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海吉丈二歳篇3

第四章

 出かける準備をしていると、麗も帰宅し、同行することになった。
 女三人であれこれと相談し、丈は何度も服を着せ替えられた。
 手にミニカーを持たせていれば、それを走らせるのに夢中で大人しい。
「わぁ、可愛い」
「これは名画の天使だわ」
 ホワイトに極めて近いベビーピンクのワンピースの裾から、フリルレースのズボン裾が覗く。
レースの靴下に同色の革靴を履かせる。
 丈はさすらい派と判明したので、ハーネス付天使の羽を着けさせる。
 機嫌によっては手を繋がないと主張し、危ないからと説得されてもきかない。
自分の意志を通そうとして丈が癇癪を起こすので、世間の目などはどうでも良い。
 丈が安全に護られるのが、第一義だ。
 やはり誰が手を差し出しても、その手を凝視するだけで、丈は愛らしいお手々を出さない。
「丈ちゃん、お出かけの挨拶は?」
 喋らないが、言葉はかなり理解している。
 本部の執務室に真っ直ぐ向かう。

「ぱぱ」
「丈、お腹いっぱいか」
 男三人で真剣に話していたが、それを止めて父親は満面の笑みで、丈を迎える。
「お、その姿はお出かけか」
「ん、ぱ きなな んまぁ」
 父親の膝に手を掛け、寄りかかる。
 見上げて円らな瞳で懸命に喃語を話す。
「お父ん、丈が黄な粉が美味しいって」
 華が横から解説する。
 それを聞いて、父親は頷く。
「そうか、丈は黄な粉が好きか」
 間違いなかった。
 丈は力強く大きく首を縦に振る。
「車まで送ろう」
 丈を抱き上げ、父親は立ち上がる。
 時間があれば付いていきたいが、恐ろしく多忙だ。
 丈は父親の肩に掴まり、高い目線を愉しむ。
 手を繋ぐのは嫌うが、抱き上げられて運ばれるのは嫌がらない。

 車の中では、車窓の景色が見えればベビーチェアで大人しくしている。
 一心に車を目で追っている。
 誰が見ても女の子に間違えられる愛らしい美貌だが、心情はしっかりと男の子だ。
 男の子が好むものを好み、女の子が好むものには興味を示さない。
 兄姉がいると、兄達に寄っていくが一歳児を相手にする殊勝な兄はいない。
 邪険にされて、床に突っ伏して大泣きする。
 丈の泣き声には地獄耳の父親が飛んできて、叱責され、仕方なくかまってやる。
 それでも兄達に構われると嬉しそうだ。
 誰が教えた訳じゃないのに、男は男同士と思っている節が丈の態度にはある。
 乱暴な遊びにも果敢に入ろうとするが、それは兄達も怪我はさせられないと思っている。
 抱き上げられて、陣地外に出されてしまう。
 よちよちと懸命に戻るが、その度に外に戻されて地団駄を踏む。
 これは誰に訴えても、取り合ってもらえない。
 小中の男の子らしい遊びも年相応にさせてやるべきで、そこに丈が乱入すれば怪我の要因にしかならない。
 大人がいれば、抱き上げられて、指を咥えて見ているしかない。

 真逆に、女家族は蝶よ花よと丈に構いたがるのだが、丈は日常生活にも直結しているので、大半のことは大人しくしているが、兄達をみつければ、ささっとそちらへ行こうとする。




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