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出っ歯について考える②これは歯科医療か?美容医療か?

近年の少子化と年間自殺者が2万人越えの日本の現実からは疑う余地もあろうが、人間も生物である以上、自己の生存と繁殖が究極の目的のはずです。
この目的を果たすための手段が「飯を食う」と「異性に選ばれる」になるでしょう。
だったら食べる機能=かみあわせ は優れているほうがいいし、
見た目=歯並び はいいに越したことはないわけです。
この二つを同時に満たせることが、歯科矯正が長く支持されてきた理由だと僕は思ってきました。

しかし、「飯を食う」に関しては、明らかに「飲む」方向に向かっています。
食べることが疎かになり、食の選択基準が〈見栄えがよくて、簡単お手軽〉になってきています。
一口で入らない食べ物が食卓に上ることはなく、軟らかくなければ食べ物ではない!と言わんばかりにとろける触感が増え、そのため噛む力も必要なく、飲み込む力も要りません。
出っ歯でも支障がないのです。
こうなっては、あえて歯科矯正でかみ合わせを治す必要も無いと感じるのでしょう。
矯正歯科治療経験の有無を調べた調査でも、7.7%に過ぎません。
食に合わせて自分たちの能力を向上させるよりも、低下した機能に食を合わせる方法を取り続けているので、使わない機能は劣化していくばかりです。

一方、見た目に関しては、そんなもん趣味やろ!と言われそうですが、こんな研究があります。
一般人50名、矯正患者50名、矯正歯科医師50名に、好みの横顔の順位を調査した研究によると、すべてのグループで第一位は正常咬合者の横顔でした。
好みによるバラツキがあろうと思いきや、かみ合わせに優れ、バランスのいい横顔の持ち主を、無意識であっても支持する傾向があるようです。
かみ合わせが良くて、口元が整っている方が異性に選ばれやすいと言えるかもしれません。

しかしコロナ渦以降、美容医療への関心の高まりとともに、歯科領域でも、面倒なかみ合わせの治療は避けて、〈簡単お手軽〉な前歯のでこぼこの改善だけを希望する方が増えています。

機能の喪失を憂いての、かみ合わせ治療ではなく、美容目的の前歯の陳列。
ブライダル矯正とか、セラミック矯正などと銘打って、美容に熱心な20代~30代女子を中心に広がりを見せています。これは歯科矯正とは似て非なるものです。
しかもこれが安い。
物販ではないのだから、予算で治療計画を買うのもどうかとは思うが、これも世の流れなのでしょうか。
「飯を食う」も「見た目」も簡単お手軽なものへと変貌しつつあります。

歯科矯正ってムズかしくて、
歯に同じ力を作用させても、返ってくる反応は人によって様々だし、反応を見て対応を変えねばなりません。
簡単お手軽じゃないんです。上手くいかないことばかりです。
でも僕は古い男子なので、
歯科矯正の理想のゴールは
歯並びとかみ合わせ両者の改善と、それに伴う口元の変化だと信じたい。


参考文献
歯科疾患実態調査
朝井寛之,森川康之,他:側貌の審美的感覚に関する研究 第一報 一般人,矯正医,矯正患者に対する調査.歯科医学66 (4) : 308-313. 2003.

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