カニだね」
海辺のホテルだったら、逃がしてあげるという選択もあるが…。
川はあるが、河辺でもないし…。
ホテルに電話をする。
「いかがなさいましたか?」
フロントの丁寧な応対。
「部屋に」
「部屋に?」
「部屋にカニがいるんです。小さい、生きてるの」
「カニ?すぐに伺わせます」
フロントマンの復唱は不審さを帯びていたが、百聞は一見に如かずすぐに解決しようという気概が感じられた。
すぐに若いベルボーイさんのノックが部屋に響いた。扉を開く。
変わった依頼におっかなびっくりな様子で一礼して、先へと進む。
私たちが指さす方向を観る。
「あ、カニだ」
咄嗟に摘んで「痛っ」と叫ぶ。
「あ、大丈夫ですか?」「袋?」
一瞬にしてなんか慌ただしくなる。
「大丈夫です」と言いながら、時折、「ツツ」と言いながら風のようにベルボーイさんはカニを連れ去っていった。
前に止まった人が子連れだったのか、サーファーさんだったのか。
いまだになぜそこにカニ?という謎は永遠に謎なんだろうなぁ。